第199話 謁見(台本あり?)
俺達はそのまま外を眺めながら待っていると、馬車が城の中に入っていき、馬車が止まった。
「では、前回と同じように私はここで待っているから行ってくるといい」
ラヴェル侯爵がそう言うのでキョウカより先に馬車から降りると、キョウカの手を取り、貴族らしく、馬車から降りる手助けをする。
そして、周りを見ると、やはり前回と同じように数人の兵士が馬車を囲んでおり、そのうちの1人が近づいてきた。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
「ええ」
兵士が頭を下げると、先を歩き始めたため、ついていき、城の中に入った。
王宮に入り、兵士の案内で歩いていると、召使いや兵士とすれ違うが、その度に端に避け、丁寧に頭を下げてくる。
前回と同じ光景だが、今回は皆、笑顔じゃない……
貴族になったからだろうな。
そのまま王宮内を進んでいき、階段を昇っていくと、豪華な扉が見えてきた。
扉の前には兵士が立っており、番をしている。
「男爵、中で陛下と宰相様がお待ちです」
「わかりました」
番をしている兵士が頷くと、扉を押し始めた。
扉が完全に開かれるのを待ち、謁見の間に入る。
奥には玉座に腰かける陛下とその横に控える宰相がいたため、俺とキョウカは長くて赤い絨毯の上をまっすぐ歩いていった。
そして、王様の前から2、3メートル離れた位置で立ち止まり、その場に片膝をついて跪く。
なお、キョウカは跪かずに立っており、一礼だけをした。
モニカに聞いたのだが、男性と女性では礼儀が違うらしい。
理由はものすごく簡単で女性はスカート状の服だから跪いたり、片膝を突くことはできないからだ。
あと、マリエル様いわく、品がないらしい。
「おもてを上げよ」
陛下にそう言われたので顔を上げた。
「男爵、久しいな」
王様が笑顔で声をかけてくる。
「はっ!」
「男爵にもらったリンゴ酒は非常に良かったぞ。挨拶だけのつまらん外交だったから男爵のリンゴ酒だけが楽しみだった」
外交をつまらんとか言っていいものかね?
まあ、身内か。
「ありがとうございます。数が用意できなく、申し訳ございません」
「それは仕方がない。リンゴは高価だし、貴重なものだったのだろう」
2000円です……
「まだ製造ラインが構築できておりませんでした。本日もお持ちしましたので後で贈らせていただきます」
「うむ! ありがたくいただこう! 男爵のような忠節は皆の手本になろう」
リンゴが好きなだけでしょ。
この人、甘党らしいし。
「ありがたきお言葉」
「さて、男爵、そちらが男爵の妻か?」
陛下がキョウカを見る。
「はい。妻のキョウカです」
そう答えると、キョウカが一礼し、微笑んだ。
「山田キョウカです。この度は陛下にお会いでき光栄です」
「うむ。遠方からはるばるよく来てくれた」
「いえ、呼ばれればすぐに参ります」
キョウカがまたもや一礼する。
「うむ。今日は余の留守中、王都に現れたという上級悪魔について聞きたい」
「何なりと」
「まことに上級悪魔だったのか? もちろん、夫人を疑っているわけではなく、確認だ」
「自らが上級悪魔と名乗りました。また、残虐の悪魔ディオンとも」
嘘はついてないな。
「ふむ……よく戦おうと思ったな」
「私は夫に嫁ぐ前から悪魔退治を生業としており、それは嫁いだ後も変わりません。あの場にはラヴェル侯爵夫人やクラリス嬢もいました。さらには街中でしたので動かねば多くの犠牲が出ると判断致しました」
立派だなー。
「そうか……実に素晴らしい。兵士や貴族にも見習ってもらいたいものだな。ケガはないのか?」
「はい。相手は強敵だったのでしょうが、片腕もなく、そこまで魔力も感じませんでした。おそらく、どこかで戦い、癒すために人が多い王都に現れたのだと思います」
合ってるね。
俺と戦った。
「手負いだったわけか……それにしても実に勇敢だ。男爵、良い女性をもらったものだな」
陛下が俺に声をかけてきた。
「私にはもったいない限りです」
「何を言うか。大魔導士の妻に相応しい!」
大魔導士も妻も現実感がなさすぎるんだよなー……
「ありがとうございます。妻と共に国のために尽くしたいと思います」
「うむ! 宰相、山田を男爵に任じたが、相応しいと思うか?」
陛下が宰相に聞く。
なんかすごい台本臭い。
「男爵は我が国が誇る大魔導士であり、男爵では役不足かと」
「確かにその通りだ」
いえいえ、ホント、いえいえ……
「功績もありますし、子爵に陞爵してもよろしいかと思います」
子爵だって。
これでようやく芸人じゃなくなりそうだ。
「なるほど……子爵か……いや! 山田はこれからを担う男だ! 山田、そなたを辺境伯に任ずる! あの大森林をすべて任せよう!」
すごい! 大出世だ!
って思えないんだよなー……
大森林をすべて任せるっていらない土地を管理しろって聞こえる。
「ありがたき幸せ」
頭を下げると、キョウカも一礼する。
「うむ! これからも頼むぞ。では、下がってよい」
「はっ!」
立ち上がると、キョウカと共に下がっていく。
「あ、辺境伯、明日のお茶会とやらにアップルパイなるものを持ってきてくれ」
扉付近まで来ると、陛下が声をかけてきた。
「あれはお茶会に不向きとマリエル様がおっしゃっていましたよ」
一応、用意はしているんだけどさ。
「そんなものを気にするのは女だけだ。私は一切、気にしない」
それはそれでどうなんでしょう?
「かしこまりました」
「うむ。引き留めて悪かったな。楽しみにしておる」
「はい」
俺達は頷き、この場をあとにし、中庭に止めてある馬車に向かう。
「やっぱり陛下もお茶会に参加されるんですね」
「みたいだね。王妃様より陛下の方がリンゴを気に入っているというのは本当っぽい」
むしろ、そっちが本当に呼び出した理由だと思う。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
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