第222話 偽物だもの
陛下との話も終わり、部屋を出ると、中庭まで戻り、馬車に乗り込んだ。
「ラヴェル侯爵、私達はここで失礼します」
馬車が動き出し、城を出たところで一礼する。
「うむ。ひとまずはこれでいいだろう。今回の謁見は陛下がお前を疑っていないというアピールだからな。あとは領地に戻り、大人しくしておけ」
そういうことね。
他の貴族にそういうことを知らしめるための呼び出しだったわけだ。
「わかりました。とはいえ、また妻と共にマリエル様を訪ねます」
「ああ。こちらもそれを望む。貴殿はウチの派閥であり、それは揺るがない。そういう根回しもしておく」
「ありがとうございます。では、お先に失礼します」
俺達は転移をし、家の玄関に戻った。
「俺、疑われたんだね」
靴を脱ぎながらモニカを見る。
「大魔導士という称号がよくありませんでしたかね?」
「名乗った覚えはないけどね」
俺達は廊下を歩き、リビングに戻った。
「ただいまー」
「ただいま戻りました」
「にゃー」
ミリアムが飛び降り、一目散にコタツに入っていく。
「おかえりなさい。お茶を淹れますね」
俺とモニカがコタツに入ると、ルリが番茶を用意し、俺とモニカの前に置いた。
「ありがとうねー」
「ありがとうございます」
俺達は冷えた身体をコタツと濃い番茶で温める。
「しかし、陛下は全然疑ってなかったね? ちょっとドキッとして転移で逃げようかと思ったよ」
「タツヤ様にそんな気がないのがわかっていたのでしょう。それにラヴェル侯爵が保証してくれたんです。我らはラヴェル侯爵の腰巾着ですからね」
「それって俺らがクロだったらラヴェル侯爵の責任問題にならない?」
保証するというのはそういう意味だ。
「なると思います。ラヴェル侯爵も当然、それはわかっています。それだけの信頼を得たのでしょう」
なんで?
「そんなことしたかな?」
「十分にしていると思います。それにタツヤ様はどう見ても野心がありませんからね。あとはキョウカさんのおかげでしょう」
「キョウカ?」
何かしたかな?
「マリエル様はキョウカさんを大変に気に入られております。理由は非常に言いにくいですが、キョウカさんは感情が思いっきり顔に出るうえに陽気でわかりやすいですからね」
「バカにゃ」
ミリアムが顔を出して要約すると、すぐにサッと引っ込む。
「まあ、否定はしないよ」
良いところでもあるんだよ?
可愛いじゃないか。
「貴族は騙し合いですからね。マリエル様はそんな世界で生きてきたからこそ、キョウカさんやクラリスを気に入っているんです」
クラリス様も感情を思いっきり出すからな。
しかも、遠慮ゼロ。
「妻役がキョウカで正解だったわけだ」
「だと思います。私は絶対に気に入られません。そもそも、同性に嫌われやすいですから」
「そんなことないと思うけどね」
こら、ルリ!
モニカの胸をじーっと見るんじゃない!
「そんなことあるんですよ……友達も少なかったですしね。まあ、何にせよ、これでタツヤ様に疑いの目が行くことはないです」
「ラヴェル侯爵も動いてくれるし、陛下のアピールもあるなら大丈夫か」
「はい。それに我々は貴族夫人からの支持もあります。シャンプーなどの整髪料を売りましたが、ほとんどの方から定期購入の要望が来ております」
消耗品だもんね。
「それは大きいね」
「はい。直接的な繋がりではないですが、その夫である当主の方々にも少なからず影響します」
俺らに何かがあったらシャンプーなんかは手に入らなくなるからな。
「じゃあ、安心だ。当分はゆっくりできるね」
「はい。そろそろ工事も終わるでしょうし、村の道の整備と温泉を作りましょう」
「そうしよう」
俺達はその後も話し合いながら過ごしていく。
すると、夕方になり、キョウカがやってきた。
「こんにちはー。そして、ご迷惑をおかけしまーす……」
キョウカがコタツに入り、ミリアムを引っ張り出す。
「いっそカンニングでもするか? 私が答えを教えてやるにゃ」
認識阻害で見えないからカンニングも余裕なわけだ。
「それをやったらいよいよ救いようがなくない? お姉ちゃん、皆からロクでもない奴扱いされてるのに評判が地に落ちちゃうよ」
「にゃー……」
ミリアムは目をそっと逸らした。
「キョウカ、ちょっといい?」
「え? すでに落ちてました?」
テストの時になると、自信がなくなる子だな……
「違う、違う。今日、陛下のところに行ってきたんだよ」
「あ、そうでしたね。どうでした?」
「色々と聞いてきたけど、その話はまたにするよ。それでね、王妃様が助けてもらった感謝ということで髪留めをくれたんだよ」
髪留めを取り出し、キョウカに渡す。
「おー、なんか上品です」
「着けてみてよ」
「ちょっと部屋をお借りしますね。制服には合わなそうです」
キョウカは立ち上がり、俺の部屋に向かう。
そして、しばらくすると、ローブに着替え、髪留めで髪をまとめたキョウカが戻ってきた。
「どうです? 似合いますかね?」
キョウカは薄っすらと微笑んでおり、偽令嬢キョウカさんになっている。
「すごく良いよー」
「大変お似合いだと思います」
「お姉ちゃんの上品さが上がってます」
「原形がないな……」
こら、ミリアム。
「ありがとうございます。よし、これで勉強しましょう。いける気がします」
それはどうだろう?
キョウカは隣に腰かけると、勉強道具を出し、ミリアムと試験対策を始めた。
まあ、すぐにメッキは剥がれた。
性格は変わっても頭は良くならないから仕方がない。
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