第053話 いらっしゃい
「驚かないね?」
「正直に申しますと、タツヤ様はあの村には住んでいないんだろうなと思っていました。服装を始めとする何もかもが森に住んでいるようには見えませんでしたし、あのスーパー肥料はもちろんですが、持ってくる農具が明らかに異質でした」
「農具も?」
「はい。精巧すぎることもですが、何よりも材料が変です。あれが鉄とは思えません」
ステンレスだからね。
「なるほど。それで別のところから来ていると?」
「転移か何かで異国から来ていると思っていました。だから滅多に姿を現さないのだろうと」
ほぼ合っている。
「そうだね。こっちでの生活もあるし、仕事もあるんだよ」
「ですか……お忙しいのに村長をお願いして申し訳ありません」
モニカが頭を下げるが、村長をお願いしてきたのはダリルさんだ。
「いや、それはいいよ。俺にも目的があるからね」
「それがスローライフですか?」
「そうだね。スローライフっていうのは簡単に言うと、のんびりと過ごすことかな。俺は都会で働いていたけど、働いてばっかりで何もできなかった。ただ生きるために働くという生活を繰り返すだけ」
何のために生きているんだろうと思ってしまう。
金のためか仕事のためか……
「ああ……わかる気がしますね。宮仕えや兵士が引退したら田舎に帰って隠居するようなものでしょう」
「そんな感じだと思う」
「だからあの村をそこまで発展させる気もないし、王や英雄になる気もないんですね」
「悪いけど、そうだね。ゆっくりと楽しんで生きたいよ」
忙しさはもういい。
「かしこまりました。村人の意向もそっちですし、そのような方向で進めましょう」
「お願い」
「はい。それといくつか質問があります」
まあ、あるだろうね。
「なーに?」
「ここは異世界でしょうか?」
「そうなるね。俺も爺さんもこの世界の人間だ」
「例の肥料や農具はこちらの世界の物ですか?」
そう思うわな。
「農具はこちらで買ってきた物だね。肥料も買ったんだけど、爺さんの器械で改良している。さすがにこっちの世界でも農産物をあそこまで早く収穫できないよ」
「やはりあの肥料はそうですか……」
「わかるの?」
「タツヤ様達の反応でわかります」
あー……驚いていたもんな。
そりゃわかるわ。
「そういうことだね。あれはすごいわ」
「そうですね。リンゴもこちらの世界の果物ですか?」
「うん。ミリアムがリンゴが良いって言うもんだから」
リンゴが好きな猫さんなのだ。
よくデザートにも出る。
「なるほど……」
「モニカ、今日、君をここに呼んだのはそれを踏まえて村をどうするのか、スローライフを目指すにはどうすればいいのかを相談するためなんだよ」
「相談ですか……そうなると、まずこの世界がどういうものか、何があり、何がないのかを知る必要があります」
それはわかっている。
「ルリ、インターネットの使い方を教えてあげてくれる?」
「わかりました。モニカさん、こちらにどうぞ」
ルリがモニカをパソコンの前に連れていくと、説明をしながらパソコンを起動させる。
「出前でも取ろうか? 何が良い?」
「モニカさん的には和食のお米よりパンの方が良いですね。ピザにしましょう。私はシーフードのやつが良いです」
あ、ルリが食べたいんだ。
昨日、食べたのに……
「わかった。そうしようか」
俺は昨日のチラシを持ってくると、ミリアムと相談しながらピザを決め、電話をして、注文する。
そして、しばらく待っていると、ピザが到着したので皆で食べだした。
「これ、美味しいですね。パンの上にチーズなどの具材が乗っているのはわかりますが、味付けが全然、違います」
モニカがピザを食べながら称賛する。
「美味しいよね」
「美味しいです」
「美味しいにゃ」
俺達も頷いた。
「こちらの世界はかなり発展しているように思えます。魔法ではなく科学が発達したからでしょうね。あちらの世界は魔法という便利なものがあるからそれに頼り、一般的な教育、探究心が低下しているのでしょう」
回復魔法があれば医学は発展しないし、攻撃魔法があるから武器が発展しないわけだ。
しかも、それらの魔法を使える人間が限られている。
「村として、教育するのはどう?」
「やめた方がいいでしょう。嫌な言い方をしますが、民衆に知識を持たせると、発展はしますが、その分、不満などから問題事が起きます。スローライフを目指すなら今のままで良いと思いますよ。さすがに識字率は上げたいですけどね」
確かに文字の読み書きくらいはなー……
「子供くらいには教えてた方が良いかなー?」
「だと思います……御馳走様でした。すみませんが、もう少し見させてください」
モニカはピザを食べ終えると、パソコンの前に行き、にらめっこに戻った。
俺達も食べ終えると、ルリがモニカに教え始めたので片付けをし、ミリアムと爺さんの本を読む。
「他に覚えておいた方が良い魔法ってある?」
「そうにゃー? 防御の魔法なんかが良いかも」
「どんなのがあるの?」
「風を起こして矢を防いだり、土魔法で壁を作るとかがあるにゃ」
壁か……
「森の方には結界があるらしいけど、門のところを土魔法で壁を作るのはどうかな?」
「良いと思うにゃ」
「じゃあ、その魔法を覚えていくか……」
俺は風で矢を防ぐ魔法と土で壁を作る魔法をミリアムに教えられながら学んでいった。
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