第023話 マジかよ……
タイマー協会本部のビルに着き、中に入ると、エントランスにある自動販売機の前に桐ヶ谷さんがいるのを見つけた。
「桐ヶ谷さん」
俺は桐ヶ谷さんに近づくと、声をかける。
「おや? 早いですね」
「すぐに出ましたからね。ちょうど朝食を食べてゆっくりとしていたところだったんですよ」
「そうですか……何か飲まれます?」
桐ヶ谷さんが自動販売機を指差した。
どうやら奢ってくれるらしい。
「ありがとうございます。では、コーヒーを」
そう言うと、桐ヶ谷さんが缶コーヒーを買って渡してくれる。
「そこで話しましょう」
「ええ」
桐ヶ谷さんがエントランスにあるソファーを指差したのでそこに行き、腰掛けた。
「朝から申し訳ありませんね」
「いえいえ。本来なら上司の小言、部下への指導、電話の対応に追われている時間ですよ」
「ははっ、それもそうですね。さて、お呼びしたのはまず、これをお渡ししておかないといけないからです」
桐ヶ谷さんはそう言って、懐から黒い手帳を取り出し、テーブルに置く。
それを受け取ると、手帳を開き、中身を見てみた。
そこには俺の顔写真と共に何かのエンブレムがついている。
「警察手帳みたいですね」
「似たようなものです。それが身分証明になりますので肌身離さずお持ちください。でも、失くさないでくださいよ?」
失くしたらマズいだろうな。
「もちろんですよ」
そう答えると、手帳を懐にしまった。
「本当なら入社式みたいなこともするんでしょうが、ウチはそんなことはしません。歓迎会もないです」
別にしてほしくない。
「表立って活動できない組織だからですか?」
「もちろん、それもありますが、退魔師の皆さんの都合もあるんです。実は退魔師は数が極端に少ないため、ある程度の自由や要望に応えています。例えばですが、ウチは副業がありです。というよりもウチを副業にしているケースもあります」
「へー」
こんなにもらっているのにとも思うが、自営業とかのケースもあるのかもしれないし、何とも言えない。
「あとは顔や名前を晒したくないとかですね」
「え? 危ない人でもいるんですか?」
さすがに指名手配犯はいないだろうけど、裏の社会の匂いがする。
「というよりも、他の退魔師を信用していない感じですね。力があるわけですし、この力を人に向けないとは限りませんから」
それもそうだな。
力を得て、増長する人間も中にはいるだろう。
「私も気を付けます」
「ええ。自衛は大事です。その他にも色々ありますが、一番は別組織の存在です」
別組織……
「敵対組織とかですか?」
「まさか。実は退魔師というのは意外と歴史が古くて、昔からそういうのを生業としている家があるんですよ」
「陰陽師的な?」
もしくは、神職や寺のお坊さん。
「まあ、そんな感じです。そういった家は歴史が古く、一言でいえばプライドが高いです。とはいえ、我々も国の機関ですし、協力して事に当たっているのが実情になります」
「でも、仲が悪いでしょ」
話を聞いて、仲が良いとはとても思えない。
「私の口からは何とも……ご想像にお任せします」
悪いんだな。
「まあ、私には関係ない話ですね」
「いえ、それがそうもいかないわけです」
え?
「何かあるんですか?」
「実を言いますと、これまでは退魔師にある程度の自由を与え、任せてきました。ですが、近ごろ、それはどうなんだという声が内部で上がっています」
「何か問題が?」
「新人指導くらいはするべきではという話です」
あ、そういうことか。
「それは確かにあったほうが良いでしょうね」
「ええ。何せ、この間、ウチに入った子が女子高生でして……」
女子高生……え?
「あ、あの、もしかして、トイレの子です?」
「本人にはそれを言わない方が良いと思いますよ? まあ、そうです。橘君ですね」
そういえば、橘って名前だったな。
「あの子、本当に高校生だったのか……いや、制服はやめましょうよ」
「学校帰りだったようです。着替えるように言ったんですけどねー……ハァ」
40前のおっさんがため息をつく。
「しかし、高校生なんてよく雇いましたね? さすがにマズいのでは?」
「そうですね。これがさっきの話に繋がります。橘君は橘家という由緒ある退魔師の家の子でしてね。橘家の御当主さんから修行のために働かせて、鍛えてほしいと頼まれたのです。こちらも人材不足ですし、協力いただいている橘家の頼みは断れなかったのでバイトという扱いで採用しました」
「すごいですね。漫画の中の話みたいです」
「他人事のように言いますね、退魔師の山田さん」
あ、俺もその世界の人間だった。
しかも、家にはホムンクルスとしゃべる猫がいて、休日には異世界に行って大魔導士様をしてる。
俺が一番、漫画の中の住人だわ。
「友人や親に言ったら病院を勧められそうです」
「ですねー……さて、話を続けます。そういうわけで現在は仕事を始めて1ヶ月間は単独での悪魔退治は控えていただいています。もちろん、緊急事態等もありますし、先ほど言ったような人の都合というのもありますから特に罰則を設けているわけではありません。ですが、上としてはなるべく、新人一人だけで動いてほしくないと思っております」
「まあ、そうですね。それで私の場合はどうすれば?」
桐ヶ谷さんがついてくれるんだろうか?
「ええ。今日、お呼びしたのはその相談です。実は山田さんにはチームを組んでほしいのです」
「チーム?」
「はい。3人組、つまりスリーマンセルですね」
「3人ですか……」
多いな……
「どうですか?」
「その3人というのは? 桐ヶ谷さんもです?」
「いえいえ、私みたいなおじさんと組むのは嫌でしょう?」
おい……
話の流れで誰と組むのか想像がつくぞ……
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