表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/227

第036話 怖い


 俺達は校舎に入ると、電気をつけ、1階から捜索を開始した。

 電気がつくと、怖さもなくなるかなと思ったが、なまじ明るいから部分的に暗いところが目立ち、余計に怖いような気がする。

 さらに……


「山田さん、絶対に脅かすなよ。私はそういうのが大嫌いなんだ」


 震えながらしがみついている女子高生が怖い。


 皆さんは役得と思うかもしれませんが、この子は人斬りキョウカちゃんで片手には抜き身の刀を握っています。

 刺されそうです。

 首を刈られそうです。

 実際、何かの恐怖を感じ取ったミリアムは俺の肩から降りて、自分で歩いています。


「魔力を感じないな……」


 さらに一ノ瀬君はこの状況をガン無視です。


「橘さん、怖いなら外で待ってても良いよ?」

「何を言うか。この状況で1人になるなんてことをしたら第一の被害者になってしまうじゃないか」


 あー……そうかも。

 そのパターンだ。


「でも、物語だと女の子は助かるよ」


 1人しかいないから自動的にヒロインだ。


「現実の話をするべきだろう」


 いや、君が言い出したんだよ?


「キョウカ、本当に気配があるのか?」


 一ノ瀬君が俺達のやり取りをガン無視して、橘さんに聞く。


「あるぞ。間違いなく何かいる。早く出てきてほしい」

「うーん……ここかな」


 一ノ瀬君が教室に入ったので俺達も続くが、何もいない。


 俺達はその後も1階、2階と捜索を続けるが、何かが現れることはなかった。

 ミリアムに確認したいんだが、しがみついている橘さんが邪魔で内緒話ができない。

 でも、へっぴり腰で震えながら涙を浮かべているので離れろとも言いづらい。


「俺達の教室か……」


 一ノ瀬君がとある教室の前で立ち止まり、つぶやく。


「一ノ瀬君、ちょっと休憩しようか」

「あー……それもそうだな」


 一ノ瀬君は橘さんを見て頷くと、教室に入った。

 俺と橘さんも教室に入ると、一ノ瀬君は自分の席であろう窓際の机につく。


「橘さんの席はどこなの?」


 橘さんが指差した机は真ん中にある机だったのでそこまで連れていき、座らせた。


「大丈夫?」


 しゃがみこみ、橘さんの顔を覗き込む。


「だ、だ、大丈夫!」


 暗示、解けてない?


「ほら、橘さん、刀を見て、暗示をかけて」


 そう言って刀を取り、刃を見せる。


「怖くない、怖くない、怖くない」

「そう、怖くないよー」

「怖くない、怖くない、怖くない。私には山田さんが付いている。山田さんがいる、山田さんがいる、山田さんがいる……山田さん、山田さん、山田さん……」


 俺が怖いんだけど……

 ヤンデレか俺を恨んでいる人にしか見えない。

 しかも、武器を所持。


 俺は立ち上がると、教壇まで行き、2人を見る。


「なんか懐かしいなー。学生の頃を思い出す」


 20年近く前のことだ。


「先生にしか見えないぞ」

「そうだな。生徒には見えん」


 あれ?

 なんか橘さんがいつの間にか復活しているんだけど?


「青春を思い出しても良いじゃないか。こういうことでもないと学校に来ることなんてないし」

「まあ、そうだわなー」

「また連れてきてやろうか? ふっ……」


 あのー……橘さんの様子が明らかにおかしいんですけど?


「……やっと話せるにゃ。山田、巧妙に魔力を隠しているが、奥の部屋に悪魔がいるにゃ」


 肩に登ってきたミリアムがこっそりと教えてくれる。

 まあ、ミリアムから話を聞くために教壇に立ったのだ。


「この階の奥にある部屋は何?」


 ミリアムから悪魔の居場所を聞いた俺は2人に確認することにした。


「奥? 多目的ホールかな?」

「そうだな。あの何に使うのかわからない部屋だろう。行きたいのか?」


 多目的ホール、か。


「そこに何かがいる気がする」


 そう言うと、だらけていた一ノ瀬君が姿勢を正し、橘さんが立ち上がって、多目的ホールがあるであろう方向をじーっと見る。


「本当か? 何も感じないんだが」


 一ノ瀬君が聞いてきた。


「俺も魔力を感じているわけではないよ。勘みたいなもの」

「へー……キョウカみたいなものか? キョウカ、どうだ?」


 一ノ瀬君が今度は橘さんに確認する。


「ふーん……」


 橘さんはゆっくりと振り向き、俺をじーっと見てきた。


「どうしたの? というかさ、もう怖くないの?」

「かなり強い暗示を使ったから怖くなくなった。ただし、山田さんが見てくれないと解けるのでどこかには行かないで」


 俺の名前を連呼してたからか……


「それでどう? いる?」

「確かに何かいる気がするな。言われて気付いた」

「まあ、橘さんはいっぱいいっぱいだったからね」


 それどころじゃなかっただろう。


「それだけかな? ふふっ、山田さん、前職は何?」


 キョウカが不敵に笑いながら聞いてくる。


「サラリーマンだけど?」

「家族に退魔師はいる?」


 なんかすごい聞いてくるな。


「爺さんが元協会の退魔師だよ。この前、亡くなったんだけどね。実はその際に桐ヶ谷さんがウチに来て、スカウトされたんだよ」


「桐ヶ谷……山田……なるほど」


 橘さんがにやーっと笑う。

 ちょっと怖い。


「本当にどうしたの?」

「いや、気にしなくていい。山田さんは何も気にしなくていい。あなたはただ選べばいい」


 選ぶ?


「何を?」

「それはもちろんわた――」

「キョウカ」


 一ノ瀬君が橘さんの言葉を遮った。


「何かな? 一ノ瀬のユウセイ君?」

「仕事中だ。奥の多目的ホールに何かいるわけだろ?」

「それもそうだな。では、さっさと片付けてしまうか? まあ、問題はここまで魔力を隠せる悪魔は雑魚じゃないことだね」

「そうだな。少なく見積もってもDかCか……」


 DとCがどれくらいかわからんな。


「山田さん、どうするかはあなたが決めてくれ。この情報を持って帰るか、このまま行くか。私はあなたに従う」

「まあ、リーダーは山田さんだしな。それでいいんじゃないか?」


 橘さんは笑みを浮かべながら俺をじーっと見ている。

 一ノ瀬君は興味なさそうに耳をほじっている。


 さて、どうするか?


お読み頂き、ありがとうございます。

この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新作】
宮廷錬金術師の自由気ままな異世界旅 ~うっかりエリクサーを作ったら捕まりかけたので他国に逃げます~

【新刊】
~書籍~
左遷錬金術師の辺境暮らし 元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました(1)
左遷錬金術師の辺境暮らし 元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました(2)

週末のんびり異世界冒険譚 1 ~神様と楽しむ自由気ままな観光とグルメ旅行~
週末のんびり異世界冒険譚 2 ~神様と楽しむ自由気ままな観光とグルメ旅行~

【販売中】
~書籍~
35歳独身山田、異世界村に理想のセカンドハウスを作りたい ~異世界と現実のいいとこどりライフ~(1)
35歳独身山田、異世界村に理想のセカンドハウスを作りたい ~異世界と現実のいいとこどりライフ~(2)

【現在連載中の作品】
その子供、伝説の剣聖につき (カクヨムネクスト)

週末のんびり異世界冒険譚 ~神様と楽しむ自由気ままな観光とグルメ旅行~

左遷錬金術師の辺境暮らし ~元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました~

バカと呪いと魔法学園 ~魔法を知らない最優の劣等生~

35歳独身山田、異世界村に理想のセカンドハウスを作りたい ~異世界と現実のいいとこどりライフ~

最強陰陽師とAIある式神の異世界無双 〜人工知能ちゃんと謳歌する第二の人生〜

廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~

【漫画連載中】
地獄の沙汰も黄金次第 ~会社をクビになったけど、錬金術とかいうチートスキルを手に入れたので人生一発逆転を目指します~
がうがうモンスター+
ニコニコ漫画

廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~
カドコミ
ニコニコ漫画

35歳独身山田、異世界村に理想のセカンドハウスを作りたい ~異世界と現実のいいとこどりライフ~
カドコミ
ニコニコ漫画

左遷錬金術師の辺境暮らし ~元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました~
ガンガンONLINE

【カクヨムサポーターリンク集】
https://x.gd/Sfaua

【次にくるライトノベル大賞2025 エントリー】
https://x.gd/OSPb9
― 新着の感想 ―
[一言] 自分から落ちてくる系ヒロイン! 無関係な人から見るとおっさんがたぶらかしたようにしか見えないぞ!ホラー!
[一言] 悪魔よりも人斬りキョウカちゃんの方が怖いでしょ!
[良い点] 橘さんの家タツヤ爺さんと繋がりがあった!? 実は許嫁とか!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ