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第057話 女の目にゃ ★


 新村長である山田とモニカ、それにフェリクスが部屋を出ていき、しばらくすると、フェリクスが戻ってきた。


「取引は?」

「終えました。確かに99個のリンゴを受け取りました」

「そうか……」


 本当に100個も……


「100個のリンゴを空間魔法に収納できるのはすごいですね」


 フェリクスもそう思うらしい。


「大魔導士の孫は大魔導士ということだろう」


 私はカットされたリンゴをもう一つ、口に入れる。


「リンゴはどうですか?」

「食べてみろ」


 私が勧めると、フェリクスが一切れのリンゴを手に取り、食べだした。


「これは……」

「すごいだろ? こんなに甘くて美味い果実は王都の一流レストランでも食べたことがない」

「確かに……これを月に100個も?」

「最低でも、だ。本当はもっと出せるだろうな。あの女狐め……」


 男を喜ばせるしか能がなさそうな見た目をしているが、中身は計算高い政治家であり、商人だ。


「いくらぐらい供給できるんですかね?」

「少なく見積もっても倍か……いや、もっとだろう」

「あの森にそんな果実が生える木があったのでしょうか?」

「あるわけないだろ。あの山田とか言う魔法使いが用意したんだ」


 我が家は長年、ここを治めているんだぞ。

 そんな果物が生る木があったらとっくの前に見つかっている。


「やはりそうですか……山田殿のあの服装は見たことがないですし、異国の者ですかね?」

「確実にな」


 山田タツヤ……

 名がタツヤで苗字が山田だろう。

 この国は名が先にくる。

 つまりあの山田は文化圏が異なる国の人間だ。


「異国の者が村長になっていいものですかね? しかも、将来的には領地貴族になるつもりでしょう?」


 リンゴで儲ければそういうことになる。


「いいわけないだろ」

「王都に報告は?」

「するわけがない。そんなことをする奴は貴族失格だ」


 目の前に利益が見えているのにそれを捨てるバカがどこにいる?


「お認めに?」

「向こうが仲良くやろうって言ってきているんだ。仲良くしようじゃないか」


 あいつらはこのリンゴを私に売れと言っている。

 日持ちがするなら直接、王都に売り込めばいいのにわざわざ私のところに持ってきたのはそういう意味だろう。


「争いたくない感じですかね?」

「争いになったらまず勝てないからな。賢い奴らだ」


 利益を独占しようとしないところは評価しよう。


「それで銀貨1枚ですか? さすがに安すぎるような気がしますが……希少価値を考慮すれば金貨1枚でも安いくらいです」

「如何なる商品も知らなければ何もできないとモニカが言っていただろう? この99個のリンゴを安価で王都に売り込んでこいってことだ。次からはふっかけてくるぞ」

「嫌な女ですなー……」


 まったくだ。

 計算高い女程、かわいくないものはない。


「圧力でもかけますか?」

「いや、目先の利益より、長期的な利益だ。こちらは買ったものを売るだけで儲けが出るんだぞ。欲張るところではない」


 無理をしてすべてを失うのは愚か者のすることだ。


「わかりました。問題は商人ギルドですな。どうします? 我が家が直接、王都の商家と取引するのが一番ですが……」

「商人ギルドがそれを黙って見ていると思うか?」

「思いません。猛抗議をし、さらには勝手に南の村に向かうでしょう」 


 だろうな。

 しかし、これほどの商品なら商人ギルド内でも揉めそうだ……


「ハァ……めんどくさい連中だ。フェリクス、商人ギルドのギルド長を呼んでくれ」

「かしこまりました」


 フェリクスが退室すると、もう一切れのリンゴを口に入れる。


「美味いな……」


 まあ、きっと個人的に献上くらいはしてくれるから良しとしよう。




 ◆◇◆




 俺達は取引を終え、屋敷を出ると、町を出るために大通りを歩いていく。


「あんなもんで良かったの?」

「はい。100点満点です」


 そうなの?


「リンゴが銀貨1枚でいいの?」

「最初の営業ですよ。まずはリンゴの良さを知ってもらい、広めてもらいます。商売は次からですよ」


 なるほどね。


「じゃあ、人頭税は今度だね」


 金貨10枚しかないし、30枚も払えない。


「そうなりますね。次の取引で人頭税、魔道具、馬車などを買いましょう。その辺のことは我々がやります」

「お願い」


 実に頼りになる子だ。


「それと申し訳ありませんが、もう少し、あちらの世界の勉強をしてもよろしいでしょうか?」


 モニカが申し訳なさそうに聞いてくる。


「いいよ。いつでも来てもいいから」

「お邪魔ではないでしょうか?」

「そんなことないよ。村のためだし、モニカがいてくれると、部屋が華やかになるしね」

「……ありがとうございます」


 モニカが足を止めて感謝してきた。


「どうしたの?」

「いえ……あの分かれ道まで歩いて、転移で帰りましょう」

「そうだね」


 俺達は町を出て、分かれ道まで戻ってくると、転移で研究室の前まで戻ってきた。


「すぐに帰れるのは本当に便利だわ」

「さようですね。タツヤ様、私はクロード様との話をダリルさんに話してきます……あ、あの、夜に伺ってもよろしいですか? あのインターネットで勉強したいんです」

「いいよ。あれだったら晩御飯も食べる?」

「よろしいので?」


 全然、構わないと思うが……


「パンとかの方が良いかな?」

「あ、いえ。できたら私に合わせずに普通でお願いします。どういう料理があるのかも知りたいので」


 なるほど。


「じゃあ、ルリにお願いしてみるよ」

「ありがとうございます……」


 モニカは深く頭を下げると、頭を上げ、俺をじーっと見てくる。


「どうしたの?」

「いえ……このモニカ、必ずやタツヤ様のお役に立ってみせます」


 いや、すでに十分すぎるほど、役に立っているんだけど……


「そう? これからもよろしくね。一緒に頑張ろう」

「はい。それでは私はこれで失礼します」


 モニカはそう言うと、村に向かって歩いていった。


「真面目な子だなー……」

「そう思うにゃ?」


 肩にいるミリアムが聞いてくる。


「そうでしょ」

「そうか、そうか……じゃあ、それで」


 えー……

 含みを持たせる猫さんだなー……


お読み頂き、ありがとうございます。

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