第021話 やる気スイッチ
「モニカさん、私はこの村をもう少し発展させたいと考えています」
「そうですね。それは皆が考えることですし、山田さんならできそうな気がします」
「ありがとうございます。その時に交易なども考えないといけないですし、人材がいります。もちろん、農家を担う人々もですが、村長さんみたいに文字の読み書き、算術ができる者です」
知識がないとぼったくられるし、食い物にされてしまう。
「それはそうでしょうね……どこかから雇う必要があります」
「はい。私は自分の研究がありますし、いつもここにいるわけではありません。さらには村長さんも高齢です」
「それは確かにそうですね」
モニカさんも同意した。
「ですので、私はあなたを雇いたいと思っています」
「わ、私ですか? 確かに文字の読み書きや算術くらいはできますけど……」
「あなたはこの村に1年も住み、村民の方々も信頼しているでしょう」
「そ、そうですかね?」
モニカさんは照れたような感じでまんざらでもない顔をしている。
「先程も言いましたが、私はいつもここにいるわけではありませんし、村長の経験もない。ぜひとも力になっていただきたい。もちろん、給金もそれ相応のものをお支払いします」
いくらくらいが相場かはまだ調べていないが、相場以上を払おう。
「い、いいんですか? 私、落ちこぼれ魔法使いですよ?」
「そんなことはありませんよ。私はあなたを高く買っています。能力のある者はそれ相応のところで働くべきです。はっきり言いますが、あなたの今の仕事は別の者でもできるでしょう。ですが、この仕事はあなたしかできないのです!」
俺の心が激しく動いた誰かさんの営業ゼリフを流用する。
「わ、私が必要……!」
すげー効いてるわ。
さすがは魔法の言葉。
「はい。私はこの村を発展させていきます。あなたはその時、村の重鎮になるんです」
「重鎮……村……町……貴族…………」
モニカさんがぶつぶつと色んなことをつぶやく。
「モニカさん、この村には……私には……あなたが必要なんです!」
「必要…………やりまぁす!」
うんうん。
わかるぞー。
2週間前の俺を見ているかのようだ……
「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
そう言って握手を求めて、手を差し出した。
すると、モニカさんはすぐに俺の手を握り、ぶんぶんと振る。
「よろしくお願いします! 頑張ってお仕えします!」
「よろしくお願いします。では、モニカさん、もう少し話に付き合ってください」
「はい! あ、あの、呼び捨てでいいですよ? それに敬語もいいです。雇い主でしかも、年上の方に敬語を使われるのに違和感が……」
そういうものかな?
まあ、異世界だし、そんなに固くなくてもいいのかもしれない。
フレンドリーでアットホームな職場にしよう。
すごく地雷臭がするワードだけど……
「じゃあ、それで。モニカ、村長さんが俺に村長の座を譲ると言っていたけど、それは認められるの?」
「はい。村長さんや村民の皆様が認め、人格や人柄に問題ないのなら認められるでしょう。私がそのように報告します」
わかってるな、この子。
「じゃあ、頼む」
「お任せください。それとあの肥料や農具、魔法のことなんですけど……」
俺が話をしたいことをモニカの方から話してくる。
「マズいかな?」
「はい。魔法はまだ大丈夫だと思いますけど、あの農具と肥料はマズいです」
「農具も?」
「はい。精巧すぎます。とてもではないですが、畑を耕すのに使っていいものではありません。あの技術があることを国が知れば武器を作れと言われそうです」
それを言われると困るな……
日本に武器は売ってない。
「隠すべきかな?」
「はい。ですので、私はこのことを報告しません。単純に上手くいったとだけ報告します」
よくわかってるわ。
やっぱりこの子も頭がいいな。
「頼む。それと肥料についてだけど……」
「あれは絶対にマズいです。村民の方々に緘口令を敷くべきです」
そこまでか……
「どうすればいい?」
「そこは村長さんもわかっているでしょうし、相談して皆に話します。もし、王都にバレたら山田さんがどこかに行ってしまうとか言えば大丈夫でしょう」
「どこにも行かないけど?」
「脅しです。実際、タダシ様が人との関わりを避ける方でしたので有効かと……」
偏屈なだけだけどね。
「じゃあ、そこも頼むよ」
「お任せを。すぐに村長さんと話し合いをします。それと今後、町を発展させるうえでこのモニカに提案があります」
ノッてるなー……
やる気に満ち溢れていますわ。
「何?」
「私は監査官を務めていますので他の開拓村を知っていますし、友人や同僚から話を聞くこともあります。そうすると、成功する開拓村には共通点があるんです」
ほうほう。
「それは?」
「名産です。畜産でも農産物でも何かの名産品を作れば、商人が寄ってきます。それで収入を得て、町が発展してくのが成功例の一つです。山田さんは昨日の大根ですか? ああいう種を持っておられました。何か王都などの大きな町で流行りそうなものがあれば、この町は大きく発展していくと思われます」
なるほど。
それは確かにそうだ。
「わかった。考えてみる」
「はい。そういう実績を作り、将来的には一代貴族になりましょう。偉大なる大魔導士様である山田さんなら可能です」
やる気はここまで人を変えるか……
「そのためにはモニカの力が必要だ」
よくわかった。
この子は褒めて伸びるタイプの子だ。
「お任せを! このモニカ・アーネット、身命を賭してお仕えします! そして、必ずや山田さんを大貴族にしてみせましょう!」
自らを落ちこぼれと言ってネガティブだった子はいなくなったようだ。
いや、マジで変わりすぎ。
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