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第027話 初任務


 受付に行くと、本当に車を貸し出しているそうで鍵を渡してくれた。

 俺達はその鍵を受け取ると、エレベーターに乗り、地下の駐車場に向かう。


「えーっと……あれじゃないですか?」


 橘さんが指差した先にはピカピカに輝く黒の国産の高級車が見える。


「すごいねー」

「すごいんですか?」

「すごいんだよ」

「へー」


 まあ、女の子は車に興味ないか。


 俺は車まで歩いていくと、運転席に乗り込んだ。

 すると、一ノ瀬君が後部座席に乗り込み、橘さんが助手席に乗り込む。


 橘さんが助手席かー……

 隣は一ノ瀬君じゃないのかね?

 まあ、2人で後部座席に乗られるよりマシだけど。


「山田さん、安全運転で頼む」


 一ノ瀬君が身を乗り出して頼んできた。


「わかってるよ。よそ様の子供を乗せているんだからね。シートベルトをしてくれ」

「後ろも?」

「後ろも」

「はいはい」


 一ノ瀬君は身を乗り出すのをやめ、シートに背を預けると、シートベルトをする。

 もちろん、助手席の橘さんもシートベルトをしたのだが、なるべくそっちを見ないようにした。

 女性とシートベルトの相性は良くないのだ。

 主に俺の社会的信用的に。


「じゃあ、行くよ」

「お願いします」


 俺は車を発進させると、地下駐車場を出て、件の公園に向かった。


 夕方なので渋滞していたが、30分程度で公園に到着する。

 しかし、公園には誰もいない。


「少し待つか……」

「そうですね」


 俺達は車内で不良が来るのを待つことにした。

 しばらく、スマホを弄りながら待っていると、周囲が暗くなってくる。

 時刻は6時だ。


「最近、日が短くなってきましたね」

「そうだね」


 もう10月だし、肌寒くもなってきた。


「あー、腹減ってきたなー」


 後部座席の一ノ瀬君がだるそうな声でぼやく。

 俺は懐から財布を取り出すと、千円札を抜き、後ろに差しだした。


「コンビニで好きなもんを買うといい。ついでに、コーヒーを買ってきて」

「いいのか?」


 一ノ瀬君はそう聞きながら千円札を受け取る。


「いいよ。橘さんは何かいる?」

「あ、ありがとうございます。お水を」


 また水……

 好きだなー。


「一ノ瀬君、お願い」

「うっす」


 一ノ瀬君は返事をすると、車から降りて、コンビニに向かった。

 すると、あら不思議。

 人がいない公園の駐車場の暗い車内に制服を着た女子高生とおっさんが2人という警察が声をかける確率100パーセントの状況になってしまった。


 やっべ……


 俺はなんとなく懐に手を突っ込み、手帳があることを確認する。


「なんかすみません」


 手帳を確認し、安心していると、橘さんが謝ってきた。


「え? 何が?」

「山田さん、大人の方なのに私達と一緒でやりにくいでしょう?」


 うん。


「いや、そんなことないよ。さっきも本部で言ったけど、初心者だからね。経験のある君達とやれるのは勉強になる」


 辛かったけど、今、初めて係長をやっていて良かったと思う。

 部下のフォローをしてきたから大人の対応ができたからだ。

 昔の俺なら絶対に変な感じで返していただろう。

 まあ、良かったと思ったのが退職後なんだけどさ。


「そうですか……なら良かったです。あ、タバコを吸われるんですか? どうぞ」


 俺が懐に手を突っ込んだままだから橘さんが勘違いをする。


「いや、違うよ。手帳を忘れてないかと思ってね。タバコはやめたよ」


 そもそも子供の前なら車内で吸わんわ。


「やめたんですか? ウチの父はやめられないって言ってますけど」

「今、親戚の小さい子を預かっていてね。あと猫を飼い始めた。だからやめたね」

「へー。猫を飼っているんですか。いいですねー」


 橘さんが猫に食いついた。


「どうしたー?」


 橘さんが上機嫌になっていると、一ノ瀬君が戻ってくる。


「山田さん、猫を飼っているんだって」

「へー。あ、水とコーヒー。あとお釣り」


 一ノ瀬君は興味なさそうに相槌を打つと、橘さんに水を渡し、俺にコーヒーとお釣りを渡した。


「ありがとう。猫の写真ってないんですか?」


 橘さんは買ってきてもらった一ノ瀬君に軽くお礼を言うと、すぐに猫の話題に戻した。


「写真は撮ってないねー」

「えー……撮ってくださいよー。気になる」


 いや、君の目の前にドヤ顔をしているミリアムがいるんだけどね。

 しかし、この子達もミリアムが見えないんだな……


「あまり写真を撮らないからね」

「撮ってきてくださいよー。私、猫が好きなんです」


 はい、どうぞってミリアムを渡したいな……


「じゃあ、今度、撮ってくるよ」


 ミリアムさん、いいよね?


「あ、連絡先を交換しましょうよ。それで送ってください」

「あー、そうだね。どちらにせよ、連絡が取れないといけないもんね。ほら、一ノ瀬君も」

「そういえば、そうだな」


 俺達はスマホを取り出し、連絡先を交換し合った。

 もっとも、一ノ瀬君と橘さんはお互いの連絡先を元から知っていたみたいだが。


「グループを作りますねー」


 橘さんはものすごく上機嫌だ。

 一方で一ノ瀬君は黙々とおにぎりと惣菜パンを食べている。


 2人共、さすがは高校生って感じがする。

 しかも、陽キャ。

 俺の学生時代とはちょっと違うようだ。


「……魔力を感知したにゃ」


 橘さんと猫の話を続けていると、耳元でその猫がボソッとつぶやいた。

 そう言われて、昼に読んだ爺さんの本に書いてあった魔力探知を使ってみると、確かに微弱だが、魔力を感じた。

 もちろん、ミリアムでもこの2人でもない。

 もっと遠くから感じる。


「ん? 山田さん、どうされました?」


 橘さんは感じていないようだ。


「いや、なんか変な感じが……」

「え? うるさかったです?」


 橘さんがちょっとショックを受けた顔をした。


「いや、そういうことじゃないし、橘さんの話は面白いよ」

「そ、そうですか?」


 橘さんがえへへと笑う。


「キョウカ、魔力を感じるぞ」

「え?」


 いつの間にかおにぎりと惣菜パンを食べ終わった一ノ瀬君がそう言うと、橘さんが驚いたように振り向いた。

 すると、そのまま動かなくなる。


「本当だ……それもこれは……3人かな?」


 確かに魔力は3つある。


「来たな」


 一ノ瀬君がニヤリと笑った。

 ちょっとかっこいい。


 でもさ、君、口くらい拭おうよ。

 ケチャップが付いてるよ?


お読み頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
パンをおかずにおにぎりなのか? わんぱくだねえ
[気になる点] 橘さんは水を使う能力かな?
[良い点] キッズがなんか「普通」で…いい。特殊な仕事してるのに [一言] お祝い投稿無限ループ…!
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