第203話 お好み
買い物を終え、昼前になった。
「ご飯はどうしようか?」
「せっかくだし、こっちで食べません? ちょっと気になります」
「良いと思います」
キョウカとルリはこっちで食べたいらしい。
「モニカは?」
「ええ。私もそれでいいと思います……ただ」
「ただ?」
「あのー、朝からずっと気になっているんですけど、ミリアムさんは?」
あれ? ミリアム?
「キョウカ、ミリアムは?」
「え? 知りませんよ?」
あれ?
「ルリ?」
「家で寝てるかも……」
「ちょっと見てくるよ」
転移を使い、自宅の玄関に戻る。
そして、リビングに入ったのだが、誰もいない。
「ミリアムー?」
返事がない……
でも、いると思う。
だって、電気がつけっぱなしだし。
俺はここかなーと思いながらコタツをめくる。
すると、中で丸まって寝ているミリアムがいた。
「ミリアムー、ご飯食べに行くよー」
そう声をかけると、ミリアムが顔を上げる。
「朝ご飯か?」
………………。
「いや、昼御飯」
「私の朝ご飯は?」
怒ってる?
「いや、なんで来なかったのさ」
「寝てた」
「俺、悪くなくない?」
起きろよ。
「お前、猫に正論を言うなよ。私らは食っちゃ寝して、にゃーにゃー鳴くのが仕事だぞ」
上級悪魔のくせに……
殲滅の悪魔のくせに……
「ごめんね。ほら、おいで。王都でご飯を食べるからさ」
「これは虐待だな。ペット虐待だ。晩飯は寿司だな」
寿司が食べたいだけだな、これ……
「和食が良いもんね。出前でも取ろうか」
「そうするにゃ」
ミリアムが起き出し、コタツから出てきた。
そして、すり寄ってくる。
可愛い。
「ほら、行くよ」
ミリアムを抱えて、立ち上がった。
「ところで、お前らは何をしていたんだ?」
「買い物。俺は見てるだけ」
「コタツで正解だったにゃ」
俺も正直…………いや!
楽しそうな3人を見れて楽しかったさ!
俺はミリアムを抱えたまま転移し、キョウカ達と合流する。
そして、モニカに案内され、王都で人気のレストランで昼食を食べることにした。
「シンプルな味付けですけど、美味しいですね」
「素材の味を生かしてますね」
キョウカとルリは食レポをしながら謎の肉料理を美味しそうに食べており、俺は2人前を頼んでミリアムに分け与えながら食べ進める。
「確かに美味しいね」
「そうですね」
モニカもゆっくりとだが、美味しそうに食べている。
「モニカはあっちの世界だと何が好きなの?」
「どれも美味しいですけど、ピザやドリアが美味しかったですね。チーズが良いです。こちらの世界にもチーズがあるのですが、質が全然違います」
モニカがそう言うと、ルリがうんうんと頷いた。
ルリもピザが好きなのだ。
特にシーフード。
「ごめん。今夜は出前の寿司だよ」
ウチの殲滅の猫さんがそう言うから仕方がない。
「タツヤさん、お寿司で謝るってすごいですね」
キョウカが呆れた。
「確かに……」
贅沢すぎる。
「いや、お寿司も好きですよ。というか、生魚なんてこっちでは絶対に食べられません」
生は危ないからなー。
「モニカさんって卵かけご飯は食べられます?」
キョウカが外国人がすごく嫌うことを聞く。
「何ですか、それ? ご飯に卵をかけるんです?」
「うん、生卵をかけて醤油を垂らす日本のソウルフード。納豆とネギをプラスするとなお良し」
わかるんだけど、ソウルフードで良いんだろうか?
「へー……食べたことありませんね」
「ウチの朝食はパンだからね」
ルリがトーストにチョコホイップを塗るのが好きだから仕方がない。
俺はバター。
マーガリンではなく、バター。
上級になったもんだぜ。
「美味しいのに」
それは知ってる。
「ちょっと食べてみたい気になりますね」
「じゃあ、明日の朝においでよ。納豆はないけどね」
ミリアムさんが嫌がるから。
「お願いします」
異世界人モニカの生卵初挑戦が決まった。
まあ、すき焼きの時にルリも普通に食べていたし、大丈夫だろう。
俺達は昼食を食べ終えると、ラヴェル侯爵のお屋敷の客室に戻った。
「ルリ、お屋敷で待ってる? それとも帰る?」
「帰ります。テレビを見ながら待つことにします」
ルリはテレビが好きだからな。
「じゃあ、送っていくよ」
「いえ、1人で帰れます」
ん?
「転移?」
「はい」
あ、ルリも次元転移が使えるんだ。
「じゃあ、待ってて。さっきも言ったけど、今夜はミリアムの要望でお寿司を頼むから」
「わかりました。では、先に戻っています」
ルリはそう言うと、あっという間に消えてしまった。
「おー! ルリちゃんも転移が使えるんですね! さすが私の娘!」
設定的に娘じゃないって否定できないんだよな……
あと全然似てない。
ルリが帰って少しすると、部屋にノックの音が響く。
『山田様、馬車の用意ができましたので玄関までお越しください』
この声はメイドさんだ。
「すぐに行きます」
返事をすると、キョウカを見る。
すると、すでに暗示を使ったようで姿勢を正して微笑んでいた。
「参りましょうか」
「そうだね」
俺達は客室を出ると、階段を降りる。
すると、マリエル様が待っていた。
「お待たせしました」
「ええ。キョウカさん、大丈夫ですか?」
やっぱり心配なんだな。
「はい。問題ありません」
偽令嬢キョウカさんが涼しい顔で頷く。
「よろしい。では、参りましょうか」
俺達は外に出ると、馬車に乗り込み、お城へ向かった。
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