第211話 なんで?
ウェアウルフを倒した俺はキョウカが気になり、振り向く。
すると、真っ白いドレスを赤く染めたキョウカが立っており、ウェアウルフは地に伏していた。
どうやらキョウカの方も倒したらしい。
俺はキョウカの方に向かう。
「大丈夫?」
「問題ないね。この前よりちょっと強い程度」
確かにそんな強くなかったな。
「キョウカさん」
マリエル様が近づいてきた。
「はい?」
マリエル様は血で汚れたキョウカのドレスを見る。
「こちらに来なさい。あまりその姿を晒すのはよろしくないです」
マリエル様がキョウカの腕を取り、出入り口の方に向かったので俺もついていく。
すると、俺達が会場を出たと同時に兵士達が会場になだれ込んでいった。
「遅いなー」
「城に侵入を防ぐのが兵士の仕事です。まさかいきなり城の中に現れるとは思わなかったのでしょう」
まあ、そうだろうな。
しかし、誰が設置したんだろう?
それを考えながら歩いていると、マリエル様とキョウカがとある部屋に入る。
部屋はただの客室のようでベッドなんかが置いてあった。
「キョウカさん、着替えは?」
「あ、持ってきてます」
キョウカが空間魔法でラヴェル侯爵のお屋敷まで着ていたローブを取り出す。
「この部屋には浴室もありますから血を落として、それに着替えなさい」
「わかりました。ドレスはどうしましょう?」
「処分です」
まあ、血は落ちにくいしな。
真っ白なドレスだし、厳しいだろう。
「もったいないですね」
「ドレスなんかいくらでも買ってあげます。いいから早く行ってきなさい」
「はーい」
キョウカは浴室の方に向かっていく。
「ふう……」
マリエル様が一つ息を吐いた。
「なんで悪魔が城に?」
「わかりません。当たり前ですが、これまでにこんなことは一度たりともありませんでした。それにしても、あなたが大魔導士なことはわかっていましたが、見事でしたね。キョウカさんも見事でしたが、どうしてもあの子は褒められませんけど」
まあ、血まみれの貴族夫人はね。
「ああいうのを祓うのが仕事なもんで」
「わかっています。あんなものの侵入を許した城の者の落ち度でしょう」
落ち度なんだろうか?
でも、わかっていることがある。
あの魔法陣を設置したのは城の人間だ。
また面倒なことになったなーっと思っていると、ノックの音が部屋に響く。
「何ですか? 取り込み中です」
マリエル様が答えた。
『マリエル、私だ。辺境伯はそこにおられるか?』
あ、ラヴェル侯爵だ。
「出ます」
そう言って、扉に近づき、開くと、ラヴェル侯爵が立っていた。
「辺境伯、ケガはないか? 夫人もだが……」
「どちらもケガはないです。今、キョウカが血を落とすために浴室を借りているところです」
「そうか。すまんが、来てくれんか? 王妃様が気を失われたので回復魔法を使ってほしい」
やっぱり気を失ってたか。
「わかりました。マリエル様、キョウカを頼みます」
「ええ。行ってきなさい」
キョウカをマリエル様に任せ、部屋を出ると、ラヴェル侯爵についていく。
「会場は?」
「皆は帰宅させた。今は兵士や魔法使いが現場検証しておる。貴殿らのおかげでケガ人はいない。だが、さすがにこれは大問題だ」
「城に悪魔が現れたんですからね」
「そうなる。当分は荒れるな」
巻き込まれませんように。
俺達が歩いていき、とある部屋の前に立ち止まった。
すると、ラヴェル侯爵が扉をノックする。
「陛下、山田辺境伯をお連れしました」
『入ってくれ』
ラヴェル侯爵が扉を開け、中に入る。
部屋は先程と同じような客室だった。
ベッドには王妃様が横たわっており、そのすぐそばでは王様が椅子に座っている。
さらには5人の兵士が2人を守るように立っていた。
「山田、頼む」
「かしこまりました」
陛下に頼まれたので王妃様のもとに行き、回復魔法をかける。
「山田、見事であった。よくぞ悪魔を倒してくれた」
回復魔法をかけていると、陛下が褒めてくる。
「いえ、皆が無事で良かったです」
「うむ。ケガ人が出なかったのは幸いだった。しかし、お前の妻は怖いな。魔法使いなんだろうが、剣筋が見えんかったぞ」
人斬りキョウカちゃんはね……
「剣術を得意としていますので。まあ、ちょっとだけ恐いなって思う時はあります」
ちょっとだけね。
「まあいい。山田、あの魔法陣は何だ? お前達が真っ先に動いていた。あれを知っているな?」
「あれは召喚の魔法陣です。悪魔を呼び出すためのものです」
「あれが召喚の魔法陣か……」
ん? 知ってるのか?
「ご存じで?」
「うむ……お前の妻は悪魔を専門に倒す魔法使いだったな?」
「ええ、そうです。私もそういう仕事もしています」
「そうか……」
え? 何?
「どうしましたか?」
「ちょっと待て。ラヴェル侯爵、どう思う?」
陛下がラヴェル侯爵を見る。
「間違いないかと思われます」
マジで何の話をしているんだろう?
「そうか……山田、実は今回のことは初めてではないんだ」
え?
「マリエル様はこんなことは一度たりともなかったと言っておられましたが?」
「この城ではな。だが、別のところではあった。いきなり魔法陣が現れ、悪魔が現れるんだ。この前のお前の妻が仕留めた上級悪魔もそれかと思っている。だが、いまだに召喚の魔法陣が見つかっていない」
まあ、あれは召喚の魔法陣ではなく、ディオンの転移だからな。
「そんなことが……」
「ああ、犯人もわかっている」
「え? わかっているんですか?」
だったら捕まえたら?
「そうだ。だが、いまだに実態が掴めていないのが現状だ。辺境伯も気を付けるといい」
「ハァ? 犯人は誰なんです?」
気を付けろと言われてもね……
「悪魔教団という悪魔を信仰するカルト教団だ」
え?
ここまでが第5章となります。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
引き続き、第6章もよろしくお願いいたします。