第235話 怖いんだから仕方がないじゃないかー
「とりあえず、一通り見て回ろうか」
「そうだな」
「お、おー……」
使えなくなったキョウカを引っ張りながら正面玄関から校舎の中に入る。
すると、当たり前だが、下駄箱があった。
「小さいね」
ユウセイ君達の学校の下駄箱よりかなり小さい。
「まあ、対象が小学生だからな。しかし、なんか懐かしく感じるわ」
確かにね。
子供の頃を思い出す。
「君らは数年前でしょ。俺はもっとだよ」
「まあ、山田さんは子持ちだからなー」
子持ちって言わないでほしい。
「ルリは子供じゃないよ」
「ホムンクルスだっけ? よーわからんなー」
それは俺もそう。
「まあね。どう? 魔力は感じる?」
「全然。回ってみよう」
俺達は歩き出し、各教室を回ってみる。
それで感じたのはやはりすべてのものが小さく見えたことだ。
自分が子供の頃には感じなかった感覚だが、さすがに背が伸びて、身体が大きくなると、そう感じるんだろうと思った。
だが、肝心の魔力は感じない。
「うーん、キョウカ、何か感じる?」
「タツヤさんの頼もしさー……」
ダメだこりゃ……
「前よりひどくなってない?」
「小学校はこえーからな」
あー、確かに高校より小学校の方がそっちのイメージが強い。
「土日とかの昼間に来れば良かったかな?」
「1週間待つのもな……まあ、キョウカは別にいいだろ。気絶したら背負ってくれ」
ドライな男だわ。
俺達はその後も見て回ったのだが、特に何もなかった。
そして、職員室を確認した後に最後に体育館に向かう。
「バスケットリングがこんなに低いんだ……」
「ホントだな」
ジャンプしたら届きそうだ。
「ここも空振りかなー?」
「まあ、何もいないならいないでいいけどな」
ユウセイ君はそう言って、端に落ちていたバスケットボールの方に行く。
そして、ボールを拾うと、スリーポイントラインからシュートを打った。
すると、ボールは綺麗な放物線を描き、リングに吸い込まれる…………と思ったのだが、何故か、ボールがリングの真上で止まる。
「ん?」
「あれ?」
「あ、魔力にゃ」
ミリアムがそう言った瞬間、リングの真上にボールを持った不気味な男が現れた。
しかも、宙に浮いているうえに下半身がない。
「怖っ!」
「てけてけじゃん」
あ、マジだ。
子供の頃に見た映画に出ていた気がする。
「悪魔かっ!」
急にキョウカが叫び、俺から離れる。
そして、空間魔法から刀を取り出して抜くと、てけてけに向かって駆けていく。
「いや、怖いんじゃないの?」
すげー度胸。
俺はあれに向かって走っていくのは無理。
キョウカはそのままものすごい勢いで駆けていき、ユウセイ君の横を通り過ぎると、飛び上がった。
そして、てけてけに向かって刀を振るう。
すると、てけてけは何もできずに真っ二つになり、そのまま消えていった。
「おー、かっけー」
キョウカは着地し、刀を鞘に納める。
バスケットボールがバンバンと跳ねている中、こちらを振り向いた。
「ふっ……私の敵ではない」
かっこつけて前髪を払ったのだが、すぐにカサカサとこちらにやってきて、俺の腕にしがみつく。
「いや、てけてけは怖くないの? おばけじゃん」
「あれは悪魔……斬れるものは怖くない……」
あれって悪魔なの?
「いやー、てけてけなんて見たのは小学校以来だわー」
ユウセイ君もこちらにやってくる。
「おばけじゃないの? 昔、怪談とかで見たよ?」
「いや、あれはそういう悪魔だ。てけてけのモチーフなんだと思う。実際、俺らもてけてけって呼んでる」
マジかよ……
じゃあ、トイレの花子さんとかもいるんだろうか?
「こわー……俺、過去一でびびったよ」
子供の頃の恐怖が蘇った。
「わかる、わかる。てけてけは姿が消えるんだよ。その際には魔力も消えるから発見が難しいんだ。前に山田さんがおばけが怖くないのかって聞いてきた時に小学校のトイレで悪魔退治をした時に慣れたって話をしたじゃん? あの時もこんな感じで悪魔を探して、トイレに入ったんだけど、個室に入った瞬間に魔力を感じて見上げたらあれがいた。泣いたな」
そりゃ泣くわ。
超が付くほどのトラウマイベントじゃん。
よくそれで慣れるな……
「すんごい経験してるね」
「トイレで良かったわ……」
あー……まあ、それは仕方がないよ。
「とりあえず、悪魔は倒したにゃ。これでいいだろ」
「あ、そうだ。協会に電話して、調査員に来てもらうわ」
ユウセイ君がスマホを取り出して、耳に当てながら外に歩いていった。
「キョウカ、終わったよ」
「か、帰りましょう。ルリちゃんが私の帰りを待ってる……」
いや、俺の帰りだよ。
君は自分のウチに帰りなさい。
「いっそ偽令嬢キョウカさんになるのはどう?」
「ほう……? あ、あ、あなた……賢いですねぇー……」
ダメだこりゃ……
「ほら、キョウカ、ミリアムだよー」
「にゃー」
ミリアムがキョウカの肩に移動する。
「おー……お姉ちゃんのことが好きなんだねー」
「……にゃー」
頑張れ、ミリアム!
「山田さん、すぐに来るってさ」
ユウセイ君が電話を終えて、戻ってきた。
「了解。じゃあ、車まで戻ろうか」
「そうだな……お前、いつまで山田さんに抱きついてんの?」
今さら?
「ふ、ふん! 辺境伯夫人だぞ!」
「そういやそうだったな。制服だと違和感というか、パパ活感がやべーから」
パパ活言うな。
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