第025話 毎年の健康診断が怖い
リンゴの苗木を植えた後はリビングに戻って爺さんの本を読んだり、リンゴの育て方を調べたりしていた。
そして、夕方になったのでミリアムを連れて、再び、タイマー協会の本部に向かう。
例の高校生との顔合わせがあるのだ。
二度手間だが、今日は平日だし、2人は高校生だから仕方がないだろう。
俺達は電車に乗り、タイマー協会に着くと、朝に話したエントランスのソファーに座る桐ヶ谷さんを見つけたのでそちらに向かう。
「やあ、山田さん。御足労をかけます」
桐ヶ谷さんが俺に気付き、声をかけてきた。
「いえいえ、時間はありますから」
「そうですか……もう少しで2人も来ると思うので少々、お待ちください……おや?」
桐ヶ谷さんが正面玄関の方を見たので釣られてそちらの方を見ると、この前、トイレで会った女子高生がキョロキョロと周囲を見渡していた。
「制服ですねー」
「まあ、もう何も言いませんよ……橘君!」
桐ヶ谷さんが橘さんに声をかける。
すると、橘さんが俺達に気付き、こちらにやってきた。
「遅れてすみません」
橘さんは俺達のところに来ると、頭を下げる。
「遅れてないよ。まあ、かけなさい」
桐ヶ谷さんがそう言うと、橘さんは俺と桐ヶ谷さんを見比べ、何故か俺の隣に座った。
そうは見えないが、本当に仲が悪いんだろうか?
「橘君、以前、説明した通り、この度、ウチに所属することになった山田さんだ。山田さん、橘君です」
桐ヶ谷さんが簡潔に紹介する。
「あ、あの、橘キョウカです。この前はすみませんでした。それとありがとうございました」
橘さんは自己紹介をすると、頭を下げて謝罪し、感謝もしてきた。
もちろん、謝罪は刀を向けたことで感謝は水を奢ったことだろう。
「いえいえ。あれは仕方がないですよ。あ、山田タツヤです。よろしくお願いします」
「は、はい。よろしくお願いします」
第一印象よりもずっとちゃんとした子だな。
それにプライドが高そうには見えない。
「山田さん、橘さんは先日のあれが初任務だったんですよ。緊張もあったでしょうし、大目に見てあげてください」
桐ヶ谷さんが補足する。
「もちろんですよ。そもそも、私は気にしていません。橘さんも気にしないでください」
年下の子に緊張感やプレッシャーを与えてはいけない。
このご時世、何を言われるかわからんし、この子がその気になれば、俺みたいなおっさんを社会的に殺すことは容易なのだ。
だからなるべく関わらないようにしてきたんだがなー……
「あ、ありがとうございます」
まあ、そんな感じには見えんな。
悪意はなさそう。
「この前の女性はどうなりました? 意識がなかったように見えましたが」
「あ、はい。あの後、病院に連れていきましたが、特に問題もなく、今は退院されています」
「それは良かった」
ちょっと気になっていた。
なお、男が暴行罪で逮捕されたのは聞いている。
「あとは一ノ瀬君ですか……」
桐ヶ谷、橘、そして一ノ瀬か……
皆、かっこいい苗字だなー……
俺、山田。
小1で習う漢字。
「先に出たと思ったんですけどね」
ん?
「もしかして、同じ学校なんですか?」
「ええ。クラスも一緒です」
すごいな、それ……
しかし、そんな2人と組むのか……
クラスの話とかされたら疎外感がすごいだろうな。
「お、来ましたね。一ノ瀬君!」
桐ヶ谷さんがまたもや正面玄関の方に声をかけたので釣られて見る。
すると、こちらを向いている黒髪の若い男子がいた。
しかも、その子も高校の制服だった。
「遅れてすみません」
一ノ瀬君はそっけなく謝る。
「学校なら仕方がありません。まあ、かけなさい」
桐ヶ谷さんがそう言うと、一ノ瀬君も俺と桐ヶ谷さんを見比べる。
すると、ちょっと時間が空いたが、さすがに桐ヶ谷さんの方に座った。
「山田さん、こちらが一ノ瀬君です。一ノ瀬君、山田さん」
桐ヶ谷さんはさっきより簡潔に紹介する。
「一ノ瀬ユウセイです。よろしくお願いします」
名前もかっこいいし。
「山田タツヤです。よろしくお願いします」
俺達も簡潔に自己紹介した。
「では、自己紹介は済みましたね。じゃあ、後はお若い者同士でよろしく」
桐ヶ谷さんがそう言って、立ち上がると、俺と2人が同時にえっという表情を浮かべて桐ヶ谷さんを見上げる。
「桐ヶ谷さん、私は若くないですよ。あなたとそんなに変わらないです」
「……ズレてるぞ、山田」
ミリアムが耳元でボソッとつぶやいた。
「いえいえ、そんなことないですよ。では、私は別の仕事があるのでこれで失礼します」
桐ヶ谷さんは早口でそう言うと、そそくさとエレベーターの方に行ってしまった。
「ふう……」
「行ったか……」
桐ヶ谷さんを目で追っていると、橘さんが息を吐き、一ノ瀬君がつぶやく。
「どうかしたんですか?」
「いや、あの人、ちょっと怖くて……」
「得体の知れない感じがする人なんだよ」
へー……
まあ、胡散臭い人ではあるな。
「ビジネススマイルって感じはしますね。目が笑ってないし」
「そうそう。人間味がしないよな」
そこまでは言ってない。
「ユウセイ君、敬語くらい使おうよ」
橘さんが注意した。
「別にいいだろ。というか、山田さん、逆になんであんたが敬語なんだよ」
「社会人ですからね」
普通は敬語だ。
まあ、高校生相手に敬語を使うのはどうかと思わないでもないが、一応、同僚だし、名家の子らしいしな。
「社会人ってそうなのか?」
「そうじゃないかな? 桐ヶ谷さんだって丁寧な言葉遣いをするし」
2人が話し合う。
なんか青春だ。
「まあ、気にしなくていいですし、話したいように話してくれればいいですよ。私はお茶を飲みますが、御二人も何か飲まれますか?」
「え? でも……」
橘さんが遠慮する。
「大丈夫ですよ」
高校生相手にたかが200円ちょっとを惜しむほど安月給だったわけではない。
「山田さん。俺、コーラ」
「えっと、じゃあ、お水を」
「わかりました」
俺は立ち上がると、自動販売機の方に向かった。
「……水を買う? 子供はジュースじゃないのかにゃ?」
俺が学生の頃に水なんて買ったことがなかった。
それこそ一ノ瀬君のようにコーラだが、女の子はカロリーなんかを気にするのかもしれない。
「……俺も思ったけど、女の子の買うものにケチを付けない方が良い。あのルリですら低カロリーのものを選ぶだろ」
「それはお前のためにゃ」
ああ……
最近、太ったかなー?
もう昔の様に飲み食いできないのかもしれない。
そういう魔法の研究でもしようかね?
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