第047話 有能秘書モニカ
キョウカとユウセイ君が訪ねてきた翌日の日曜日。
この日は朝から異世界村に向かうことにした。
朝食を食べ終え、準備をすると、例の扉をくぐって研究室に入る。
「ここってそんなに魔力を発してないと思うんだけど、キョウカはなんでガン見してたのかねー?」
「野生の勘じゃないかにゃ? 私に気付いているのも本来ならあのレベルの魔法使いには無理な話にゃ」
野生ねー。
人斬りキョウカちゃんはそういう勘が働いてそうだもんなー。
この前も多目的ホールの前で魔力を出す前のフィルマンに気付いていたし。
「勝手に部屋に入るとかないかな?」
「本人にここは絶対に入ったらダメって言うにゃ。それでキョウカは絶対に入らないにゃ」
まあ、あの子は根が真面目だからそれで大丈夫か。
今度、来ることがあるかは知らないが、来たら言っておこう。
俺達は昨日のキョウカの件を話し終えると、家を出て、村に向かって歩いていく。
「あれ?」
「んー? あれ、何ですかね?」
「道が塞がっているにゃ」
俺達が歩いている道は森に囲まれた1本道であり、このまままっすぐ行けば村に着くはずだ。
だが、目の前にはその道を塞ぐようにログハウスが建っていた。
前に来た時はあんなものはなかったはずである。
俺達はそのまま家の前まで歩いてくると、家の前で立ち止まる。
「何これ?」
「さあ?」
「扉があるにゃ。ノックしてみるにゃ」
確かに家には扉がある。
俺はミリアムが言うように扉をノックしてみた。
『はーい?』
女性の声がしたと思ったら扉が開かれる。
すると、家から顔を覗かせたのはモニカだった。
「あ、こんにちは」
モニカが挨拶をしてくる。
「こんにちは。戻ったんですね」
「ええ。ちょうどさっき戻ってきたところですよ」
そうなんだ。
タイミング良いな。
「お疲れ様。ところで、この家は何?」
「あ、そうですね。まあ、入ってください」
モニカが中に招いてくれたので家に入る。
中はそこそこ広いようでテーブルの他に作業のデスクなんかも置いてあった。
「ここ、モニカの家?」
テーブルにつきながら聞く。
「いや、どちらかと言うと、タツヤ様の家というか、仕事部屋です。私の職場もここになりますので確認に来たんですよ」
あー、村長の執務室的なところを作ったのか。
だから道のところに建てたんだ。
「なるほどね……しかし、モニカ、雰囲気が全然違うね」
「確かに見違えましたね」
「田舎魔法使いから都会の魔法使いになったにゃ」
モニカは野暮ったい黒ローブだったのに今は白と青のきれいなローブに変わっている。
それに髪質も良くなっており、本当に見違えた。
「ありがとうございます。貴族のクロード様に話を伺わないといけないので用意したんです」
「え? 高くない? 出すよ」
「大丈夫ですよ。これも身だしなみですし、正直に言うと、王都に行った際に、王都の学校で友人だった貴族の子にお古をもらったんです。ついでに髪も整えてもらいました」
へー。
そういう繋がりもあるのか。
「それでどうなったの?」
「はい。まずですが、王都への報告は無事に済みました。まだ正式に村と認められていませんが、村長がタツヤ様に代わったことは認められました」
俺は認められたか。
ちょっとだけよそ者で出自不明の俺はダメって言われるかと危惧していた。
「すぐには村と認められない?」
「税を納めないといけません。普通は村全体の収穫量の1割になりますが、開拓村の場合は人頭税でも大丈夫です。1年で1人当たり金貨1枚ですね」
税を納めて初めて、村か。
そのための事業なんだからそりゃそうだ。
「どっちがいいの?」
「人頭税でしょうね。あとでリンゴ園を見て頂きますが、見事にリンゴの栽培に成功しております。人頭税の方が遥かに安いでしょう」
成功したのか。
さすがはスーパー肥料だ。
「それは良かった。人頭税はいつ納めるの?」
「リンゴの販路を確保してすぐでいいでしょう。それより早い場合は予算が厳しいです。ですが、遅くなると、今度は脱税を疑われ、国に睨まれます。間違いなく、あのリンゴは売れますから」
「その辺は任せてもいい?」
「お任せを。すでに先ほど言った友人に頼み、王都での根回しは済んでおります」
この子、すごい。
「じゃあ、お願い。クロード様は?」
「そちらも上手くいきました。問題だったのがこの村の管理者が誰になるのかということでしたが、クロード様からタツヤ様が管理者になるという言質を頂きました」
んー?
よくわからん。
「どういうこと?」
「この村がどこの領地に属するかということです。クロード様は領地貴族ですからクロード様が管理者になるということはここがクロード様の領地になるということです。これは何かあった時に対応してくれるという大きなメリットがありますが、一方で、村長を決める権限がクロード様になるということになります。つまり、この村がリンゴで儲けた場合、乗っ取られる可能性が出てくるのです。ここはあくまでもタツヤ様の村です。それだけは避けないといけません」
なるほど。
そういうこともあるわけか。
「よく認められたね?」
「上手く交渉できました。とはいえ、今後はなるべく恩を売る方向でいき、けっして対立してはいけません。以前にも言いましたが、領地の力の差は明らかですし、睨まれたら太刀打ちできません」
そもそも誰であろうが、対立する気はない。
平和が一番。
「わかった。ウチはリンゴ農園として、卸先であるクロード様が指定した商家に卸せばいいわけだね?」
「当分はそのようにして、下手に出ましょう。まずは足元を固めるのが先です」
「わかった。クロード様と会う話は?」
「それも約束を取り付けております」
この子は本当にすごいな。
もうこの子が村長でいいじゃんとすら思う。
「いつがいいかな?」
「早い方がいいかと。リンゴも収穫の準備ができておりますし」
確かに早い方がいいな。
「リンゴ園を見たい」
「はい。では、参りましょうか」
俺達は立ち上がると、家を出て、リンゴ園に向かった。
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