第051話 目指せ、ホワイト!
準備を終えた俺達は村の北にある門に向かう。
すると、すでにモニカがおり、俺達を待っていた。
モニカは外套を羽織っており、靴もいつものサンダルみたいな靴ではなく、ちゃんとブーツだった。
「お待たせ」
「いえ。荷物が少なくて良かったです。私は空間魔法が使えませんので」
そうなると、20日以上の旅は大変だったんだろうな。
「王都まで大変だったでしょ。遠出させてごめんね」
「いえいえ。あれが監査官として最後の仕事でしたし、王都で親や友人とも会えましたよ。それにこんな私を評価してくださったタツヤ様へ報いなくてはいけませんから」
給料すら払ってないんだが……
早く金を作らないとな。
「苦労をかけるね」
「苦労なんかありません。私の目には成功が見えております。このモニカにお任せください。必ずや成功に導いてみせます」
すごい自信……
「じゃあ、行こうか」
「はい」
俺達は門を出ると、道を見て、立ち止まった。
初めて村の外に出たが、ちょっと先まで森だが、その先は所々に木々が生えているくらいの草原だった。
森から平原にかけて、土の道がずっと続いているのだが、確かに道がボコボコであり、ここを馬車で通ったら跳ねたり、車輪がダメになりそうな気がした。
「すごいね」
「はい。雨が降ると、ぬかるみになり、進めなくなります。これをどうにかしないと馬車を買っても木材を運べませんし、リンゴを買う商人も寄り付きません」
確かになー。
運べなきゃ意味ないし。
「わかった。どうにかしよう。ルリ、どうする?」
「一番良いのは石の舗装でしょうが、石材がありません。ですので、土魔法で土を整形し、圧縮をかけるべきかと」
それならできそうだな。
「やってみる」
俺は前に出ると、土魔法を使い、土を操作していく。
すると、道の土が波打つように動き、綺麗になっていった。
「これではダメなんだよね?」
「はい。雨が降ったり、馬車が通ればまたガタガタになります。ちゃんと締め固めをしないといけません」
「よし」
俺は綺麗になった道に圧縮魔法をかけていく。
とはいえ、見た目に変化はない。
「わからん。大丈夫かね?」
首を傾げると、モニカが腰を下ろし、土に触れた。
「かなり硬いですね。これなら問題ないかと……いずれは舗装もしたいですが、今はこれで十分すぎる程です」
これでいいらしい。
「じゃあ、進みながらやっていくよ」
俺はその後も道の整形をし、締め固めるという作業を繰り返していく。
一度にできる長さは10メートル程度なので進むペースは少し遅い。
それでも繰り返し魔法を使って進んでいくと、かなり距離を進むことができた。
「素晴らしい魔力ですね。普通はもっと前に魔力が尽きると思います」
モニカが称賛してくる。
「ありがとう。でも、魔力よりも体力だよ。疲れた……」
もう2時間は歩きながら魔法を使っている。
ルリが回復魔法を使ってくれているが、先に体力が尽きそうだ。
「そろそろお昼ですし、休憩にしましょう……あの、昼食は用意していますか? 一応、携帯食料は持ってきていますが……」
「いや、村に戻ろうよ」
携帯食料より普通のご飯の方が美味しいだろう。
「魔力の方は?」
「全然、大丈夫」
「さすがは大魔導士様。では、そのように致しましょう」
「うん、戻るね」
そう言って、転移の魔法を使うと、あっという間に村の門のところまで戻ってきた。
「素晴らしい……これだけの魔力と魔法の腕があれば何にでもなれるでしょう。タツヤ様、本当にこの村で終わりますか? あなたが望めば、宮廷魔術師にも魔法ギルドのトップにもなれますよ?」
「いやいい。俺は爺さんの跡を継ぐだけだし、この村で皆とゆっくり生きたい」
忙しいのはごめんだ。
「それだけの力を持ちながら驕ることなく、魔法の真髄を目指す姿勢は立派です。このモニカ、魔法ではまったく役に立てませんが、身命を賭して生涯、お仕えします」
モニカがオーバーなことを言いながら恭しく頭を下げてきた。
「ど、どうも……じゃあ、ご飯食べたらまたここに集合しようか」
「かしこまりました。ではまた」
モニカはそう言って自分の家に戻っていく。
俺達もモニカを見送ると、家に戻ることにした。
「あの子、めちゃくちゃオーバーじゃない?」
歩きながら2人に聞く。
「あれは本気だったにゃ。目に一点の曇りもなかったにゃ」
「ええ。まったく嘘をついていませんでしたね」
えー……
ゴマすりじゃないの?
俺を立ててくれたんじゃないの?
「本当に?」
「本当にゃ」
「ですねー」
マジかよ……
「なんであんなことになっているんだろう?」
「おそらくですが、モニカさんは認められたことがなかった人だと思います」
ルリが私見を言う。
「そうなの? あんなに頭が良いのに?」
見た目だって美人だし、前は野暮ったかったが、今は華やかだ。
「この世界は魔法使いが少なく貴重です。ですから魔法の素質がある者はほぼ確実に魔法使いになります。ですが、モニカさんは魔法使いとしてはお世辞にも優秀とは言えません。本人も言っていた通り、辺境の開拓村に監査官に任じられるくらいには落ちこぼれだったのでしょう。魔法使いは他がどんなに優れようが、魔法でしか評価してもらえませんからね。そんな中で評価してもらい、大役まで任せてもらったのが嬉しいのだと思います」
まあ、ダリルさんも言ってたけど、どう見ても魔法使いより今の方が向いてはいる。
「山田、モニカは大事にするにゃ。それと重用するにゃ」
「わかってるよ」
モニカが求めているのはやりがいだ。
とはいえ、ブラックにはしないようにしたい。
あの子、死ぬまで働きそうだし……
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