第020話 村長へ
研究室に着き、そのまま出ると、村に向かう。
そして、村長さんの家を訪ねたが、誰もいなかった。
「あれ? 留守?」
「畑じゃないでしょうか?」
「私もそんな気がするにゃ」
まあ、俺もそう思わないでもない。
俺達は村長さんの家をあとにすると、昨日の畑に向かう。
すると、畑には村長さん、モニカさん、コーディーさんの3人が畑の一部を見下ろしていた。
正直、昨日から動いていないんじゃないかと思う光景だ。
「どうしました……」
声をかけようとしたが、途中で言葉が止まった。
何故なら、3人の足元にはふさーという擬音が出てきそうなくらいな葉っぱが見えているからだ。
「実ってますね。もう少しで食べられそうです」
「ホントにゃ」
俺達も3人のもとに行き、大根の葉っぱを見下ろす。
「おはようございます。すごいですね……」
村長さんが挨拶と共に苦笑いを浮かべた。
「山田さん、あっちを見てくれ」
コーディーさんが指差した先は俺が昨日、最後に大根の種を埋めた場所だ。
そこには何も生えていなかった。
まあ、それが普通だ。
「そうなると、やはり肥料でしょうね」
「だと思う」
皆が同時に頷く。
「タツヤ殿、この肥料はどれくらい用意できるものなんです?」
村長さんが聞いてきた。
「時間を多少もらえば、いくらでも……」
通販で買うからそれが届くのを待つだけだ。
「なるほど……光明が見えるどころではありませんな」
「ですね……」
「タツヤ殿、早急に用意してくだされ。それで目途が立った時に正式にあなたに村長の座を譲ります」
早っ。
「早くないですか?」
「いや、すでに村の者は皆、あなたを知っております。それに昨日、農具を提供してもらったことと木を切って農地を広げたことで皆、喜んでおりました。それに加えて、この肥料です。もはや誰も反対しませんし、むしろ、喜び、あなたを崇拝します。これはチャンスですぞ」
上に立つ者に必要な人気が最好調なわけか。
「タツヤさん、タツヤさん」
ルリが俺の背広を引っ張ってきたので身をかがめた。
すると、ルリが耳打ちしてくる。
「本当に今がチャンスです。今、就任すれば、今後、タツヤさんが多少、無茶や暴君になっても村民は耐えますし、皆、信じてついてきてくださいます」
無茶はわからんが、暴君にはならないようにしたい。
「わかった…………村長さん、今日は帰って、早急に農具と共に準備をしたいと思います」
「頼みます。もちろん、村長を交代しても私もお手伝いしましょう」
これは必須だ。
村長さんに出ていってもらわれると困る。
「お願いします……モニカさん、少しお時間を頂いてもよろしいですか?」
俺は村長さんに頭を下げた後にモニカさんを見る。
「私ですか? 何でしょう?」
「村長が代わることや監査官について聞きたいことがありまして……」
さっき、ミリアムが言っていた通り、この人には話をしておかないといけない。
「ああ……なるほど。大丈夫ですよ」
「では、私の家に来てもらえますか?」
「え? 山田さんのお家ですか?」
あ、マズい。
年頃の娘さんを家に誘うのはマズかったか。
「タツヤさん、あの家は入れませんよ?」
ルリがまたもや背広を引っ張ってくる。
「入れないってどういうこと?」
「あそこは色々な魔道具、それに研究成果がありますから厳重な結界が張ってあります」
あ、それもそうか。
普段はあっちの家に住んでいるし、厳重にしないと危ない。
「村民も入れない感じ?」
「そうですね。許可がないと誰も入れません」
マジか……
「村長さん、話をする場所を貸していただけませんか?」
「でしたら私の家をお使いください。私はもう少し、村を見て回りますので」
「モニカさん、いいですか?」
「ええ。もちろんです」
モニカさんが快く、頷いてくれたので村長さんの家に向かった。
村長さんの家に着くと、テーブルにつく。
「さっきも思ったけど、鍵がかかってないし、勝手に入っていいんだなー……」
以前もルリがノックもせずに入っていた。
「この村は30人程度で皆、家族のようなものですからね。私は王都出身ですけど、さすがに王都でこんなことはないです」
モニカさんが苦笑いを浮かべながら答える。
「それは……困るのでは?」
若い女性の家に勝手に入るって事案を通り越しているぞ。
「いえ、さすがに女性の家に勝手に入る人はいませんよ」
「それは良かった。ちょっと心配しましたよ」
「ふふっ、さすがにそんな感じだったら泣いて仕事を辞めますよ……それで何を聞きたいんでしょう?」
モニカさんは笑うと本題に入ってくる。
「モニカさん、さっき言った話をする前に大事な話があります」
「大事な? 何でしょう?」
モニカさんが首を傾げた。
「モニカさんは監査官ですよね? それっていつまでですか?」
「いつまで……この村が解散するか、ある程度、目途が立つまでですかね? あの様子だと早そうです」
「その後は別の監査官が来るんですか?」
「いえ、そんなことはないと思いますよ。年に一回ほど税の確認のために王都から誰かが来るくらいでしょう」
なるほど……
「失礼ですが、ここを離れた後の就職先とかは決まっていますか?」
「いえ……またどこかの開拓村に行くかもしれません。あまり優秀ではないもので……」
ここだな……
狙うべきはここだ!
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