第030話 女はすぐに変わるのさ
タイマー協会での初仕事を終えた翌日の火曜日は家でのんびりと過ごした。
ただ、橘さんから頻繁に他愛のないメッセージが来る。
多分、授業の合間の休み時間に送っているのだろう。
俺はそれに返事をしながら爺さんの本を読んだり、タイマー協会のアプリで良い仕事がないかを探していた。
山 田 :危険度が書いてあるけど、よくわからないね
キョウカ:魔力や経験的にどういう悪魔なのかを推測して決めているんですよー
山 田 :へー。わかんない
キョウカ:じゃあ、私とユウセイ君で決めましょうか?
そうした方が良いな。
経験もあるし、昨日、話してみた感じ、ちゃんとしている子達だ。
任せてもいいだろう。
山 田 :じゃあ、お願い
キョウカ:了解です!
ユウセイ:りょ
山 田 :ありがと
返信を送ると、未読のまま返信が来なくなった。
多分、授業が始まったのだろう。
その後も主に橘さんとメッセージのやり取りをしつつ、本を読んでいく。
そして、翌日になると、異世界の家の前に植えたリンゴの苗木を見にいくことにした。
俺達は例の扉を抜け、研究室を出ると、一昨日に植えたリンゴの苗木を見てみる。
「苗木?」
「木にゃ」
「あの肥料、すごいですね……」
あんなに小さく細かった苗木がかなり成長しており、普通の木になっていた。
「まだ実はできていないようだけど……」
「花は咲いていますね」
確かに咲いている。
「放っておけば実るのかな?」
「受粉がいるらしいですね」
ルリがタブレットを見ながら教えてくれる。
そういう本とかをダウンロードしてあるのだ。
「どうやるの?」
「うーん、ちょっと面倒ですね。リンゴ農園を作るならこういう技術を村人に教える必要がありますね」
「その辺の調整もいるか……」
モニカと村長さんに相談かな。
「まあ、とりあえずはスーパー肥料がリンゴの木にも有効なのがわかっただけで十分にゃ」
「それもそうだね。帰ろう」
俺達はリビングに戻ると、今後の話し合いをすることにした。
そして、この日からは特にやることもないので魔法の勉強や村の発展計画を考えながら過ごしていた。
その間も橘さんから他愛のないメッセージのやり取りをしていたし、意外にも一ノ瀬君からもたまに【バイト、だるい……】などといったメッセージが届いたりした。
そんな感じで余裕のある生活を送っていると、金曜になり、ついに注文していた農具や肥料がすべて届いた。
「すごい量だね」
玄関に農具10セットと10キロの肥料が10セットで計100キロが置かれている。
「空間魔法にしまうにゃ。匂うにゃ」
「確かに……」
俺は空間魔法を使って、農具と肥料を収納する。
「肥料をスーパー肥料に変えて、持っていきましょう」
「そうだね。ルリ、ゴミ袋を」
「はい」
ルリがゴミ袋を持ってきてくれたので研究室に向かった。
そして、例の炊飯器で肥料をスーパー肥料に変えていく。
「終わったら呼ぶにゃ。猫にはきついにゃ」
ミリアムはそう言って、早々に家に戻っていったが、俺とルリは淡々と肥料をスーパー肥料に変えてゴミ袋に詰めていった。
「これが最後」
「はい」
俺は最後の肥料をスーパー肥料に変える。
そして、その肥料をゴミ袋に詰めると、それを空間魔法にしまった。
「ハァ……疲れた」
「お疲れ様です」
「ルリも大変だったね。ミリアムを呼んできてくれる? 俺は窓を開ける」
「わかりました」
ルリが家に戻っていったので窓を開ける。
すると、新鮮な空気が入ってきて気持ちいい。
「まだ匂うにゃ。さっさと出るにゃ」
ミリアムの声がしたと思ったらミリアムを抱えたルリが戻ってきていた。
「猫は大変だね」
「本当にゃ」
準備を終えた俺達は家を出る。
すると、リンゴの木がさらに成長していた。
それどころか赤い実を実らせている。
「あ、リンゴだ」
「本当にゃ! もぐにゃ! 食べるにゃ!」
ルリの腕の中にいたミリアムはテンションが上がり、ジャンプして着地した。
そして、リンゴの木を器用に登っていく。
「普通に実るもんなんだなー……」
そうつぶやきながらミリアムがガン見しているリンゴをもぐと、ミリアムに渡し、抱えた。
ミリアムはリンゴを両前足で掴むと、かじっていく。
「甘いにゃ! リンゴにゃ!」
へー……
ミリアムにそう言われたのでもう一つのリンゴを取ると、エアカッターで半分にし、半分をルリに渡し、もう半分を食べてみる。
「うまっ!」
「すごいです……これ、お店で買うリンゴよりも甘いし、美味しいですね」
本当にそんな気がする。
「これ、あっちの世界でも売れるなー」
「だと思います。でもまあ、あっちの世界よりこっちの村のためでしょう」
もちろん、そうだ。
自分達が楽しめる分くらいあればいい。
俺はリンゴをもう2つほど採取すると、ルリと一心不乱にリンゴをかじっているミリアムを連れて、村長さんの家に向かう。
村に着き、村長さんの家に入ると、村長さんとモニカが何かを話し合っていた。
俺達が家に入ると、モニカが俺達に気付き、立ち上がった。
そして、俺に向かって微笑を浮かべながら綺麗な姿勢で一礼する。
「お待ちしておりました。どうぞ、おかけくださいませ」
まーた、人間が変わってるし。
有能な秘書っぽくなってる……
もう眼鏡でもかけなよ……
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!