第058話 牽制
クロード様との交渉が終わってから2週間が経った。
その間、ほぼ毎日、夜になると、モニカがやってきて村の報告がてらにインターネットを見にきていた。
夜に来て、ご飯を食べ、風呂に入って調べ物をするのがモニカのルーティンとなっている。
もちろん、今日も来ており、一緒に夕食を食べていた。
「モニカ、こっちの世界はどんな感じ?」
器用に箸で煮魚を食べているモニカに聞く。
「素晴らしいですね。すべての物の質が良いですし、大量生産で安価です」
「確かに安いね」
「はい。それと気になったのですが、この世界には魔法がないのはわかりました。でも、タツヤ様もタダシ様も魔法使いですよね?」
あー、それか。
「実はさ、この世界にも魔法使いはいるんだよ。でも、おおっぴらにしてない」
「そうなんですか?」
「うん。ただ、悪魔もいてね。そういう悪魔を秘密裏に対処する組織があるんだよ。俺はそこで働いている」
なお、その同僚からは【テスト終わったー!】【いえーい!】というメッセージが立て続けに来ている。
「科学が発展しすぎて魔法が受け入れられないんでしょうかね?」
「多分?」
昔のヨーロッパでは魔女狩りなんかもあったみたいだし、宗教もあるのかもしれない。
「うーん、逆に魔法製品をこちらで売り、小麦なんかを仕入れようとも思ったんですけど、やめた方が良いですね」
「だね。俺も向こうの金貨とかを売れないかなと思ったんだけど、向こうの物をこっちで売るのはやめた方が良い。こっちは情報管理が徹底され過ぎているんだ」
「管理する側は良いこととは思うんですが、過剰なような気がします。まあ、異世界ですからそういう常識も違うんでしょうね」
犯罪が多いからなー。
政府も警察も大変なんだろう。
「村の人の小麦粉くらいなら俺の給料で買えるよ。高くないし、収入は結構あるからね」
この前、50万円が振り込まれた。
その日の夕食はステーキだった。
「それはありがたいですね。まだリンゴの取引ができてないですし」
モニカから聞いたのだが、数日前にクロード様の使者が村に来たらしい。
用件は商人ギルドで揉めているから少し待ってほしいとのことだった。
どうやら誰がリンゴを扱うかで揉めているらしい。
「そうだね。あ、あのさ、給料を払えなくてごめんね」
以前から気になっていることを謝る。
「それは問題ありませんよ。それに夕食をご馳走になり、お風呂まで入らせてもらえれば十分です。私の家、シャワーしかないですし」
モニカの家は魔道具が揃っている。
それでも浴槽はないらしい。
「うーん、でもなー……こっちの世界のお金いる? それなら払えるけど」
「でしたら服を買ってほしいです。実際に街並みや店を見てみたいですし」
服か……
女物はわからん。
「ルリ、お願い」
「わかりました」
ルリはおしゃれさんだし、大丈夫だろう。
俺達はその後も話をしながら夕食を食べる。
そして、食後にまったりしていると、スマホの着信音が鳴った。
「誰にゃ?」
ミリアムが聞いてくる。
「キョウカだね。しゃべらないで」
「わかってるにゃ」
ミリアムが頷いたので通話ボタンをタップした。
「もしもし?」
『あ、タツヤさん! テスト終わりましたー!』
知ってる。
何度もメッセージが届いていたし。
「お疲れ。どうだった?」
『前回よりは良い出来です! 50点は固いかと!』
50点で自信満々か……
この子、本当に勉強ができない子なんだな……
「頑張ったねー」
『はい! 頑張りました!』
「ユウセイ君は?」
『ユウセイ君はいつも通りだなって涼しい顔で言ってました。どうせ平均80点を軽く超えると思いますね』
ユウセイ君、賢いんだなー。
俺はいつも70点くらいだった。
「すごいね。そのユウセイ君はバイト?」
今日は金曜だ。
『ですねー。それで私が電話したんですけど、お仕事を再開しませんか? その話し合いを明日にでもどうかなーって』
明日か……
まあ、特に何もないな。
「いいよー。お疲れ様会でもしようか。何か食べたいものでもある?」
『ユウセイ君がピザ食いてーなーって言ってました! あ、あの、お邪魔しても良いですかね?』
「ちょっと待ってね……ルリー、明日、キョウカとユウセイ君が来るんだけど、昼にピザでもいい?」
キッチンで洗い物をしているルリに確認する。
「良いと思います」
良いらしい。
ルリはピザが好きだしな。
「大丈夫だって」
『良かったです! じゃあ、明日、昼前くらいにユウセイ君と伺います!』
「わかった」
『はーい!』
『姉ちゃん、さっさと風呂入れよー!』
ん?
『うるさい。お姉ちゃんは大事な電話をしているんだから黙ってろ』
あ、人斬りキョウカちゃんだ。
『じゃあ、俺が先に入るぞー』
『お姉ちゃんが先に入る! あ、すみませーん』
キョウカが元に戻った。
「いやいいよ。じゃあ、明日ね」
『はい。最近は寒くなってきましたし、温かくしてください』
母親か?
『姉ちゃーん! まだー? ……うわっ! 刀を抜くなよ!』
人斬りキョウカちゃんだなー……
「弟君に悪いし、切るよ。また明日ね」
『すみません。おやすみなさい』
「おやすみー」
通話を切ると、スマホをテーブルに置いた。
「テンション高かったにゃー」
ミリアムが呆れる。
「テスト終わりだからね。俺も昔はそうだったよ」
無駄に夜更かししたりしたなー。
懐かしい。
「さっき言っていたお仕事仲間です?」
お茶を飲んでいるモニカが聞いてくる。
「そうそう。2人とチームを組んでいるんだけど、2人共、まだ学生なんだよ」
「おいくつなんですか?」
「16歳と17歳だったかな?」
まだキョウカの誕生日は来てないし、合っていると思う。
「へー……お若いのにすごいですね」
「ホントだよね」
明日の予定を決めると、魔法の勉強をすることにした。
モニカも風呂に入ると、インターネットでこちらの世界のことを調べ始める。
そして、ルリが風呂から上がったので俺も風呂に入り、リビングに戻ると、モニカがルリと一緒にコタツ机で髪を解いていた。
「あれ? どうしたの?」
珍しいなと思い、モニカに声をかける。
「ルリさんに櫛を貸していただいたんです。櫛も柔らかくて質が良いですね」
へー。
まあ、モニカは髪が長いし、良いかもしれない。
「それも献上品?」
「良いと思います」
やはりそういうのが好まれるのかもしれない。
俺は詳しくないし、モニカに任せた方が良いだろう。
「その辺は任せるよ」
「お任せを……さて、こんなものでしょう。今日は帰ります」
モニカが櫛を置き、立ち上がった。
「うん。おやすみ」
「はい。ありがとうございました。では、また」
モニカは恭しく頭を下げると、自分の家に帰っていった。
「俺も軽く飲んだら寝るかなー?」
「ビールにします? ストゼロにします?」
ルリが聞いてくるが、軽くって言ってんじゃん。
ストゼロって……
「ビールかなー?」
そう言うと、ルリが立ち上がり、キッチンに向かった。
そして、缶ビールを持ってきてくれると、コタツ机に置く。
「ありがとー。ミリアムも飲むか?」
「嫌にゃ。苦いにゃ。マズいにゃ」
子供舌だもんなー。
俺はビールを一本だけ飲むと、この日は就寝した。
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