第230話 飛ぶ
お茶会という名の美容講座が終わり、ラヴェル侯爵のお屋敷をあとにすると、借家に戻り、リンゴ村の研究室の前に転移した。
「タツヤさん、長くなってすみませんでした」
キョウカが謝ってくる。
「いや、いいよ。おかげさまでクラリス様も承諾してくれたから」
これで俺達はクラリス様にものを渡すだけでいい。
「クラリスもマリエル様もああいうのが好きなんですよ」
モニカが苦笑いを浮かべた。
そういうモニカの爪は普通だ。
モニカは最低限のことはするが、あまり派手にはやらない子なのだ。
「まあ、そういう人達だからこそシャンプーなんかを売ったわけだしね」
「ですね。キョウカさんはおしゃれですし、美意識が高いですから助かります」
そういえば、よくルリに教えているわ。
さすがは華のJK。
「キョウカ、あのヤスリみたいなもののお金も出すから選んでくれる?」
2人からくれという要望があったのだ。
「わかりましたー。それで何をするんですか? 帰らないんです?」
あ、そういえば、キョウカはミリアムと遊ぶのに夢中で話を聞いてなかったわ。
「ほら、温泉を作る話を進めようかと思ってね。あと、モニカの家」
「モニカさんの家ですか? この辺に作るんです?」
キョウカが木を切って平地となっている空間を見る。
「そうそう。モニカの家って遠いじゃん。せっかくお風呂から上がったのに帰るまでに冷めちゃう」
「まあ、そうですね…………タツヤさんが転移で送ればいいのでは?」
この子って本当にバカなのかな?
賢くない?
いや、俺が気遣いができないんだ……
「ま、まあ、そうだね……でもほら、モニカは朝から来ることもあるしさ」
最近はルリもゆっくり起きるため、俺達が起きる前にモニカが来ていることも多い。
「うーん、確かにそうですね。それでどの辺りに作るんです?」
「えーっとね、棒で地面に描いたんだよ。まず、キョウカの案を採用して、この研究室から通りというか廊下を作る」
地面には研究室の出入口からずーっと2本の線が伸びており、途中で曲がって平地に伸びていた。
「確かに描いてありますね。研究室とモニカさんの家というか部屋を繋ぐわけですね?」
「そうそう。あとはまだ作れないけど、セカンドハウスとこれから作る温泉も繋げる」
「なるほど。温泉は良いですよね。入りたいです」
キョウカも温泉は好きらしいからな。
そのためにモニカやルリと色々と揃えていた。
「うん。それでね、この村とハリアーの村の舗装工事が終わって、村人達の手も空きそうだから通りとモニカの家、あと温泉は作りたいなって思っているんだ」
「ほうほう。例の魔法は?」
「完成したらやる。モニカの部屋にもパソコンを置いてあげたいからね」
よく見てるし。
「研究室はどうするんです? あれって見えないんじゃなかったですっけ?」
「一時的に結界を解く。その後にまとめて結界を張る予定。村の人達を信用してないわけではないけど、さすがにね」
爺さんの本があるし、異世界はマズい。
「なるほどー。では、今日はその確認ですか?」
「うん。まあ、時間もないし、温泉だね」
俺達は廊下ができる予定の2本線の間を歩いていき、穴が開いている温泉予定地までやってきた。
自然を重視して、ちょうど森との境界辺りだ。
ちゃんと結界は張るので野生の動物や魔物、他にもいないと思うけど、覗き魔は入れないし、覗けない。
「この穴ですか……どうやるんです?」
「この前の温泉を参考にして、石とセメントでどうにかする」
「できます? 難しいような?」
まあ、素人だし、専用の機械もないしな。
「調べてみるとそこまで難しくなさそうなんだよ。魔法があるからね」
「あ、確かにそうですね。タツヤさんは色々な魔法が使えますし」
「ミリアムとルリのおかげだね」
あと爺さんが残してくれた本。
「でも、セメントと石って用意できるんです?」
「セメントはネットでもホームセンターでも売ってるから大丈夫。問題は石だね。森の中にあるんだけど、結構な量が必要そうなんだよ」
「あー、確かにそんな感じはしますね。セメントばかりだと無機質ですし」
ホントにね。
「そうそう。だからそれが大変なんだよね」
「手分けします? ユウセイ君も空間魔法は使えますし、皆で手分けするんです」
それも考えたんだが、森はなー……
危険だし、迷子の可能性もある。
あと、多分、さすがにモニカがへこむ。
モニカ、空間魔法を使えないし……
「山田、石材ならあっちにいっぱいあるぞ」
肩で大人しくしていたミリアムが尻尾で西の方を指す。
「いっぱいって?」
「あっちに岩山がある。そこから採取すればいいだろ」
「え? そんなのがあるの? ここって森じゃないの?」
大森林って言うくらいだから木しかないのかと思っていた。
「いや、森だけど岩山もあるぞ。もっと言えば、南に湖もあるぞ」
え? マジ?
「全然、知らない……ミリアム、よく知ってるね」
「そりゃ飛べば見えるからにゃ」
ミリアムが肩から離れ、目の前に浮く。
「あ、そっか。ミリアムは飛べるもんね」
それでも肩にいてくれるのは俺のため。
可愛くて良い子なのがウチのミリアムさんなのだ。
「そうそう。だから飛べばわかるぞ。お前も飛ぶか?」
ん?
「飛べるの?」
「そりゃ魔法だからにゃ。そんなに難しくないにゃ」
マジ?
「ルリも飛べる?」
「さあ? 飛べるんじゃないか? でも、飛ばないだろうな」
ん?
「なんで?」
「キョウカ、お前でもできると思うが、飛びたいと思うか」
「いやー、ちょっと……」
キョウカがもじもじしながら下半身を抑えた。
あー、スカートだと見えちゃうのか。
「ジーパンとか穿けば?」
パンツスタイルなら大丈夫。
「私は穿きません。絶対にスカートです」
こだわりかな?
「そっか……しかし、空を飛ぶってなんか怖いな」
今もやっているけど、竹とんぼみたいな道具で飛んでいるアニメを子供の頃に見ていた。
あの頃から思っていたが、絶対に怖いだろ。
「落ちてもお前の防御魔法なら問題ないにゃ」
「それはそうなんだけどねー……」
わかっていても怖いものは怖い。
バンジージャンプと一緒。
「仕方がないにゃー。ちょっと試してみるにゃ」
ミリアムが肩に戻った。
「試しって……あれ!?」
なんか足が……うわっ!
浮いてるし!
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