第022話 仕事始め
モニカさんを雇った後は家に戻り、通販で農具や肥料を注文した。
最近は翌日に届くことが多いが、少し時間がかかるようだった。
それでも今週中には届くみたいなのでまた来週にでも異世界の村に行ってみようと思う。
「さて、モニカの勧誘は上手くいったね」
注文を終えると、ルリが淹れてくれたコーヒーを飲む。
「お見事です。くすぶっている人の心をくすぐる良い勧誘だと思います」
「そりゃそうにゃ……」
まあ、桐ヶ谷さんに言われて嬉しかった言葉を言っただけだからなー……
「モニカが名産品って言ってたよね?」
「そうですね。やはりこちらの世界のものが良いんじゃないですかね?」
「機械や工芸品はやめて、この前、ルリが言った通り、農産物が良いと思うにゃ。森に生えてたから育てたと言い切ればいいにゃ」
確かになー。
それにモニカが言っていたように農具みたいなのを売って、その技術で武器を作れって王様とかに命令されても無理だしなー。
単純に嫌だし。
やはり農産物だろう。
「例の肥料があるし、選択肢が増えるな……果物の木でも良いわけだし」
最初は収穫の早い野菜かなと思っていたが、例の肥料のおかげで何年もかかる木でも十分に可能だ。
「そちらの方が自然かもしれません。森なわけですし」
「リンゴが良いと思うにゃ」
ん?
「なんでリンゴ?」
「あっちの世界にリンゴはないにゃ。だから物珍しさと美味しさで人気になるにゃ。あと、私が好きにゃ」
自分の好みかい……
まあ、俺も嫌いじゃないし、別にいいけど。
俺はネットでリンゴの栽培について調べてみる。
「あ、普通に苗木を売ってるし……」
これすらもネットで買える時代か……
「とりあえず、2本くらい買ってみるにゃ。実験して、良ければリンゴ農園を作るにゃ。それが良いにゃ」
猫さんの圧が……
「じゃあ、頼んでみるか……これは明日、届くらしい。すごいな……」
「よしよしにゃ。残っている肥料をスーパー肥料に変えて、育ててみるにゃ」
スーパー肥料……
「わかったよ」
俺は計画を決めると、この日は爺さんの本を読むことにした。
翌日、今日は月曜であり、いつもの俺なら死んだ目で起きていたことだろう。
だが、あら不思議。
今日は目が輝いている自覚があるくらいに快調だ。
俺は朝食を食べ終えた後、優雅な気分でコーヒーを飲んでいる。
ルリはテレビのワイドショーで芸能人の不倫報道を真剣に見ており、ミリアムは俺の膝の上で丸くなっている。
「学生時代の夏休みの初日を思い出すね。実に気分が…………ん?」
優雅にコーヒーを飲んでいると、スマホの着信音が鳴る。
スマホを手に取り、画面を見ていると、桐ヶ谷さんの名前が表示されていた。
「桐ヶ谷さん? 何だろう?」
こんな朝からと思ったが、普通に出勤している時間と思い、通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『山田さんですか?』
「ええ。おはようございます、桐ヶ谷さん」
軽快に挨拶をした。
『おはようございます。今、電話大丈夫でした?』
「もちろんですよ。どうかしましたかね?」
『山田さんは今日から正式にウチの人間になりましたから挨拶ですね』
そうか……
俺は今日からタイマー協会の人間か。
しかし、入ってみると、やはり名前のセンスが気になってしまう。
「わざわざありがとうございます。無理をしない程度に頑張りたいと思います」
『良い心がけです。実は最初に無茶をする方もいらっしゃるんですが、その点、山田さんは安心ですね』
そんな歳でもないしな。
「小さい子がいますしね」
『良いことです。それとなんですが、お渡しするものや今後のことでお話がありますのでお時間が空いた時で構わないので協会に来ていただけますか?』
あそこか……
事情聴取後も説明を受けに何回か行っている。
「わかりました。ちょうど時間が空いていますのでこれから伺おうかと思います」
『そうですか。では、お待ちしています』
通話を切ると、スマホをコタツ机に置く。
「ルリ、ちょっと協会の方に顔を出してくるよ」
「わかりました」
ルリはこちらを見て、頷いたが、すぐにテレビでやっている不倫の謝罪会見に視線を移す。
そんなに面白いんだろうか?
「ミリアム、来る?」
「行くにゃ」
「わかった。じゃあ、着替えてくる」
膝に乗っているミリアムをどかして立ち上がると、自室に行き、スーツに着替える。
そして、リビングに戻ると、ミリアムを抱えた。
「ルリ、リンゴの苗木が届くと思うから受け取っておいてくれる?」
「わかりました。いってらっしゃいませ」
俺とミリアムはルリに留守を任せると、家を出て、電車まで向かう。
「電車かー……」
ミリアムは嫌そうだ。
「もうこの時間だとあそこまでは混んでないよ」
「そうにゃ? それは良かったにゃ。でも、これから金持ちになるんだから車を買っても良いと思うにゃ。この前の桐ヶ谷の車はすごかったにゃ」
確かにすごかった。
しかも、後から聞いたのだが、あれは自家用車らしい。
「免許は持ってるけど、仕事で社用車に乗っていたくらいであまり乗ってないからねー。まあ、車を買うのはいいかもしれない。実は俺、釣りが好きなんだけど、車がないと厳しいんだよ」
遠いもん。
「それが良いにゃ。お前が痴漢で捕まるところなんか見たくないにゃ」
捕まらないよって言い切れないのが怖い。
通勤時もそれだけは注意していた。
もちろん、冤罪でって意味ね。
俺達は駅に着くと、電車に乗り込み、タイマー協会の本部に向かった。
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