第034話 お父さん?
橘さんは熟考の末、ケーキを頼んだ。
「美味しいー! この瞬間は何もかも忘れよう! 後悔は明日!」
あ、うん。
なんかゴメンね。
「それで今日はどうしたの?」
「あ、そうでした。これは忘れちゃダメだ」
うん。
忘れないで。
ケーキを奢っただけになっちゃう。
いや、別にいいけどさ。
「電話なんて珍しいから緊急事態かなんかだと思ったよ」
「うーん、緊急といえば緊急かな? 実は相談というか報告があるんですよ」
「テスト勉強は見てあげられないよ?」
覚えてないし。
「違いますよー……いや、ヤバいのは確かなんですけどね」
橘さんはガクッと落ち込む。
あまり成績は良くないっぽい。
「じゃあ、何?」
「実は私達が通っている学校で魔力を感じるんです。多分、悪魔かなーっと」
「学校で?」
「はい。今朝からずっと感じてまして、昼にユウセイ君と話していたんですよ。それで山田さんに相談しようっていうことになって……」
なるほどね。
「協会には?」
「報告はしました。そしたら調査してくれって……」
まあ、学校のことだし、そこに通っている人間がいいわな。
「してみた?」
「休み時間とかに探しているんですけどねー……でも、行ける範囲が限られていますし、時間がそんなになかったです」
授業があるもんなー……
それに学校は広いし、人も多い。
「調査の仕事をするのはいいけど、俺は無理だよ? 学校に入れないもん」
「ええ。ですので山田さんに協力してもらうのは夜か土日です。学校に許可を取って調査することになると思います」
「誰もいなくない?」
「憑りつくタイプの悪魔じゃないパターンの時ですよ。昼間は私とユウセイ君で継続してやります」
ああ、そうか。
そっちの可能性もあるのか。
「学校への許可は協会の方でやってくれるの?」
「はい。警察とか業者を装って調査することになります」
「なるほどねー」
「それでどうしますか? この仕事を受けます? 断ることもできますけど」
断れるのか……
「君達はどうしたいの?」
多分、その相談を昼にしていたのだろう。
「私達の学校のことですので可能だったら受けたいな、と……ただ、リーダーは山田さんですし、山田さんに従います」
もし、断ったら2人だけでやりそうな感じがする……
「魔力的にはどんな感じ?」
「危険度はEかDってところですかね? あくまでも私とユウセイ君が探った限りですけど」
うーん……微妙。
正式な調査員がランク付けしてないからなー。
まあ、ミリアムがいるし、もしものことがあってもどうにかなるか……
「仕事を受けるのはいいよ。具体的にはどうするの?」
「山田さん、今夜、空いてます?」
「え? 今日?」
「早い方がいいので……」
マジか。
先に言ってほしかったな……
でもまあ、学校に悪魔はちょっとマズいか。
子供がいっぱいいる。
「ちょっと待ってね。ルリに電話してくる」
「わかりましたー」
席を立つと、橘さんがケーキを食べるのを再開したので一旦、店の外に出た。
「……ミリアム、来てくれるよね?」
店を出ると、スマホを取り出しながら小声でミリアムに聞く。
「……もちろんにゃ」
ミリアムが頷いたので家に電話をかけた。
すると、すぐに呼び出し音がやむ。
『もしもし?』
ルリの声だ。
「俺だよ、俺。わかる?」
『タダシさんですか?』
おー! 教えてたことを守っている!
さすがは賢い子。
「いや、その孫のタツヤ」
『はい。あの、声でわかると思うんですけど……』
「最近はそういうのも機械やAIでできるんだよ。だから危ない」
『そうですかね?』
というか、ルリのためにスマホを買ってあげようかな……
お金はあるし。
「まあ、いいや。あのさ、今日、仕事で遅くなりそうなんだ」
『何時ごろですか?』
何時だろ……
「ちょっとわかんない。だからごめんだけど、先にご飯食べてお風呂に入ってて。眠くなったら寝てていいから」
『わかりました。夕食は冷蔵庫に入れておきます。食べないなら明日の昼食にしましょう』
何時になるかわからないし、それがいいかもしれない。
「それでお願い。あ、お菓子を食べてもいいけど、歯磨きしてから寝るんだよ?」
『わかりました』
「じゃあ、後はお願い。戸締りも忘れないでね」
『はい。あの……パパって呼んだ方が良いですか?』
なんでだよ。
「普通で良いよ」
『そうですか……じゃあ、気を付けてください』
「わかった」
そう答えて通話を切った。
「ふぅ……俺ってお父さんみたいかな?」
「そのものだったにゃ。しっかりものの娘と心配性のパパにゃ」
そうか……
まあ、年齢的にはあのくらいの子供がいてもおかしくないからなー。
俺はうーんっと悩みながらも店内に戻り、席につく。
「どうしました? ダメでしたか?」
すでにケーキを食べ終わった橘さんが聞いてきた。
「いや、大丈夫。賢い子だから」
「確かに頭の良さそうな子ですよね。写真しか見たことないですけど」
まあねー。
「橘さんって弟か妹がいる?」
「かわいくない弟がいますね」
かわいくないのか。
「いくつ?」
「中2です」
反抗期かな?
まあ、それだったらかわいくないのかもしれない。
「なるほどねー」
「どうしたんです?」
「いや、親戚の子を預かっているけど、俺って一人っ子だったからさ。どう接するのが正解なのかなって」
「別に悩まなくても普通でいいんじゃないです? このくらいの子なら勝手にやりますよ」
橘さんが自分のスマホを眺めながら言う。
多分、前に送った写真を見ているのだろう。
「そんなもん?」
「そんなもんです。まあ、気持ちはわかりますよ。この子、かわいいですし、不安になるんでしょう。私もお風呂から上がったらパンイチでうろつく弟じゃなくて、こんな妹が欲しかったなー……ミリアムちゃんとセットでくださいよ」
あげない。
カロリーをあげるからそれで我慢してくれ。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!