第040話 女子高校生の思惑 ★
ユウセイ君がめんどくさそうに首を横に振った。
「ユウセイ君、桐ヶ谷さんは敵だよ」
私はめんどくさそうにしているユウセイ君に告げる。
「まあ、味方ではないと思ってるけど、敵って程か?」
「本当はね、山田さんは私達と組む予定ではなかったの」
「そうなのか?」
「うん。本当は桐ヶ谷さんと組む予定だった」
これは本当。
「そうなのか? それなのになんでまた俺らと?」
「私がおじいちゃんに頼んだの」
「は? マジ?」
「私は初任務の時に山田さんと会っている。その時に山田さんに刀を向けちゃってね」
あれは失敗だった。
本当に失敗だった。
私は怖かったのだ。
あれほど強い人間を見たのは初めてだったから……
私より強い人間は大勢いる。
でも、あそこまで差があると思ったのは本当に初めてだ。
「聞いたな、それ」
「その時に桐ヶ谷さんもいてね。話を聞きたいって言って本部にまで連れていっちゃった」
現場を新人である私に任せてまで。
「一般人を本部に連れていくか?」
「いかない。だからその時から目を付けていたんだと思う。そして、その時に山田さんがタダシさんのお孫さんだと知った」
絶対にそうだ。
「なるほどな。だから引き入れようとしたわけだ。あの人はタダシさんと組んでたから」
そう、桐ヶ谷さんはタダシさんと組んでいた。
それで急激に実力が伸びた。
タダシさんはあまり働く人ではなかったが、底が知れない実力の持ち主であることは皆が知っていた。
それこそウチやユウセイ君の家みたいな退魔師の家が動いたくらいだ。
「そうだね。桐ヶ谷の家もそうだろうけど、皆がタダシさんを欲しがった。でも、ご高齢の既婚者だったからどうしようもなかった」
さすがにあのお爺ちゃんと婚姻はできないし、他の手段で引き入れようにもあの人は人付き合いを好む人ではなかった。
「それで今度は山田さんか……」
「そういうこと。私は最初に見た時から強い人だと思った。だからお爺ちゃんに頼んで私達の指導員にお願いしたの」
ウチの家でもそのくらいのことはできる。
「それで俺もだったのかよ……『なんで俺?』と思ったが、お前が指名したのか」
「ごめん」
巻き込んじゃった。
「いや、いい。最初はめんどくさいと思ったが、今は組めて良かったと思っている。あの人は天才だ。あそこまで強大な魔力を持っていて、あそこまで魔力をコントロールできるのは本当にすごいと思う。そして何より、それを鼻にかけない。人のことは言えないけど、退魔師も魔法使いもロクな奴がいねーだろ」
まあね。
そこは同意する。
「山田さんを桐ヶ谷さんに取られちゃダメ」
「お前に頑張ってもらうしかないわ。俺はどうしようもない」
「手伝ってね」
「仲間だからな」
ユウセイ君は良い人だなー。
さすがは女子から人気があるだけのことはある。
「では、まず、そんなユウセイ君にミッションです」
「ミッション? なんだ?」
「すごく簡単。ユウセイ君は『ウチは古い家で一族も多いから苗字で呼ぶのはやめてほしい』って言うだけ」
簡単、簡単。
「…………え? 自分が名前で呼んでほしいから?」
「うん。山田さんって一ノ瀬君、橘さんじゃん。他人行儀すぎない?」
まあ、他人なんだけどさ。
「大人だからじゃね?」
「ユウセイ君……私はね、キョウカって呼ばれたいの。わかる?」
わかるよね?
「人斬りキョウカちゃんでいいじゃん」
「あれは良かった。非常に良かった。ドキッとした」
キョウカちゃんだって!
「それでか……あと、急に変わるな」
「いいからそう言いたまえ。そしたら私も『ウチもです!』って言えるじゃないか」
非常に言いやすい。
「別にいいけど、くだらねー」
「これはとても大事だよ? 女子は呼び捨てにされるとドキッとする生き物なんだ」
「キョウカ」
「言い忘れたけど、女子がドキッとするとか言うのは意中の相手に限るからね」
ちょっと古いけど、壁ドンとかもそうだ。
「めんどくせ」
「ふん。覚えておけ。こういうことを言う女は絶対に気があるぞ。距離を詰めたがっている」
絶対にそうだ。
ソースは私。
「はいはい。今日、会うんだろ? 頼むぞ。そもそも今後もチームを組んでくれるっていうことにならないといけないからな」
「わかっている。そこは抜かりない」
人、人、人。
「人という字を書いて飲み込んでいる奴に期待しないといけないのか?」
うるさいな。
多少は緊張するだろ。
「上手くやる」
「頼むわ。俺もバイト終わりに電話してみるから」
「最悪は泣きつけよ?」
「キョウカがやれよ……」
やるつもりだけど?
「あの人は優しいから大丈夫だと思う」
「まあ、なるようになれだ。頑張ってくれ」
ユウセイ君はそう言うと、立ち上がり、教室に戻っていった。
私はそんなユウセイ君を見送ると、空を見上げる。
「ふぅ……ユウセイ君、山田さんは君が思うよりずっとすごいよ」
最初にコンビニで会った時から強い人だと思っていたし、すごい素質がある人だとわかっていた。
だが、次にトイレで会った時には恐怖すら覚えるほどに成長していた。
一体、あの短期間に何があったのかはわからないが、山田さんは恐ろしい才覚の持ち主であることに間違いない。
さらには……
「まさか悪魔を従えているとは……」
何かの魔法で認識を阻害されていたからユウセイ君は気付かなかっただろうが、私にははっきりとあの黒猫の姿が見えていた。
しかも、しゃべっていた。
ミリアムちゃん……
名前があるということはネームドの上級悪魔だ。
「手強いし、怖いねー……でも」
関係ない。
山田さんは私がもらう。
あれほどの人を誰にも譲る気はない。
山田さんはあんなに強いのに優しい。
まさしく真の強者であり、大人だ。
私はそろそろ授業が始まるなと思い、暗示を使って、人格を切り替える。
そして、トイレに寄り、髪形を入念にチェックすると、教室に戻った。
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