第221話 ごーり、ごーり(ver.2)
土曜に更新している本作ですが、来週からは木曜に変更します。
悪魔を倒した褒美として、俺は向こう100年の年貢なし、キョウカは王妃様から髪留めをもらった。
「して、山田。今日は悪魔教団のことを話そうと思っている。あまり大っぴらにはできんことだが、お前には話しておこう。お前は辺境伯だし、それは国の重鎮を意味するからな」
何度でも言おう。
30人程度の領民しか持っていない村長だぞ。
「いささか過大評価な気もしますが、それについては聞きたいと思っていました。私も悪魔を倒すのを生業としていますので」
「うむ。悪魔教団の始まりは不明だが、私が王になる前から存在すると言われてる。少なくとも50年以上前にもその存在が確認されていて、その記録が残っているのだ」
50年……
協会は設立からそんなに経っていないし、日本の悪魔教団がこっちに来たわけではなく、やはりこっちの悪魔教団が日本に勢力を広げたんだ。
「かなり前ですね」
「ああ。50年前に東の地で大規模な誘拐事件があった。一夜にして子供達が何十人も姿を消したんだ。そして、その数日後には町近くの洞窟でバラバラ死体となって見つかった」
バラバラ死体……
「それは……」
「当時の王である私の父はその地の領主を疑った。だが、調査の結果はシロだったし、さらには調査中にその隣の領地でも似たような事件が起きた。国はその2つの領主と共に軍を起こし、徹底的な調査を行った。結果、容疑者として浮上したのが悪魔教団だ」
「容疑者というのは?」
「その時はただの新興宗教団体だったのだ。特段怪しいこともしていない単純な神教の宗派の一つだ」
神教というのはこの世界にある宗教であり、一番根付いている最大宗教だ。
ウチの村にはないが、ちょっと大きい町なら教会もある。
前にモニカから聞いたことがあるが、別に変な教えはなく、ただ神に感謝しよう的な普通の宗教だなーという認識だった。
「どういう教えなんです?」
「神に感謝するのもいいが、努力もしようってやつだな」
普通だ。
「当たり前な感じがしますね」
「ああ。他にもそういう教えの宗派もあるし、神教ではない土着の宗教としてもそういうのはある。だから別におかしいことではない」
「でも、悪魔教団なわけですよね?」
「そうだ。信仰しているのが神ではなく悪魔。しかも、努力の方向が間違っていたわけだ」
悪魔の力を得るだもんな。
しかも、そのために他人を残虐な方法で犠牲にする。
「それからどうなったんです?」
「一斉摘発し、すべて死刑にしたと記録に残っている。悪魔教団が初めて表舞台に出たのがその事件だな」
「このことは皆が知っているのですか?」
「いや、宗教は関係なく、ただの宗派の暴走ということで処理しているし、悪魔教団の名は表には出していない」
出すべきではと思うが、当時のことはわからない。
「初めてとおっしゃいましたが、他にもあるんですね?」
「ああ。この50年で似たような事件が数件あった。その度に死刑となっているのだが、まったく減らん。他にも召喚の魔法陣を使ったテロなんかも起きている」
「よく隠せますね?」
無理では?
「お前は平和な村に住んでいるからわからんだろうが、魔物によるスタンピードやトチ狂った魔法使いの暴走なんかも少なからず起きているからな」
そうだった……
この世界は平和ではなく、魔物なんかも出る危ない世界だったわ。
街中に兵士がいるし、武器を持ったハンターもいる。
日本では考えられないことだ。
「そうでしたね……」
「とはいえ、悪魔を信仰するのはマズい。それでいて、この前の狼の悪魔だけでなく、街中に出たように上級悪魔を呼び出せるという可能性まであるからな」
上級悪魔を呼び出せるのは確かだが、ディオンは違う。
いや、悪魔教団が呼び出したのは確かなんだが……
やっぱり世界を跨がれると複雑だわ。
「かなり大きい組織なんですかね?」
「だと思う。外国と繋がっているのではという意見もあるくらいだ。それくらいに規模が大きそうだし、資金源もあると見ている」
資金源はありそうだ。
この前の悪魔教団の幹部の家宅捜索の家はかなりすごかったし、地下に通路を掘るなんて相当な予算がいるはずだ。
「こういうことを言いたくありませんが、その悪魔教団関係者がウチの貴族もしくは、城の中にいる可能性があるのでは?」
「言葉を選ぶのが好きだな、お前。はっきり言え。確実にいる、とな」
貴族を疑うと恨まれそうなんだよな。
告げ口したみたいだし。
「召喚の魔法陣を設置した者がいます」
「わかっておる。誰かがあそこに設置したのなら事前にあそこに入れた者かあの場にいたお前達の誰かが設置したことになる」
「はい。それは確実でしょう」
実際に名古屋支部も名古屋支部の人間が犯人だった。
「言っておくが、第一の容疑者はお前だぞ」
……まあ、疑われそうだなと思ってはいた。
「やっぱりです?」
「ああ。いきなり出てきて開拓村を成功させ、誰も見たことがない果実を流行らせた新興貴族だ。しかも、この国の人間ではないうえに大魔導士を名乗るほどの魔法使い。誰もが疑う」
まあ……怪しいね。
「私は陛下を救ったのも貴殿らの演出に思えましたな」
セザールさんが目を細めた。
「いや、違いますよ?」
「わかっておるわ。城に来るのも夜会に参加するのも嫌そうな顔をしおって」
え? 顔に出てた?
「そんなことないですよ」
「お前は非常にわかりやすいぞ。貴族というよりもリスクを減らすことばかり重視している商人に見える」
正直、俺もその感覚に近い。
リンゴとか整髪料を売っているし。
「小心者なんですよ」
「それもわかっておる。だから辺境で遊んでおるのだろう。そんなお前を無理やり貴族にし、夜会に誘ったのは私だ。お前はありえん」
そうそう。
俺じゃないですよ。
「私ではないのは神に誓って言えますが、そうなると他に犯人の目星は?」
「調査中だ」
まだ2週間だしな。
「そうですか……」
「非常に面倒だ。おかげで、一歩も外に出られない」
「それは仕方がないですよ。あの悪魔は明確に陛下を狙っていましたし」
キョウカと俺がヘイトを買わなかったら陛下に突っ込んでいた。
「わかっておる。だからこそ、セザールがついておるのだ。しかし、つまらん。ここ数日は籠りっぱなしだぞ」
それはそれで病みそうだな。
「あ、リンゴ酒を持ってきたんですけど、どうぞ」
空間魔法からリンゴ酒を取り出し、テーブルに置く。
「お前は本当に気が利くな。セザール、ラヴェル、息子にこういうのが出世するんだぞって言っとけ」
「そのようですな」
「伝えましょう」
やめて。
ゴマすり野郎って聞こえる。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
私が連載している別作品である『左遷錬金術師の辺境暮らし』のコミカライズが連載開始となりました。
ぜひとも読んでいただければと思います(↓にリンク)
本作共々、よろしくお願いします!