第212話 パーティーの終わり
王様の口からまさかの悪魔教団の名前が飛び出てきた。
「悪魔教団ですか……」
過剰に反応してはいけない。
悪魔教団は俺達があっちの世界で戦ってきた敵だが、それを説明することはできないのだ。
だから知らないフリが良いだろう。
少なくとも今はそれで通し、後で皆と相談するべきだ。
「知っておるか?」
「いえ……何と言うか直接的というか安直な名前だなと思って……」
「まあ、そうだな。実はそういう組織が暗躍しているという情報を掴んでいるし、いくつかの隠れ家を抑えたこともあるんだ」
隠れ家か。
まあ、あんなことをする組織だし、表立って行動していないだろう。
そういうことも含めて、あっちの世界にいた悪魔教団と共通している。
とはいえ、まだ同一組織ではないという可能性も残されている。
「悪魔を信仰するというのはどういうことですか?」
「悪魔の力を得ようとしているんだ。そのためには手段を選ばんし、今回のようなテロや暗殺、誘拐なんかの被害報告もある」
似てるなー……
「このことは皆が知っているわけではないのですか?」
「民は知らん。貴族の中でも知っているのは一部だけだ」
「ラヴェル侯爵がご存じなのはわかります。クロード様は?」
「あのレベルの貴族なら知っておる。だからこそ、お前の村を襲った上級悪魔の際にはあれだけ迅速に動けたのだ」
そういうことか……
「あれも悪魔教団ですかね?」
「その可能性は低いと考えている。これまでの報告で上がっている教団のやり方と異なるし、あれは盗賊だろう」
バルトルトは教団とは関係ないか。
まあ、誰かに従うような悪魔ではなかったしな。
「その悪魔教団ってどれくらいの規模なんですかね?」
「不明だ。だが、小さくないことだけは確かだな」
日本にいた奴らも規模はけっして小さくなかった。
「そうですか……」
「山田、今回のことも含めて、再度話がしたい。今日はもう遅いし、夫人を連れて帰れ」
あ、そうだ。
キョウカは明日も学校だ。
「すみませんが、そうさせていただきます」
「うむ。後日、また呼ぶし、褒美も取らせよう。今日は大義であった。お前達がおらんかったら危なかったわ」
確かにな。
会場が襲われることを想定していなかったのだろうが、警備があまりにも薄かった。
「かしこまりました。では、これで失礼します」
「陛下、私も失礼します」
「うむ」
俺とラヴェル侯爵は部屋を出ると、マリエル様とキョウカが待つ部屋に戻る。
すると、マリエル様といつものローブに着替えたキョウカがベッドに腰かけて待っていた。
「詳細な話は後日となった。今日はもう遅いし、帰るぞ」
ラヴェル侯爵がそう言うと、2人が立ち上がる。
そして、4人共、何も言葉を発せずに馬車に乗り込み、ラヴェル侯爵のお屋敷に帰ることにした。
「辺境伯。貴殿らの借家まで送ろうか?」
それはありがたいが……
「いえ、転移で帰りますので大丈夫です」
「そうか」
俺が転移を使えることはラヴェル侯爵夫妻も陛下も知っていることだろう。
リンゴ村から王都までは往復で20日以上かかるというのにしょっちゅう顔を出しているし、呼ばれればすぐに参上している。
俺は大魔導士と呼ばれているし、さすがに察するだろう。
その証拠に陛下は後日、話をすると言ったが、俺を引き止めなかった。
普通は往復で20日以上もかかるなら王都に留まるように指示をする。
「またリンゴ村に連絡してください。すぐに来ますので」
「わかった。ならば、もうここで転移して帰るといい。わざわざ屋敷まで待つ必要はない」
それもそうだな。
「わかりました。本日はこんなことになりましたが、ありがとうございました」
「ドレスをダメにしてごめんなさい」
頭を下げると、キョウカも下げた。
「よい」
「そうです。あんな場面でそんなことを気にする必要はないですし、陛下と王妃様を救ったのは大功績です。誇りなさい」
「ありがとうございます。それではこれで失礼します」
再び、キョウカと揃って頭を下げると、転移を使い、家の玄関に戻る。
「ふう……」
「大丈夫ですか?」
一つ息を吐くと、キョウカが俺の背中に触れた。
「なんかヤバそうなことが発覚したよ」
「そうなんです?」
「ああ。でも、こんな時間だし、明日にしよう。明日だけど、退魔師の仕事を中止にする。悪いけど、学校終わりにユウセイ君とウチに来てくれる?」
明日も仕事をする予定だった。
だが、早急に話し合わないといけないだろう。
「わかりました」
キョウカも軽い理由ではないことを察したようで頷いた。
「送っていくから着替えておいで」
「わかりました。でも、タツヤさんも着替えましょうよ」
「あ、そうだった」
俺達はリビングに戻ると、ルリに頼んでキョウカが着替えるために部屋を貸してもらう。
俺も自分の部屋で着替えると、車でキョウカを送っていった。
家に帰ると、すでに時刻は11時を回っていたのでルリとモニカに先に寝るように伝え、風呂に入る。
ちょっと考えながら湯船に浸かると風呂から上がり、リビングに戻った。
すると、ルリはいなかったが、まだモニカがコタツに入って待っていた。
「あれ? どうしたの?」
「もうちょっとお邪魔しようかと思いまして。飲みます?」
「そうだね。モニカも飲む?」
「いただきます」
酒だけは遠慮せんな。
「ちょっと待ってね」
俺は冷蔵庫に行き、ビールとモニカ用のストゼロを取ると、リビングに戻り、乾杯した。
「タツヤ様、パーティーで何かありました?」
ストゼロを一口飲んだモニカが聞いてくる。
「あった、あった。ヤバいことがあったよ。明日、そのことも話すから夕方にウチに来てくれる? これは皆で共有して、相談すべき話」
「わかりました」
モニカはそれ以上何も聞かずに頷いた。
「それとネックレスだけど、王妃様は気に入ったっぽいよ」
「それは良かったです。ちょっと気になってたんです」
モニカがほっとしたような表情を浮かべる。
「誕生日プレゼントとして贈ったことにも感謝してたし、お金より信頼を取る作戦は成功だった思う」
「はい」
「それとだけど、整髪料関係やネックレスのことも御婦人方に聞かれたし、正式な注文もあった。明日まとめるから用意してくれる?」
予想通りのことではあったが、食い付きがすごかった。
「かしこまりました」
「じゃあ、お願いね」
俺達はその後も話をしながら飲み、12時を超えた辺りで寝ることにした。




