第059話 牽制返し
翌日、ちょっと遅めに起きた俺はテレビを見ながら2人を待つ。
そして、昼前になると、チャイムが鳴ったので玄関まで行き、扉を開けた。
「こんにちはー」
「久しぶり」
私服姿のキョウカとユウセイ君が立っていた。
「寒かったでしょ。入って、入って」
2人を招き入れる。
「急に冷えましたねー」
「山田さん、コタツ出した?」
ユウセイ君が靴を脱ぎながら聞いてきた。
「まだ早くない?」
「いやー、もう11月でしょ? ウチは出したぞ」
まあ、冷える時もあるからなー。
「出そうかなー」
「それがいいって。ピザ食いながら温まろうぜ」
俺達は話をしながらリビングに向かう。
「ミリアムちゃーん」
キョウカはリビングに来ると、すぐに部屋の端の段ボールに行き、ミリアムを抱えた。
「にゃー」
「よしよし。お姉ちゃんが恋しかったよね?」
「にゃー」
違うにゃって言ってるよ。
「キョウカ、人の猫を盗らないでってば」
「タツヤさん、すごく自慢してくるんですもん」
まあ、何回かそういうメッセージを送ったね。
「まあいいや。ルリ、コタツを出そうか」
コタツ机の前でちょこんと座って、チラシとにらめっこしているルリに提案する。
「良いと思います」
ルリの口角が緩んだ。
最近、やけに冷えてきましたねーって言っていた理由がわかった。
「ユウセイ君、カーペットも換えるからコタツ机をどけてくれる?」
「わかった」
男のユウセイ君に任せると、押し入れに向かう。
そして、押し入れを開け、コタツ布団とカーペットを持ち上げようとすると、足元にミリアムがすり寄ってきた。
「ミリアム、どうしたの? お姉ちゃんの所に行きな」
そう言うと、ミリアムが尻尾でコタツ机がある方を指す。
何だろうと思い、振り向くと、コタツをどかした場所にキョウカが腰を下ろしており、無表情でじーっとカーペットを見ていた。
すると、ゆっくりとした動作で何かを拾うと、それを顔の前に持ってきて、無表情のままじーっと見続ける。
それは1本の金色の長い髪だった。
あ、モニカ……
キョウカがいる場所は昨日、モニカが櫛で髪を解いていたところだ。
「………………」
キョウカはその金色の髪を無言でじーっと見ている。
俺達も言葉を発せずにキョウカを見ていた。
何故か、それほどまでに緊張感がある。
すると、キョウカの首がゆっくりと動き、ルリの方を向く。
ルリは一瞬、ビクッとしたが、すぐに首を横に振る。
「昨日、お客さんが来たんだよ。保険の営業」
異世界人であるモニカのことを説明するわけには行かないので嘘をついた。
「そうか……ちょっとトイレに行ってくる」
いつの間にか人斬りキョウカちゃんになっていたキョウカは立ち上がると、髪をゴミ箱に捨て、リビングから出ていく。
「………………」
俺達は無言でコタツを設置していった。
そして、設置が終わると、皆がコタツに入る。
「おー! コタツだ!」
キョウカはさっきまでの無表情ではなく、いつもの笑顔で戻ってきた。
「温かいよ」
「そうですかー? どれどれ……」
キョウカが何故か俺の隣に座り、コタツに入る。
しかも、なんか近い……
キョウカはコタツに入ると、何故か髪を纏めていたシュシュを取った。
シュシュを取ったことでキョウカの長い黒髪が広がり、女の子特有の甘い匂いが鼻孔をくすぐる。
そして、キョウカはそのままシュシュをコタツ机に置いた。
「温かいですねー。ピザは何にするんです?」
「これ」
「これです」
キョウカが聞くと、ユウセイ君が肉のピザを指し、ルリがシーフードのピザを指差す。
「キョウカはどれがいい?」
「うーん、私はチーズのやつが好きなんですけど、この前、食べましたしねー。これでいいと思います」
「じゃあ、この2枚にしようか。デザートも頼んでいいよ」
「えー、タツヤさん、いつも私を太らそうとしますよねー」
キョウカが笑った。
「そんなことないよ。勉強で疲れただろうし、お疲れ様ってこと」
「もう! じゃあ、これ」
即決した……
「ルリも頼んでいいよ」
「これにします」
ルリも即決……
「ユウセイ君も頼む?」
「このポテト、頼んでいい?」
この子、食うなー……
「じゃあ、それで頼もうか」
スマホを取ると、注文をする。
すると、30分程度で届いたので皆で食べだした。
「美味しいね」
「ですねー。いやー、本当に勉強は辛かった……」
キョウカがしみじみと答える。
「2ヶ月後には期末があるぞ」
「私、ユウセイ君のことを嫌いじゃないけど、そういうところはすごく嫌いだね」
キョウカがきっぱりと告げた。
「まあまあ……2人共、頑張ってね。受験がないだけマシでしょ」
「まあなー」
「受験する人達は1年生の時から勉強を始めてますもんね」
3年は地獄だったなー。
大学1年は遊びまくったけど。
「2人はやっぱり退魔師をするんだよね? このまま協会でやるの? それとも実家でやる?」
「あー、どうだろう? そこまで考えてなかった」
「そうなの?」
意外。
「俺も兄貴がいるんで跡継ぎはそっちなんだよ。手伝うか、協会で独自にやるか。うーん……」
そういうことか。
「まあ、時間もあるし、ゆっくり考えなよ」
「そうする」
ユウセイ君は頷くとピザを食べるのを再開する。
「あ、私は協会でやりますので一緒に頑張りましょう」
キョウカは協会らしい。
「実家はいいの?」
「いいです、いいです。それよりも大事なことがあるんですよ」
へー……
「頑張りましょう! ミリアムちゃんもお姉ちゃんと一緒が良いよねー?」
キョウカはピザを食べているミリアムを撫でた。
「にゃー」
「そう? そんなにお姉ちゃんのことが好きなんだー」
「にゃー……」
絶対に『そんなこと言ってないにゃ……』って言ってる。
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