第056話 リンゴを売り込む
俺達はついにこの辺りの領主であるクロード様と対面した。
座っているクロード様は思っていたより、若い。
もしかしたら俺と同じくらいかもしれない。
「クロード様、山田殿です」
クロード様を見ていると、フェリクスさんが紹介してくれる。
「はじめまして。私が南にある開拓村の村長を務めております山田タツヤです。お会いできて光栄です」
「うむ。私がクロードだ」
クロード様が頷いた。
「先日、このモニカが報告したと思いますが、この度、開拓村の目途が立ち、国より正式に村として認められました。これもクロード様のご協力あってのことです。誠に感謝いたします」
実は何をしてくれたのかをわかっていないが、一応、頭を下げておく。
「たいしたことはしてない。まあ、私も国に仕える者として開拓村の成功は大変喜ばしい。それで山田殿が自分で管理すると聞いたが、まことか?」
「はい。そのようにしようと思っております。幸い、このモニカも前村長だったダリルも力を貸してくれますし、皆で協力していこうと思っております」
頑張ろう!
「そうか……まあ、わかった。とはいえ、この町から近いわけだし、何かあれば言ってほしい。できるだけの協力はしよう」
ありがたい言葉だ。
「ありがとうございます。早速なのですが、一つ協力をお願いしたいと思っております」
「うむ。先日、モニカ殿からあらましだけは聞いている。商人を紹介してほしいとのことだったな?」
「はい。村としての目途が立った理由がリンゴという果物が生る木を発見し、それの安定供給が可能になったからです。それでリンゴを卸す商家を探しているのです」
「それについては可能だ。私も領主として商人ギルドに顔が利くし、取引のある商人を何人も知っておる。とはいえ、そのリンゴなる果物がどのようなものかを知らないと紹介はできない」
商人ギルド……
組合みたいなものだろう。
「もちろんです。本日、そのリンゴをお持ちしました」
そう言うと、空間魔法からリンゴを取り出す。
「空間魔法か……タダシ殿の孫だったかな?」
「はい。祖父が先日、亡くなり、祖父の意向もあって跡を継ぎました。それであの村にやってきたのです」
「そうか……わかった」
爺さん、有名人だったのかな?
「クロード様、これがリンゴでございます」
クロード様がついているデスクにリンゴを置いた。
すると、クロード様がリンゴを手に取り、じっくり見だす。
「ふーむ……結構、しっかりしているな」
リンゴは硬いからな。
「これならそこまで傷付かずに運搬も可能かと」
「確かに。して、味は?」
「そのリンゴを実際に食してもらうのが一番かと」
「それもそうだな……フェリクス」
クロード様が声をかけると、フェリクスさんが近づいてくる。
そして、リンゴを受け取ると、退室していった。
「山田殿。貴殿は魔法使いということだが、どれくらいのものなのだ?」
そう言われてもな……
「申し訳ありません。実は魔法使いになったばかりで修行中の身なのです。祖父が亡くなってから魔法使いになったもので」
「なるほど……短期間で空間魔法を習得したということか。それはさぞ有望なのだろうな」
「どうでしょう? あまり比較する者がいませんので」
そもそもモニカ以外の魔法使いを知らない。
「ふむ……あ、そうだ。山田殿、正式に村として認められたのなら村の名前を決めてほしい」
名前か……
「リンゴ村?」
モニカに確認する。
「わかりやすくて良いと思います」
「じゃあ、そうしようか。クロード様、リンゴ村ということで」
「わかった」
俺とクロード様がその後も話をしていると、フェリクスさんが皿を持って、戻ってくる。
もちろん、皿の上にはカットしたリンゴが乗っていた。
フェリクスさんがそのままデスクに皿を置くと、クロード様がカットされたリンゴを手に取る。
「ふむ……これがリンゴか。どれ……」
クロード様がリンゴを一口食べた。
「なるほど……」
「いかがでしょう? 私共としてはこれを名産として売り込みたいと思っております」
「うむ。いけると思う。瑞々しいし、甘い。これは売れるだろう。それでどれだけ供給できるのだ?」
「その辺りについては私から説明いたしましょう」
モニカが前に出る。
「ふむ」
「リンゴにつきましては月に最低でも100個以上はお約束できると思います」
スーパー肥料があるし、もっと卸せると思うが、ここはモニカに任せよう。
「ほう? そんなにか?」
「はい。またこのリンゴは日持ちもするので王都までも供給可能です」
「王都にもか……」
明らかにクロード様の目の色が変わった。
「はい。ですが、先日も申した通り、我らにはこのリンゴを売るすべも王都まで運ぶすべもありません。ですので、是非ともクロード様のお力添えをいただければと考えております」
「わかった。して、このリンゴをどれくらいの価格で売るつもりだ?」
「まだどれくらいまで供給できるかは未知数ですので、とりあえず、最初は卸し先に銀貨1枚くらいと考えております」
高いような安いような……
わからないな。
「銀貨1枚? これをか?」
「はい。最初はそれくらいと思っております。如何なる商品も知らなければ何もできません」
「……わかった。リンゴをすぐに100個、用意できるか?」
クロード様がそう言うと、モニカが俺を見てくる。
俺が話せということだろう。
「クロード様、本日はリンゴを100個ほど持ってきております。あ、いえ、99個でした」
1個は食べちゃった。
「これを100個か……いや、わかった。とりあえず、その100個は私が買い取ろう。後日、商人をそちらの村に向かわせる。こちらも商人ギルドと相談しないといけないのですぐには決められないのだ」
商人も何人もいるし、ギルドがあるならすぐには決められないわな。
「わかりました。では、リンゴをお渡しします」
「うむ。フェリクス、任せたぞ」
「かしこまりました。山田殿、モニカ殿、別室に参りましょう」
俺達はフェリクスさんにそう言われたので部屋を出た。
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