第031話 計画
俺達はモニカに勧められたので席についた。
「村の様子はどう?」
立ったままのモニカに聞く。
「はい。頂いた鉄製の農具を交代で使っており、皆、感謝しているようです。また、伐採をして、耕地を広げたことなどにも感謝しており、皆、タツヤ様を大魔導士様と崇めています」
崇めなくてもいいんだけどなー……
あと呼び方が山田さんからタツヤ様に変わっている……
「例の大根は?」
「収穫して、食べました。美味しいとは思うんですけど、辛いですね」
生で食べたか……
生はちょっと辛いかもしれない。
「肥料のことを皆は知ってるの?」
「コーディーさんが家族に言ったようです。後は伝言ゲームですね」
まあ、そうなるよね。
狭いコミュニティだし。
「どんな様子?」
「半信半疑といった感じでしょうか? 普通ではありえないことですから。でも、大魔導士様なら……という期待感もあります」
なるほどね。
「ありがとう……村長さん、言っていた農具を10セット、それと肥料をお持ちしました」
モニカに礼を言うと、村長さんに報告した。
「おー! 早いですな!」
ポチっとするだけで家に届くからね。
「ええ。早速、お渡ししたいんですが、その前に今後のことで話があります」
「今後ですか……何でしょう?」
「まずですが、モニカのことは?」
最初に大事なことを確認する。
「聞いております。雇われたんですね。私も今後のことを考えると、雇った方が良いと思っておりました。モニカ殿は優秀ですし、村民からの人望もありますから」
村長さんがそう言うのでモニカを見ると、涼しい顔で微笑み、軽く頭を下げた。
この前までなら照れ笑いを浮かべただろうに本当に人が変わっている。
「ええ。私もそう判断しました。その際にモニカから名産を作った方が良いという進言を受けました」
「はい。それも聞いております。名産のことはタツヤ殿にお任せするとして、我らはそれを売る先の商家を検討しているところだったのです」
仕事早いなー。
この人、絶対に有能だろ。
「それはありがたいです。村長さん、私が村長の座についても協力してくれますよね?」
「もちろんです。私もこの村や村民を愛しております。老い先短い私の残された使命みたいなものですよ」
重い……
失敗できなくなった……
「わかりました。必ずや成功させましょう」
「ええ」
村長さんが深く頷く。
「村長さん、モニカ。実は名産はこれにしようと思っています」
そう言って、さっき採取した2個のリンゴをテーブルに置いた。
「赤い……果実ですか?」
「見たことがないですね」
村長さんとモニカがまじまじとリンゴを見る。
「はい。リンゴという果物です。私の家の前に実っていました」
嘘ではない。
「ほう……結構、重量がありますな」
「本当ですね」
2人はリンゴを手に取り、重さを量った。
「それはそのまま食べられますので食べてみてください……あ、いや、切りましょう」
女子はそのまま齧らないだろうし、村長さんは歯が心配だ。
「私が」
ルリがそう言うと、皿と包丁を取り出し、リンゴを切り分けていく。
さすがは家事をしているだけあって見事な包丁さばきだった。
「どうぞ」
ルリはリンゴを切り分けると、2人に勧める。
すると、村長さんとモニカとミリアムがリンゴを口に入れた。
「おー! これはすごい!」
「甘い……すごく美味しいです!」
「にゃ!」
一匹は置いておくとして、2人は絶賛しながらリンゴを食べていく。
「どうでしょう? 名産になるでしょうか?」
「なります! これはなりますぞ!」
「はい。王都でもここまでの果物を食べたことがないです」
「にゃー!」
さすがにルリがミリアムを抱えて、大人しくさせた。
「それは良かった。問題はこれが育つのに数年かかることですが、それも例の肥料で解決できるでしょう」
「確かに! それなら早期に安定供給ができます!」
村長さんが興奮する。
「タツヤ様、こうなると、より一層、卸す商家が大事になってきます。質の悪いところだといちゃもんをつけて、買い叩かれる可能性も出てきます」
どこの世界にもそういうのはいるか……
「信用できるところを探すか……と言っても伝手もないしねー」
「はい。問題はそこです。私も村長さんも商人に知り合いなんていません」
まあ、そうだろうな。
「すると、どうする?」
「一番楽なのは私が監査官として、国王陛下に報告することです。実際にこのリンゴを持っていけば、十分に認められますし、商人を紹介してくれるかもしれません」
「それで良いと思うけど?」
何か問題が?
「いえ、そうすると、この村の近くにある町の商人に恨まれます。それに下手をすると、その町の領主様から反感を買う可能性もあります。商売をするにしても何かを仕入れるにしても近隣の町からですし、反感を買うのは避けた方がいいです。どのような嫌がらせを受けるかわかりません」
流通のことがあるしなー。
この世界のことがわからないけど、関税とか取られると、面倒だ。
それに嫌がらせで済めばいい。
こんな小さな村は簡単に潰される。
「その町を通した方がいい?」
「はい。領主様に事情を説明し、協力を仰いだ方がいいです。幸い、近くにある町の領主であるクロード様は悪い噂を聞きません。実際、この村にもわずかですが、援助もしてくださっています」
援助をしているのか……
それはますます無視はできんな。
「わかった。準備が整い次第、そちらに出向こう」
「はい。そういうわけで私はこれから王都に行き、正式にタツヤ様が村長になったことと村の目途が立ちそうなことを先に報告してまいります。その帰りにクロード様のもとに行き、これまでの援助の礼と共に同じく、村の目途が立ちそうなこと、そして、リンゴの話を先に少しだけ話しておきましょう。何しろ、王都に行って帰るまでに20日以上はかかりますので」
動くなら早め早めか。
「わかった。こちらはそれまでに村を整え、リンゴ農園を作るよ」
「お願いします。では、私はこれで」
モニカさんが一礼をすると、家を出ていった。
「人って本当に変わるんだなー……」
有能感がすごい。
「彼女は魔法使いではなく、政治家を目指すべき人間だったんでしょうな……」
なまじ魔法の才能があったから自分の本来の才能に気付かなかったわけか……
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