第026話 俺にもそういう時代があった…………時代って嫌な言葉
自動販売機でお茶とコーラ、そして、水を買った俺は2人が待つソファーまで戻る。
「どうぞ」
そう言って、2人の前にコーラと水を置いた。
「あざっす」
「ありがとうございます」
2人はそれぞれの飲み物の封を開け、飲みだしたので俺もお茶を飲む。
「いえいえ」
この子達の経済状況を知らないが、安いものだ。
「あのー、やっぱり敬語はやめませんか?」
「俺もそう思う。なんか違和感がすごい」
若い2人は遠慮してしまうのかもしれないな。
「じゃあ、敬語はやめようか」
「それがいいです」
「ああ。俺が使ってないのにそっちに使われるとなんか惨めな気分になる」
じゃあ、使え、と言いそうになったが、そこまで踏み込む関係ではない。
「まあ、わかるね。ところで、2人は同じクラスなんだっけ? 仲は良いの? 桐ヶ谷さんにチームを組めって言われたけど、それくらいで何も聞いていないんだよね」
「あー……仲が良いというか、お互い、子供の頃から知っているんだよ」
「狭い業界ですから……」
2人が苦笑いを浮かべる。
なんか青春はなさそう。
「じゃあ、桐ヶ谷さんとも知り合いだったわけ?」
「まあ……」
「知ってはいますね……」
微妙っぽい。
ここは触れない方がいいな。
「そっか。ごめんね。俺は今日からこの協会に入ったんで全然、知らないんだよ」
「今日からか……俺、桐ヶ谷さんから山田さんがリーダーだから言うことを聞けって言われたんだけど?」
「あ、私もそう言われました」
えー……
初日からリーダーってブラックじゃん。
「リーダーねー……」
2人を抑えろとは言われたけど……
「山田さんで大丈夫か? 新人なんだろ?」
一ノ瀬君が疑いの目で見てくる。
「君達はやっぱり子供の頃からこういうのをしているの?」
「まあ、そこそこは」
「どこの家も人手不足なんで少しでも才能があれば、現場に駆り出されます」
大変だな……
「経験的に君達の方が実力はあるだろうね。でも、だからこそ、君達のどちらかがリーダーになるのを避けたかったんじゃない?」
どちらかをリーダーにすると、もうどちらかが不満を持つかもしれない。
「私はユウセイ君でいいですけど……」
「俺もキョウカでいいな」
譲り合いかい……
人のことを言えないが、最近の人間は向上心がないね。
「じゃあ、俺でいいでしょう。どうせ、1ヶ月だし、ただの研修とでも思ってよ。ついでに俺の指導でもして」
「まあ、そういうことなら……」
「私は山田さんで大丈夫です。というか、大人の男性の上に立つのは遠慮したいですし」
俺も本当は遠慮したいね。
「じゃあ、1ヶ月の短い間だけど、よろしく」
「ああ……」
「よろしくお願いします」
一ノ瀬君は腑に落ちない感じだが頷いてくれたし、橘さんは笑顔で頷いてくれた。
「それで仕事はどうする? 君ら、学校があるよね?」
「そうですね。ですので、放課後か土日にお願いしたいです」
「俺は水曜と金曜はダメ。バイトがある」
一ノ瀬君、バイトしているんだ……
もしかして、この2人、褒賞金どころか給料ももらってないんじゃないか?
「じゃあ、水曜と金曜は外そう」
別に一人で行けばいいしな。
「悪い。なあ、それと話すよりも実際に仕事をしてみないか?」
確かにそれがいいかもしれない。
「何かあるかな?」
そう言ってスマホを取り出すと、2人もスマホを取り出す。
そういう悪魔の情報だったり、タイマー協会の情報は専用のアプリで確認できるようになっているのだ。
便利な世の中だよ。
「うーん……」
正体不明の通り魔、不審死、暴力事件……
悪魔が関わっている可能性がある情報が載っているが、どの程度の悪魔なのかがわからんな。
「最初だし、これとかいいんじゃないか?」
対面に座っている一ノ瀬君が俺と橘さんにスマホ画面を見せてくる。
そこに書いてあるのはとある公園でたむろする不良だった。
「そもそもなんだけど、これ悪魔なの? ただのヤンキーでは?」
おじさんとヤンキーは相性が悪いんだよ?
おやじ狩りとか知らないのかな?
「調査員が調べたみたいだな……魔力の反応があるみたいだ」
そう言われて、自分のスマホでその情報を見てみると、確かに書いてある。
悪魔の関与率60パーセントらしい。
「悪魔には2種類いて、人の心に憑りつくタイプの普通の人の目には見えない種と実体がある種がいます。これは憑りつくタイプでしょう」
橘さんが教えてくれる。
「へー……」
そういえば、前にミリアムも似たようなことを言ってたな。
「一ノ瀬君と橘さんはヤンキー、大丈夫?」
俺は苦手。
「問題ないな。危険度もE程度だし、低級悪魔だろう」
「ちゃんと落ち着いていれば大丈夫ですよ。他人のことを言えませんけど……」
橘さんがちょっとへこんだ。
初任務で無関係のおっさんに刀を向けたからだろうな。
もしくは、男子トイレに入ったから。
「じゃあ、行こうか。場所は……ちょっと遠いし、電車かな?」
「山田さん、車ないのか?」
一ノ瀬君が聞いてくる。
「持ってないね。免許は持ってるけど」
「協会が貸してくれると思いますよ。確か社用車があったはずです」
橘さんがそう言いながら受付の女性を見る。
「そうなんだ……」
まあ、車の方が良いかもしれないな。
制服を着た高校生と歩くってちょっと嫌だし。
「じゃあ、車を借りようか」
「運転よろしく」
「お願いします」
2人が頼んでくる。
「まあ、君らはダメだろうね。ちなみにだけど、君らって何歳?」
「17。高2だな」
「私は1月生まれなのでまだ16歳です」
ダブルスコア……
若すぎる……
「そ、そうか。うん、行こうか」
「山田さんは?」
「おいくつですか?」
2人が聞いてくる。
「35歳」
「へー……」
「大人ですね」
この子達の親の年齢が気になるな。
絶対に聞かないけど。
「おじさんだよ。行こうか」
そう言って立ち上がると、2人も立ち上がったので受付に向かった。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!