第206話 ??「勉強なんかより大事なものがあるんですよ……そう、それは愛」
家に帰ると、スーツに着替える。
そして、ミリアムを連れて、また車に乗り込み、キョウカとユウセイ君が通う高校近くのファミレスに向かった。
4時前にはファミレスに着き、駐車場で2人を待っていると、すぐにやってきて車に乗り込んでくる。
「こんにちはー」
「お疲れさん」
いつものようにユウセイ君が後部座席でキョウカが助手席だ。
「お疲れ。今日はどうする?」
「昼休みにキョウカと相談したんだが、最初だし、これでいんじゃないか?」
ユウセイ君がスマホを見せてくる。
どうやら低級悪魔が公園に出るらしい。
悪魔って公園に集まる習性でもあるのかね?
「じゃあ、そこにしようか。行くよー」
「はーい」
「頼むわー」
車を発進させ、公園を目指して出発した。
そして、道中でユウセイ君に土日のことを話し、水曜のことも話したところで公園に到着する。
日が落ち始めているもののまだ暗くなってはおらず、公園には何人かの人がいたので車内で待機することにした。
「王様に謁見し、王妃様とお茶会、さらには貴族のパーティーか。2人共、完全に別世界の人間になったな」
ユウセイ君が笑う。
「辺境伯だよ、辺境伯。山田辺境伯って言われた時に笑いそうになった」
絶対に橘辺境伯や一ノ瀬辺境伯の方が良い。
「いいんじゃねーの。村だし」
「まあ、そうだけどね。とにかく、そういうわけで明日と明後日は休みね」
「了解。まあ、水曜は俺もバイトだしな。パーティーに出る山田さんの紳士服とキョウカのドレス姿を写真で撮って送ってくれ」
笑う気満々。
「男性はスーツみたいな服らしいから面白みはないよ?」
燕尾服らしい。
「つまんね。じゃあ、キョウカに期待だな。おほほな感じだろ?」
どんな感じだよ。
いや、伝わるんだけどさ。
「ユウセイ君も巻き込めば良かった」
「さすがに俺が山田さんの息子はないだろ」
実はそうでもなかったりする。
俺が35歳でユウセイ君が17歳だから差は18歳だ。
なくはないどころか、俺って早婚な2人の親とそんなに変わらない。
「山田ユウセイか……」
なくはない……
「息子よ」
ミリアムの手を取って遊んでいたキョウカが振り向く。
「お前、俺より誕生日遅いだろ」
「どうせ設定だからいいじゃん」
設定とはいえ、よく考えたら17歳の息子と17歳の嫁だ。
なんか嫌だ。
「単純に巻き込まれたくない。2人で貴族世界を生き抜いてくれ。俺はお前と違って切り替えられないし、何より、敬語が苦手」
陛下にタメ口はマズいなー……
「お前ら、悪魔が来たぞー」
ミリアムにそう言われて公園を見ると、すでに誰もいない公園に佇むスーツ姿の男性がいた。
ぱっと見は何か切ない気もする。
魔力的には低級だし、憑りつかれているのだろう。
「ようやく私の出番か……」
あ、人斬りキョウカちゃんだ。
「行くか」
「そうだね」
肩にミリアムを乗せたキョウカが先に降りたので俺とユウセイ君も車を降り、哀愁漂うサラリーマンのもとに向かう。
「すみませーん」
声をかけると、サラリーマンがこちらを振り向いた。
しかし、声をかけた俺ではなく、キョウカを見ている。
「お前らのせいで……」
ん?
「私は痴漢じゃないっ!」
サラリーマンはそう叫ぶとキョウカに襲いかかった。
しかし、キョウカは軽く身を翻すと。サラリーマンの突進を躱し、逆に蹴って体勢を崩す。
「冤罪かな? でも、私には痴漢どころか暴漢にしか見えんよ」
うん。
それはそう。
「おのれ!」
「そこを突かれて、憑りつかれたといったところか……まあ、暴漢に同情はいらんな」
キョウカが笑いながら刀を抜く。
「偽令嬢キョウカさんよりこっちの方が様になっていると思ってしまう俺も毒されたか」
「あんたの奥さんだぞ、山田辺境伯」
辺境伯って偉いんだろうけど、地味に悪口に聞こえるんだよな。
「それよりもどうする? キョウカに任せる?」
「まあ、それでいいんじゃ…………終わったな」
キョウカは一気に肉薄し、サラリーマンを一刀両断する。
すると、サラリーマンが膝をつき、地に伏した。
あ、いや、両断はしてないんだけどね。
「瞬殺だね」
キョウカ、強いなー。
今ならフィルマンに勝てるんじゃない?
「新・オヤジ狩り」
やめーや。
「しょうもないこと言ってないで、調査員に電話してよ」
キョウカが刀をしまいながらユウセイ君に文句を言う。
「はいよ」
ユウセイ君に調査員を呼んでもらうと車に戻る。
「早めに出たからまだいけるね」
「じゃあ、ここかな?」
ユウセイ君がまたもやスマホを見せてきた。
「そうしよっか。行こう」
俺達はその後も悪魔の情報がある場所を巡り、低級悪魔を倒していったのだが、4体の低級悪魔を倒したところで夜の8時を回ったので終了にし、2人を送り届けることにした。
「やっぱり多いな」
後部座席のユウセイ君がスマホを見ながらつぶやく。
「確かにね」
この時間から動いて4体はさすがに多い。
いつもは空振りの時もあるのに。
「他の退魔士さんがいないからでしょうね」
キョウカもスマホを見ている。
「多分ね」
例のあの人もインフルだし。
「人手が増えると良いですけどねー」
「まあね。また桐ヶ谷さんと話をしてみるよ」
2人を送り届けると、家に帰り、夕食を食べることにした。
すでにルリとモニカは夕食を終えていたのでミリアムと2人で食べる。
「お疲れ様です。明日はパーティー用の服を買いに行きますけど、大丈夫ですか?」
モニカが聞いてくる。
「俺は大丈夫だけど、キョウカがね。まあ、今日も元気いっぱいにサラリーマンを斬ってたけど」
若さだ。
「キョウカさんは学校がありますからね」
「ユウセイ君もだけど、来年度はもうちょっと楽になると思うよ。進学しないし、就職先も決まっているわけだから」
俺の時は地獄の受験勉強だった。
あれがないというのは良いと思う。
特にキョウカはパンクするんじゃないだろうか。
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