第220話 完全な独立領地
ラヴェル侯爵と話していると、馬車が城の中に入り、すぐに止まった。
「行くか」
ラヴェル侯爵が先に馬車から降り、俺とモニカも続く。
馬車から降りると、そこはいつもの中庭であり、たくさんの兵士がラヴェル侯爵に向かって敬礼していた。
ラヴェル侯爵は軽く手を上げ、城の中に入っていったので俺達もついていく。
「ラヴェル侯爵は人気ですね」
「軍属だからな。上官が来たらああなるだろ」
軍って厳しそうだしな。
「兵士がいつもより多いのはやはりこの前の?」
「ああ。あれから警備がより厳重になっておる。さすがに私や貴殿くらいの貴族にはしないが、男爵、子爵程度なら身元確認などの厳重なチェックをしている」
そこまでか……
というか、俺も顔パスなのかね?
実質、ただの村長なのに辺境伯ってすげーわ。
俺達は城の中を歩いていくが、やはり兵士の数がいつもより多い。
見た感じでは死角を完全になくしているように見える。
「……認識阻害を使われたらあまり意味ないけどな。魔法使いを入れないと」
ミリアムがボソッとつぶやく。
身もふたもないが、その通りであり、実際にラヴェル侯爵を含め、この場にいる全員がミリアムに気付いていない。
ちょっと不安になりながらもラヴェル侯爵についていき、階段を昇っていく。
すると、兵士2人が番をしている扉の前までやってきた。
「ご苦労」
「これはラヴェル侯爵に山田辺境伯。陛下がお待ちです。どうぞ」
兵士が勧めてきたのでラヴェル侯爵が扉をノックする。
「陛下、山田辺境伯をお連れしました」
『おー、入ってくれ』
ラヴェル侯爵が扉を開け、中に入った。
俺達も続いて中に入ったのだが、部屋の中には陛下ともう一人の初老の兵士しかいなかった。
陛下はテーブルについており、初老の兵士がその後ろに控えている。
護衛が一人しかいないのかなと思ったが、その初老の兵士は見るからに強そうだし、魔力も持っている。
多分、陛下の護衛のために兵士の中でもかなりの実力者を選んだのだと思われる。
「失礼します」
「ラヴェル、山田。よく来てくれた。まあ、かけろ」
陛下に勧められたので席につく。
モニカは俺の後ろに控えたままだ。
「陛下、まずですが、王妃様の容態は? それがずっと気になっておりました」
帰っちゃったから起きたところを見ていないのだ。
「問題ない。すぐに意識を取り戻したし、普通に生活しておる。お前の回復魔法のおかげだ」
正直、回復魔法はあまり関係ないと思うが、素直に礼は受け取っておく。
「ご無事なら良かったです」
「うむ。そういえば、山田は初めてだったな。こいつはセザール・バロー。元伯爵だな」
陛下が後ろに控えている初老の兵士を紹介してくれる。
「山田です。あの、元とは?」
どういうこと?
クビになった?
「私はすでに当主の座を息子に譲っておるのだ。引退して、妻と余生を楽しんでいたのに宰相殿に呼ばれた」
あー、そういうこと。
引退してたのに呼ばれるってことは相当な実力者で間違いないな。
「魔法使いですか?」
「多少は使える程度だ。貴殿の前で魔法を得意としているとは言いづらい」
俺の魔力も計ってる……
魔法使いとしても相当だわ。
「セザールは若い頃に活躍した我が国最高の剣士だ。護衛にぴったりだろ」
それは心強いだろうな。
「良いと思います。特に魔法が使える方を採用したのは英断です」
「うむ。相手は悪魔だからな。本当ならお前と嫁さんに頼みたいわ」
王様の護衛とか嫌だわー。
「さすがに厳しいですよ」
「わかっておる。本来なら辺境伯を城に呼ぶこと自体が変な話だからな。遠いからこそありとあらゆる権限を与え、その地を任せているんだから」
一種の独立国らしいからなー……
森しかないけど。
「頑張って遠いところから来ました」
所要時間1秒。
「はいはい。して、キョウカ夫人はどうした?」
「ちょっと別件がありまして」
テスト頑張って!
「そうか。礼をと思ったんだが、まあ、お前に言えば良いか。山田、この度はよく悪魔を倒してくれた。この功績は大きいぞ」
「ありがとうございます。ですが、私は貴族に任じられた時に国家のために尽くすと誓っております。当然のことをしたまでです」
「うむ! お前こそが貴族の鑑だな。褒美を取らせよう……と言ってもお前は辺境伯。これ以上の陞爵はない」
いつのまにやら一番上になったのか。
「陛下にはいつも良くしてもらっております」
「うむ。金なんか野暮だし、勲章もお前はいらんだろ? そこで、向こう100年の年貢をなしにしてやろう」
おー! おー?
「年貢ですか?」
「ああ。領地貴族は領民の人頭税なんかを国に納める必要がある。それを100年程なしにしてやる」
100年はすごいと思う。
確実に俺は生きていないから俺が生きている間は税金を納めなくてもいいということだ。
「30人程度しかいないんですけど……」
「今はな。今後はわからんだろ。言っておくが、破格だぞ。それほどまでにお前の功績は大きいのだ。お前達がおらんかったら私もヴィオレットも死んでいたかもわからん」
まあ、そうだけども……
いや、普通にありがたいことではあるし、断ることでもないか。
「ありがとうございます」
「うむ! それとお前の妻にこれをやる」
陛下が空間魔法から髪留めを取り出した。
どうやら陛下も魔法が使えるようだ。
「これは?」
「ヴィオレットからお前の妻への感謝だ」
陛下が髪留めを渡してきたので受け取る。
髪留めは金や宝石で花の意匠が施されており、綺麗だと思う。
それでいて、派手すぎず上品に感じる。
「ありがとうございます。妻も喜ぶと思います」
「うむ。大儀であったぞ。これからも国のために尽くしてほしい」
「もちろんです」
頑張って、セカンドハウスを作って、のんびり暮らします!
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
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