第248話 新依頼
温泉等のことはモニカに任せ、家で魔法の研究をしていると、ふいに電話が鳴った。
「ん? 桐ヶ谷さん?」
「お、また貯金残高が増えるにゃ?」
増えると良いなーと思いながら電話に出る。
「もしもし?」
『やあ、山田さん、おはようございます』
「おはようございます」
『ちょっとお仕事のお話があるんですけど、大丈夫です?』
来た!
貯金残高増加イベント!
「ええ。家でゆっくりしているところですので」
『それは良かった。実はちょっと複雑な話なんでこの前の喫茶店まで出られます?』
複雑?
「面倒事です?」
『うーん、私にとっては面倒ですけど、山田さんはいつも通りですかね?』
どういうこと?
「よくわかりませんが、行きますよ」
『すみませんが、お願いします』
桐ヶ谷さんがそう言うと、電話が切れた。
「何だろ?」
変な言い方だったな。
「どうしたにゃ?」
ミリアムがぴょんと膝の上にジャンプし、見上げてくる。
「なんか仕事を頼みたい感じだったけど、いつもとは違う感じだった。ちょっと出てくるよ」
「私も行ってやるにゃ」
「お願い。ルリ、お留守番をお願いね。あと、モニカとか村の人に飲み物を差し入れしておいてくれる?」
まだ涼しい季節だが、身体を動かしていると、喉も渇くだろう。
「わかりました」
ルリが頷いたので自室に行くと、スーツに着替え、家を出た。
車を走らせ、協会までやってくると、地下の駐車場に車を駐めさせてもらう。
そして、歩いて近くの喫茶店までやってくると、扉を開け、ちょっと懐かしく感じるカランコロンという音を聞きながら店の中に入った。
「山田さん、こっちです」
奥にいる桐ヶ谷さんが声をかけてくる。
相変わらず、他の客がいないのだが、桐ヶ谷さんの正面にはスーツを着た男性が座っていた。
「どうもー……八神さんもこんにちは」
何故か桐ヶ谷さんの対面に座っている八神さんに挨拶をする。
「ええ、あ、どうぞ」
八神さんが勧めてくれたので隣に腰かけた。
「いやー、我々が顔を合わせますと怪しい会合みたいですね」
桐ヶ谷さんが一つも面白くない冗談を言う。
はっきり言うが、俺はこの2人とは違う。
フランクなド庶民という自負がある。
「あのー、仕事の話と聞きましたが、なんで八神さんが?」
心構えをしたいから先に言ってほしかった。
「えーっと、私も面倒なことでしてねー……今からお仕事の話をさせて頂きますが、大前提として、協会からの依頼ではありません」
は?
「え? そうなんですか?」
「はい。ウチは窓口ですね。依頼主は例の名家連中の家です。まあ、私もそこなんですけどね」
名家……
「どこの家です?」
何も聞いてないし、キョウカとユウセイ君の家ではないだろう。
「九条家と天海家からです」
九条さんと天海さんの家か。
だから八神さんがいるのかな?
「内容を聞きましょう」
「依頼内容は悪魔教団に関わることです」
それは予想がついていた。
キョウカの話では九条さんと天海さんが協会に出向した理由もそれらしいし。
「教団もしつこいですね」
「それだけ大きいということでしょう」
「調査の依頼です?」
「はい。ですが、今回は戦闘も予想されています」
戦闘……
「悪魔ですよね?」
教団員は嫌だぞ。
「もちろんです。あなたはウチが誇る退魔師です。人間を相手にしてもらっては困ります。人間相手は慣れている別の者がやります」
桐ヶ谷さんそう言うと、隣の八神さんがメガネをクイッと上げた。
超怖い。
「場所は?」
内心では帰りてーと思いながらも平静を装いながら聞く。
「ちょっと遠いんですけど、長野です」
ちょっとかな?
まあ、関西よりかは近いけども。
「都内かと思ってましたよ」
「都内ならウチの範疇なんですけどね。長野は支部もないんです」
「九条家と天海家は?」
「別荘があるみたいですよ」
ブルジョアめ。
まあ、俺もセカンドハウスを作るんだけどさ。
「長野に悪魔教団の拠点があると?」
「いえ、そういうわけではありません。どうやら名家連中も独自に調査をしていたらしいのですが、そこでとある情報を得たわけです」
情報?
「何でしょう?」
「とある潰れたスーパーに悪魔がいるのではないかという情報です」
潰れたスーパー……
「ホームレスでは?」
「魔力を感じたそうです」
ホームレス魔法使い……んなわけないか。
「それだけで悪魔教団です?」
「この前、山田さんと加賀美さんで教団員の家を調べたでしょう? その際に見つかった教団員のリストの中に半年前にその潰れたスーパーを購入した男の名前があったんですよ」
つまり、その潰れたスーパーの所有者は悪魔教団というわけか。
そして、魔力を感じる。
教団所属の魔法使いか悪魔がいる可能性が高い……
「なるほど……そこまでわかっているわけですね」
「ええ。教団員のリストについては向こうとも情報を共有していますからね。それでこういう話が来たわけです」
「自分達でやらないんですかね?」
「教団を相手取った経験がないですからね。そういう意味で経験を積ませたいんじゃないですかね?」
九条さんと天海さんにか?
「まだ子供ですよ?」
「特殊な家ですし、何とも言えませんね。それは山田さんが一番わかっているんじゃないですか? あと、子供と言いますが、ツッコんでもいいですかね?」
「あ、ダメです」
キョウカのことは触れないで。
「高校生は大人でしたね」
「怖い、怖い……まあ、冗談はさておき、そういうことです。ウチにこの話が来たのはあの2人だけでは心もとないからでしょう。そこで2人と組んでいる八神さんと山田さんに指名依頼を出したわけです」
「俺もです? 八神さんだけで良くないですか?」
「敵の情報が少なすぎるんですよ。もしかしたら上級悪魔がいるかもしれません。そうなると、討伐実績のある山田さんが相応しいと判断しました。それに……ね?」
桐ヶ谷さんがチラッと肩にいるミリアムを見る。
「加賀美さんは……ないですよね?」
あの人にもロザリーがいるんだが、さすがにダメか。
「長野なら外泊もあり得ますし、あの人はマズいでしょ。あと、残念ながら盲腸で入院中です」
あ、そういえばそうだったわ。
「私ねー……」
「もう一つの理由としては向こうが安心する人選なんです。あなたは一ノ瀬家と橘家が保証してくれます。特に橘家は太鼓判を押すでしょう」
まあ、チームだしね。
キョウカはあれだし。
「うーん……」
どうしよっかなー?
「はいはい……依頼料の話をしますねー」
うん!
「聞きましょう」
「では……今回の依頼は協会ではなく、九条家と天海家の両家ですのでウチからは一切出ませんし、昇格の査定もつきません。ですが、両家からそれぞれ500万の依頼料が支払われます。つまり合計で1000万です」
桐ヶ谷さんが人差し指を立てた。
「それを八神さんと分ける感じです?」
「いーえ、それぞれに支払われます」
わーお。
「仕方がありませんね。まだ若い九条さんと天海さんには手助けが必要でしょう」
やれやれだぜ……
「はいはい……八神さんは?」
桐ヶ谷さんが呆れながら八神さんを見る。
「やりましょう。チームのリーダーを務めていますし、指導中の子達です。断る理由がありません」
良い人ー。
い、言っておくけど、俺だって、キョウカとユウセイ君が同じような感じになったらタダ働きでも行くんだからね!
「わかりました。期日は今週一週間です」
ん? 今週?
「九条さんと天海さんは学校では?」
「休ませるそうですよ。まあ、年度末最後の一週間ですしね」
うーん、それでも学校くらいには行けばいいのに。
「すみませんが、ウチはダメですよ? ちゃんと学校に行ってほしいですし」
「それはご自由に。私も正しいのは山田さんの考えだと思います」
となると、キョウカとユウセイ君は連れていけないな。
まあ、ミリアムがいるからいいか。
「八神さん、どうやって長野まで行きます?」
「新幹線かな? 一緒に行きますか?」
どうしよ……
まあ、事前に打ち合わせとかしたいし、そうするか。
「じゃあ、一緒に行きましょうか。明日でいいですか?」
「ええ。私もですが、あの2人も準備はいるでしょうしね。では、明日の朝に駅に集合ということで……」
「わかりました」
俺達はその後、連絡先を交換し、解散となった。
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