第201話 これが男女の差
俺達はしばらく部屋で休んでいたが、マリエル様が呼んでいるということでマリエル様の部屋に向かう。
すると、席についてお茶を飲むマリエル様とクラリス様がいた。
「ごきげんよう」
クラリス様が優雅に挨拶をしてくる。
「だからなんであなたが挨拶をするんですか」
「すみませーん……」
クラリス様がしょぼんとする。
何となくわかってきたが、ポーズだけでたいして反省はしていない。
「まったく……まあ、かけなさい」
マリエル様に勧められたので席につく。
「今日はお招きいただきありがとうございます」
「当然のことです。それよりも辺境伯に任じられたと聞きました。まずはおめでとうございます」
ラヴェル侯爵から聞いたか。
「ありがとうございます」
「私としても目にかけているあなたが出世するのは大変嬉しく思います」
「感謝しております」
「それで? キョウカさんは大丈夫でした?」
やはり心配になるのはそこか。
「普通に受け答えできておりましたし、問題なかったです」
「そうですか……」
マリエル様がちらっとキョウカを見る。
「教えを頂いて感謝しております。何分、若輩者でしたので」
偽令嬢キョウカさんが微笑む。
すると、マリエル様がクラリス様を見た。
「胡散臭さが半端ないわね。後ろから斬りかかりそう」
クラリス様……
「そんなことしませんよ。フォークより重いものを持ったことがありませんわ」
刀、刀ー。
「あんた、よくそんなにすらすらと嘘が出るわよね。人斬りになってみてよ。ニヤニヤしながら悪魔の首を刎ねた本当のあなたが見たいわ」
違うよー……
こっちが本当のキョウカだよー……
「夫が嫌がるので拒否しますわ」
「嫌がってないってー」
何を言いますか。
「本当に?」
キョウカの笑みが消えた。
「いや、わざとやってるでしょ」
ホラーじゃん。
「うん!」
キョウカがとびっきりの笑顔で頷いた。
非常に可愛いし、こっちが本当のキョウカだろう。
……もうわけわかんなくなってきた。
「胡散臭いでも人斬りでも何でもいいですが、普通にしなさい」
マリエル様はまったく動じずにそう言いながらお茶を飲む。
「はーい」
いつものキョウカが軽く返事をし、お茶を一口飲んだ。
「マリエル様、明日のことなんですけど……」
「そうですね。まずはそこの話です」
マリエル様がカップをテーブルに置く。
「先ほどの陛下の話しぶりでは陛下も同席されるように思いました」
「多分、同席するでしょう。ですが、目的のものをもらったらさっさと退場すると思います。陛下もお忙しい身ですから」
若干、バカにしているように聞こえるのは気のせいだろうか?
「王妃様はどのような御方なんです?」
「ここにはあなた達しかいませんからはっきり言いますが、普通です」
ん?
「普通とは?」
「そのままです。特にこれといって特徴がない方です。もちろん、お美しい方なのですが、本当に普通ですし、印象に残りません。存在感という意味ではキョウカさんとは真逆ですね。多分、王妃様とキョウカさんと話をし、家に帰って思い出してみると、誰もがキョウカさんの方は思い出せるけど、王妃様の方はぼんやりしていると思います」
うん、褒めてないな。
「うーん、私としてはこのところ強烈な女性と話をしたのでそちらの方が良いですね」
「キョウカさんですか?」
なんでだよ。
「あまり自分の妻をそういう表現しなくないですか?」
「では、違う女性ですか…………あなた、女難の相が出てません?」
それはもう出てない…………らしい。
「そんなことありませんよ」
「そうですよー」
「ふっ……」
キョウカがうんうんと頷くと、クラリス様が鼻で笑った。
「余計なことを言いましたね」
マリエル様がお茶を飲む。
「マリエル様、明日の流れは?」
「お茶会は午後からになります。今日は泊まっていくとしても明日の午前中は王都を見て回ったらどうですか?」
そういや借家とここを行ったり来たりだけで王都を知らんな。
「行きたい?」
キョウカに聞く。
「魔道具を見たいですね」
言ってた温泉のやつか。
「じゃあ、そうしようか」
正直、長々とこのお屋敷にお邪魔するのも気が引けるし。
「では、午後にウチに来てください。馬車でお城に向かいます」
当然、王妃様はお城だわな。
また行くわけだ。
「お願いします。ちなみにですが、ラヴェル侯爵は?」
「あの人は来ません。お茶会が好きな人ではないですからね。お酒ばっかりです。まったく……」
出た……愚痴だ……
「それもそうかもですね……」
「ハァ……」
うーん、気まずい。
何が気まずいってラヴェル侯爵からも愚痴を聞いていること。
俺達はその後もマリエル様の夫への愚痴を聞きながらお茶会を続けた。
夕方になると、夕食をご馳走になり、辺境伯になったことへのお祝いをしてもらう。
その後はマリエル様がキョウカとルリを連れていったので俺もラヴェル侯爵の部屋に向かい、マリエル様の愚痴を聞いた。
そして、いい時間になったので客室に戻ると、キョウカとルリがソファーに並んで座りながら何かの雑誌を読んでいた。
「何を読んでるの?」
ソファーに近づきながら聞く。
「ファッション雑誌ですよ。ルリちゃんが見てみたいそうです」
あー、ファッション雑誌か。
「そういうのも買ってもいいよ?」
ルリにはタブレットをあげている。
電書はいくらでも買ってもいいと言ってある。
「あまり服とかに詳しくないんです。その点、お姉ちゃんは詳しいですから」
なるほど……
ルリはまだあっちの世界の日が浅いし、俺はファッションにめちゃくちゃ弱い。
実際、クリスマスプレゼントのマフラーもキョウカを頼った。
「キョウカ、お願い」
「はーい」
キョウカが雑誌をルリに見せながら説明をしている。
非常に微笑ましいなと思いつつ、なんか本当に継母みたいだと思った。
そして、そんな2人を眺めながらワインを飲み、順番にお風呂に入る。
なお、キョウカが一緒に入ろうとルリを誘ったのだが、ものすごい勢いで首を横に振っていた。
最後に俺が風呂から上がると、2人はベッドに入りながらいまだに雑誌を読んでいた。
「面白い?」
ベッドに横になると、ルリに聞く。
「勉強になります」
ルリは真剣な目をしている。
やっぱり女の子なんだな。
「またお姉ちゃんに教えてもらいなよ。でも、今日はもう寝よ」
スマホを見ると、もう11時を回っている。
「そうですね。お姉ちゃん、この雑誌、借りてもいいですか?」
遠慮がちなルリがおずおずと聞く。
「いいよー。いっぱいあるし、今度、他のも持ってきてあげる」
キョウカが笑顔で頷いた。
「ありがとうございます……」
「いいんだよー。さあ、寝よ、寝よ」
キョウカがルリを抱き寄せる。
ルリは特に嫌がっている素振りがない。
「おやすみなさい……」
「うん。タツヤさんもおやすみー」
「おやすみ……」
なんでだろう?
ものすごく悔しい……!
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
本日より、本作の2巻が発売となりました。
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大変ありがたいことですし、ここまで応援していただき、ありがとうございました。
ぜひとも書店に立ち寄った際は本作の2巻を手に取って頂けると幸いです。
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