第052話 信頼
俺達が家で昼食を食べ終え、村の門まで戻ると、すでにモニカが待っていた。
「遅れてごめん」
「いえ。主を待たせるわけにはいきませんから」
この子、いつからここにいたんだろう?
「ご飯、食べた?」
「もちろんです。私は見た目通り、体力がないですし、食べないと倒れます」
まあ、強そうには見えない。
「じゃあ、行こうか」
「はい。お願いします」
俺達は昼前に転移した所まで戻ると、道をならす作業を再開する。
そして、休憩をはさみつつ、進んでいくと、空が茜色に染まりだした。
「タツヤ様、今日はこの辺に致しましょう。もう半分は過ぎておりますし、明日には町までの道の整形が終わると思います」
モニカが止めてきたので手を止める。
「ハァ……疲れた。年は取りたくないね」
「まだお若いでしょう」
「俺、35歳だよ?」
「まだまだですよ」
そうかねー?
「そういえば、モニカっていくつなの?」
「私はこの前、21歳になりましたね」
若いねー。
「モニカ、君はすごい優秀だと思う。正直、魔法はそこそこだけど、本当に頭が良いし、先見の明もある」
「気を使って頂き、ありがとうございます。火魔法すら使えない落ちこぼれです」
あ、うん……
何とも言えない。
「昼の言葉を返すようだけど、本当にこの村でいいの? モニカなら他所でも出世できると思うよ」
「そうかもしれませんね。クロード様にも誘われましたし、王都の友人にも引き止められました」
やっぱり……
どう見ても為政者の才がある。
「そっちには行かないの?」
「行きません」
「あの村がいい?」
「もちろん、あの村もですが、私はタツヤ様に忠誠を誓いました。あなた様は私なんかとは比べ物にならない才があります。それこそ英雄でも王にでもなれるでしょう」
それは無理。
「どうも。モニカ、俺の目的はスローライフだ」
「スロー……? 失礼。どういう意味でしょう?」
この世界にスローライフという言葉はないか……
「うーん……」
俺はモニカの顔をじーっと見る。
「………………」
モニカは表情一つ変えずに俺の言葉を待っていた。
「この子を巻き込んだ方が良いと思う?」
モニカの顔を見たまま2人に聞く。
「あちらの世界の仕事や魔法の研究のこともあります。こちらのことは極力、モニカさんに任せるのもありかと思います」
「お前に任せるにゃ。ただ、こいつは絶対に裏切らないにゃ」
2人は賛成か。
「モニカ、秘密は守れる?」
「当然です。拷問されても口を割りません」
拷問って……
そんな目に遭わないようにしたいね。
「わかった。帰ろうか」
「はい」
モニカが頷いたので転移を使う。
すると、村の門ではなく、研究室がある家の前に転移した。
「ここは?」
モニカが周囲を見渡す。
「俺の家の前。ほら、あそこにある家が道を塞いでる執務をする家」
道の先にあるログハウスを指差した。
「なるほど……あの、家というのは? 何もありませんけど」
ん?
「山田、結界があるからモニカには見えないにゃ」
「許可を出さないと見えませんし、入れませんよ」
あ、そういえばそうだった。
「モニカもこの家に入っていいからね」
「ハァ? この家と言われましても……家ですね」
モニカは首を傾げていたが、すぐに目の前にある家をじーっと見る。
「見えた?」
「はい。急に現れました……これが結界ですか……これほど厳重なんですね」
「爺さんの研究成果があるし、見てはいけないものがあるからね」
見てはいけないというか、この世界の人間には知られてはいけない扉がある。
「そうですか……」
「モニカ、ついてきて」
「はい」
俺達は研究室に入る。
「あ、モニカ。悪いけど、靴は脱いで」
こっちの世界は家でも土足だ。
まあ、欧米なんかと一緒。
「土足厳禁ですか……確かにきれいですもんね」
モニカがそう言って靴を脱いだ。
「ここが爺さんの研究室だね。魔法の研究なんかをしていたと思う」
「見たことがない器具がありますし、本も多いです。すごいですね」
「実はまだ俺もよくわかってないんだけどね。勉強中」
魔法は楽しいから苦ではないけど。
「大変ですね。村のことは私やダリルさんにお任せください」
「うん。そのつもり。こっちに来てくれ」
モニカを誘い、例の扉を開ける。
そして、扉を抜けると、モニカが廊下で立ち止まった。
「モニカ?」
「……いえ」
「こっちだから」
「……はい」
モニカは何かを察したようだが、大人しくリビングまでついてきてくれる。
「座ってよ。ルリ、悪いけど、お茶をお願い」
「わかりました」
ルリがキッチンに行ったので座る。
すると、俺をじーっと見ていたモニカもおずおずと座った。
「あ、床は嫌だった?」
「いえ……綺麗ですので問題はありません。ちょっと慣れていないだけです」
向こうはテーブルと椅子だもんな。
「急に招いて悪いね」
「いえ……」
モニカは目だけをキョロキョロと動かし、部屋や窓の外を見ている。
そうこうしていると、ルリがお茶を持ってきてくれたので一息ついた。
「今日はお疲れ。モニカは村で待ってても良かったのに」
「いえ、私は秘書ですので案内致します」
案内って言っても一本道だったけどね。
「モニカ、ここがどこかわかる?」
「タツヤ様の家……でよろしいでしょうか?」
「そうだね」
「何もかも違いますね。生活様式も外の風景も。そして、何より空気が違います。まるで別世界に来たように感じます。転移でしょうか?」
すげー……
核心をついている……
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