第046話 わからない……
「ルリ、ちょっといい?」
ノックをすると、ルリが顔を覗かせる。
「何でしょう?」
「昼にピザを頼むことになったんだけど、ルリも食べる? というか、食べられる?」
そう聞くと、ルリが部屋の中に戻っていく。
そして、宅配ピザのチラシを持ってきた。
「食べます。実は気になってました」
そうなんだ……
「じゃあ、そうしようか。おいで」
「はい」
ルリが嬉しそうに頷いたのでルリを連れて、リビングに戻る。
すると、キョウカがミリアムを離し、ルリのところに行くと、ルリを抱え、コタツ机に座らせた。
そして机に置いたチラシを見る。
「ルリちゃん、どれがいい?」
「これ」
キョウカはルリに聞いたのに何故か、ユウセイ君が肉たっぷりのピザを指差した。
「このチーズの奴とか美味しいよ?」
ガン無視するキョウカ。
「じゃあ、それでお願いします」
「わかった。決定ー」
ユウセイ君が無言で俺を見てくる。
「両方、頼めばいいでしょ。4人で1枚は足りないと思うし」
「じゃあ、それで」
俺はチラシに書いてある連絡先に電話し、ピザを注文した。
「楽しみだねー?」
「楽しみです」
キョウカとルリは楽しそうだ。
「お姉ちゃんのこと、好き?」
「別に……」
「がーん」
いや、初対面だからそうでしょ。
「キョウカ、ウチの子を持って帰ろうとしないで」
取るな。
「そうだぞ。お前にはサトルがいるだろ」
「姉を敬わない弟はいらない」
姉弟ってこんな感じなんだろうか?
俺達が話をしながら待っていると、ピザが到着したので4人と1匹でピザを食べる。
「猫ってピザが食べられるのか?」
ピザを美味しそうに食べているミリアムを見たユウセイ君が首を傾げた。
「ウチの子は食べられるんだよ」
「へー……よくわからないけど、そうなんだ」
そうなんだよ。
「それよりも今後の仕事はどうするの?」
「今後ねー……」
ユウセイ君がキョウカをチラッと見る。
「美味しいね」
「美味しいです」
キョウカはまったくユウセイ君を見ない。
「何かあったの?」
「いや、再来週にはキョウカのお小遣いを決めるイベントがあるんだよ。それで現実逃避をしているだけだと思う」
あ、中間テストか。
確かにその時期だ。
「キョウカ、大丈夫?」
無視しているキョウカに聞いてみる。
「え? だ、大丈夫です」
キョウカがスッと目を逸らした。
「大丈夫じゃないんだね……」
「まあ……そうとも言いますかね?」
他にどう言うんだ?
「来週はテスト勉強でいいよ。そっちを優先して」
「すんません……」
何故かユウセイ君が謝る。
「ユウセイ君は?」
「俺は普通。別に進学する気もないし」
あ、そうなんだ。
でも、確かにこの職業に学歴はいらないか。
「私も進学はしませんね」
「進級はしてね。あと、お小遣いアップしなよ」
「そうですね……勉強かー……」
嫌いなんだろうなー。
頭が良さそうに見えるんだけど、確かバ……だったけ。
「再来週はテストだし、仕事は終わってからでいいよ」
「大丈夫か?」
「大丈夫、大丈夫。他にやることがあるし、そっちをするよ」
もちろん、異世界村のこと。
村長だし。
「じゃあ、それで。協会への報告は俺がしとくんで」
「お願い。キョウカ、勉強頑張って」
「あ、はい……」
キョウカはすごく嫌そうな顔をしたが、一応、頷いた。
そして、ピザを食べ終わると、食後のお茶を飲みながら少し話をする。
「そろそろ帰るか」
「え?」
ユウセイ君の言葉にキョウカが驚いた。
「いや、用件も済んだし、ピザも御馳走になったろ。これ以上は迷惑になるし、帰ろうぜ」
ユウセイ君ってタメ口なのに真面目だよね。
「え? お邪魔です?」
キョウカは敬語だけど、グイグイ来る。
「別に邪魔ではないし、いつまでもいてもいいけど、勉強しなよ」
「ソウデスネ……」
そんなに嫌か。
まあ、俺も勉強は嫌いだから気持ちはわかるけど。
「ほら、良い点を取ったら高いところでも奢ってあげるから」
「寿司?」
「焼肉だろ」
この2人、ことごとく意見が合わないな。
「どっちでもいいし、どっちもでもいいよ」
「頑張るか……よし、帰る」
キョウカはやる気を出したようでミリアムを抱えて立ち上がった。
「キョウカ、ミリアムを持って帰らないでね」
「あ、そうだ。ウチ、マンションだった」
そこじゃない。
「いつでも来てもいいから」
「そうですか……えへへ」
キョウカが照れながらミリアムを放す。
「帰ろうぜ。山田さん、お邪魔しました」
「いいよ。ユウセイ君も頑張ってね。あと、報告よろしく」
「うっす。ほら、帰るぞ」
ユウセイ君はそう言うと、キョウカと共にリビングを出た。
すると、ユウセイ君は玄関に向かうが、キョウカがリビングを出たところで立ち止まる。
そして、ゆっくりと廊下の奥にある扉を見た。
「キョウカ、どうしたー? 帰るぞ」
「ああ……帰ろうか」
キョウカはいつの間にか人斬りキョウカちゃんになっており、扉をガン見していたが、ユウセイ君が待つ玄関に向かったので俺達も見送りにいく。
「タツヤさん、御馳走になりました。テスト頑張りますのでまたよろしくお願いします」
靴を履いたキョウカは元に戻っており、笑顔で頭を下げた。
「うん。頑張ってね」
「はい。それでは。ルリちゃんもミリアムちゃんもまたね」
キョウカがそう言うと、2人は扉を開け、帰っていった。
「……例の扉をガン見してたね」
「してましたね」
「あいつだけはよくわからないにゃ……」
何だろうね?
「本当に何を考えているのかさっぱりだよ」
「考えていることはわかりますね」
「そうなの?」
イミフなんだけど……
「はい。ものすごく単純です。ね?」
「そうにゃ。ものすごく簡単にゃ。そこだけは非常にわかりやすいにゃ」
えー……
俺はその後、2人に教えてもらおうとしたが、そこだけは絶対に教えてくれなかった。
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