第216話 圧
あれから2週間が経ち、2月も終わろうとしていた。
その間、陛下からもラヴェル侯爵からも連絡はない。
なので、いつもの日常を過ごしていた。
昼間は村のことや魔法の研究、さらにはセカンドハウスなんかを考え、夕方になると、退魔師の仕事をしたり、ウチにやってきたキョウカとユウセイ君を交えて思い思いに過ごしていた。
土日も2人は遊びに来てたし、楽しい2週間だったと思う。
だが、2月の最後の土日はちょっと修羅場だった。
まあ、修羅場と言うのは大げさだが、翌週末から期末試験が始まるため、ミリアムがキョウカの勉強を見て、へとへとになっているのだ。
「キョウカ、だからそれはこっちの公式にゃ」
「これ? えーっと……」
土日はフルで勉強しており、日曜の夕方となった今もミリアムがキョウカに教えている。
ルリは夕食の準備をしているからこの場にはいないが、俺とモニカは勉強しているキョウカを眺めながら大丈夫かなって思っている。
なお、ユウセイ君は来ていない。
あの子はできる子だから家で余裕を持って勉強していることだろう。
「キョウカ、あまり根を詰めすぎない方が良いよ?」
「お小遣いのためです。それにテストという地獄もカウントダウンに入っています」
大学に行かないキョウカは高校で試験が終わる。
あとは今回を含めて6回といったところだ。
結構、多いな……
「頑張って。また終わったら海にでも行こうよ」
キョウカと行くとまったく釣れないけどね。
「ケーキバイキングもつけてください」
「うん……」
それくらいならいくらでも連れていくよ。
「よし、やる気が出てきたぞ」
「そこ違うにゃ」
「あれ?」
大丈夫かな?
「お姉ちゃん、夕食の準備ができましたし、ご飯にしませんか?」
ルリがリビングにやってくる。
「カレー、食べる」
今日の晩御飯はカレーだ。
まあ、匂いでわかっていた。
「あ、手伝います」
モニカが立ち上がり、ルリと共に準備をする。
そして、皆でカレーを食べだした。
「美味しいね」
「ルリさんは本当にお上手です」
「ありがとうございます……」
モニカに褒められたルリは嬉しそうだ。
「甘口カレーのエネルギーが全身に行き渡る……」
キョウカは大丈夫か?
「美味いにゃ。やっぱりカレーはビーフにゃ」
ミリアムがどうやって食べているかというと、尻尾を伸ばしてスプーンを持っている。
化け猫っぽいけど、なんか可愛い。
俺達はその後もカレーを食べ続け、食事が終わると、キョウカの勉強が再開した。
そして、8時を回ったところでさすがに終わりにし、キョウカを送っていく。
「大丈夫?」
助手席に座るキョウカはなんか魂が抜けている感じがした。
「私、バカなんですよ……」
うん……けっして成績は良くないね。
「まあ、誰にでも得意不得意はあるって。俺だって、たいして変わらなかったし」
正直、成績はそこまで良くなかった。
「それでも大学に行ったんですよね? すごいですよ。私は絶対に無理です。だから他で頑張るんです!」
「退魔師?」
「それと山田夫人ですね」
山田夫人……
高貴さゼロ。
「全国の山田さんに悪いけど、橘夫人の方がかっこいいね」
一ノ瀬夫人でもいい。
まあ、それはやめてほしいけど。
「そこは言いっこなしですよ。それともアーネットがいいですか?」
アーネットはモニカの苗字だ。
「タツヤ・アーネット?」
「ごめんなさい。一番なかったです」
俺もそう思う。
言わないけど、山田モニカは語呂も含めてもっとひどい。
「まあ、この前みたいなこともあるし、苦労をかけると思うけど、頼むよ」
「任せておいてください」
ちゃんと貴族夫人もできていたし、もうパーティーに参加することもないだろうから問題ないだろう。
「今週、来週は退魔師の仕事はなしでいいね?」
協会も退魔師不足だが、やはり2人には学業を優先してほしい。
たとえ、大学に行かないとしても大事なことだろう。
「すみませんが、それでお願いします」
「わかった。俺は何もできないけど、頑張って」
「そんなことないですよ。やっぱりミリアムちゃんが教えてくれることもですけど、タツヤさんに見られると、やろうって気になります」
監視の目かね?
まあ、1人だとキョウカが言っていたように漫画なんかの誘惑に負けてしまう。
「明日からも来ていいからね」
テストは金曜から始まるらしい。
「ありがとうございます…………あの、タツヤさん、来週のことなんですけど」
ん?
「何? テストでしょ」
「いや、モニカさんの誕生日があるじゃないですか」
知ってたのか。
「そうだね」
「何かするんですか?」
「一応、ルリが御馳走を作るって言ってたよ。あとまあ、プレゼントを渡すかな……」
もうネックレスは買ってある。
「そうですか。お出かけとかした方が良くないです?」
「キョウカがそれを勧めてくるのは意外だね」
確かにキョウカの誕生日には温泉に行った。
「べ、別にいいじゃないですか。モニカさんは良い人ですし、嫌いじゃないですから」
うーん……
「人斬りキョウカちゃんになってよ」
「私は度量のある正妻なんだ。小さいことには目くじらを立てない。それにモニカさんも支えてくれるって言ってた!」
まるめ込……
「そう……でもまあ、確かにお出かけくらいはしてもいいかもね」
ちょっとモニカに聞いてみるか。
「良いんじゃないです? あのー、ちなみになんですけど、ルリちゃんの誕生日はいつなんですか?」
それね……
「不明。覚えてないんだって。ミリアムも知らない」
「ホムンクルスですもんね……タダシさんも亡くなられてますし」
そうなんだよなー。
どっかにメモとか日記がないかも探したが、そういうのは一切なかった。
「どうしようかね?」
「出会いはいつなんです?」
「8月末だね。ほら、コンビニで100円あげたでしょ? あの数日後」
通夜、葬式と出て、爺さんの家に行ったらいたのだ。
ちょっと懐かしい。
「あー、はいはい。そうだったんですね。じゃあ、その日でいいんじゃないです?」
「そんな適当で良いもん?」
「ないより良いですよ。出会った日は特別なんです」
それもそうか。
「そうしようかな……」
皆の誕生日を祝うのにルリだけないのは可哀想だ。
「ですです。私の娘ですから」
お姉ちゃん呼びを強要する母。
「あ、そうだ。俺の誕生日は祝わなくていいからね。悲しくなるから」
36歳になってしまう。
「それは絶対に祝うよ。逆にとても大事なことだからね」
プレッシャー……
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