第198話 三重人格
翌日の土曜日。
ウチに泊まらなかったキョウカは朝からウチに来て、俺の部屋で着替えている。
俺達はそれをコーヒーを飲みながら待つ。
「結局、服はいつもの? あの赤と白のやつ」
一緒にコーヒーを飲んでいるモニカに聞く。
ちなみに、モニカはブラック好き。
「はい。マリエル様も新調を考えたようですけど、着慣れた服の方が良いだろうということになりました」
なるほど。
こけられても困るしな。
「ルリはいつものローブ?」
今度はコーヒー牛乳を飲んでいるルリに聞く。
「はい。私はお城には行きませんし、格好は気にしなくてもいいそうです」
それもそうか。
マリエル様のお茶会でもこの格好だったし、あの夫婦はそこまで気にしないっぽい。
何しろ、塀を乗り越えたり、お菓子を取るクラリス様を許しているくらいだし。
そのままキョウカを待っていると、ふすまが開いたので皆がそちらを見る。
そこには薄っすらと微笑むキョウカが立っていた。
「お待たせしました。髪を上げるのに少々、手間取ってしまいました」
キョウカはポニテではなく、髪をまとめて上げている。
非常に品がある。
「おー、偽令嬢キョウカさんにゃー」
「ふふっ、偽が本物になるように頑張りたいと思います。もっとも、令嬢ではなく、夫人ですけどね」
暗示、すげー!
あのバカ……じゃない、元気っ子がここまで変わるのかー。
「あなた、少し、開けてください」
キョウカがこちらに来て、そう言ってきたので少しずれて座る。
すると、キョウカが隣に座り、コタツに入った。
そして、ルリが用意してくれた砂糖多めのコーヒーを一口飲む。
「芳醇な香り……これはブルーマウンテン」
「キリマンジャロって書いてありましたけど……」
しっ!
知能も舌も変わらないの!
「キョウカ、良い感じだねー」
「ありがとうございます。これもまた私の一つの一面です。そうペルソナ……」
「英語まで使ってる!」
何か背中から出てきそう!
「ラテン語にゃ……」
実はキョウカをバカにできるほどの知能がなかったりする。
「キョウカ、いけそう?」
「あなたに恥をかかさない程度には」
もうずっとそれでいてよ。
「人斬りキョウカちゃんになってみて」
「……なあ、明らかに対応と笑顔が違わないだろうか? どっちも好きだよと愛の囁きをくれたタツヤさんはどこに行ったのかな?」
切り替えはえー!
そして、こえー!
持ってないのに刀が見えるー!
「キャラが変わりすぎたから新鮮だっただけだよ」
「ふーん……まあいい。それにどうせ今の私が好かれていないのはわかっている」
なんか人斬りキョウカちゃんがいじけてる……
ふと、周りを見ると、ルリもモニカもミリアムもキョウカではなく、俺のことをじーっと見ている。
そして、何故か言葉が聞こえてくるような気がした。
「そんなことないって。キョウカはキョウカでしょ。好きだって」
「そこは肩を抱いて、耳元で囁くとこだよ?」
それはちょっと脳裏によぎったけど、3人がすげー見てんだもん。
「ほら、偽令嬢キョウカさんに戻って。陛下との謁見があるんだから」
「やはりコーヒーはキリマンジャロに限りますね」
違いのわかるキョウカが優雅にコーヒーを飲みだしたので俺もコーヒーを飲む。
そして、今日明日のことを話し合っていると、昼前になったので少し早めの昼食を食べた。
「行くか」
「ええ。参りましょう、あなた」
キョウカが頷いたので転移で王都の借家に飛んだ。
そして、借家を出て、ラヴェル侯爵の家に向かう。
「人が戻ってるね」
前に来た時はディオンが出たせいで人が少なかったが、今日は以前と同じくらいに人で溢れていた。
「さすがに何日も引きこもったりしませんよ。徐々に恐怖心は薄れますからね」
まあ、時間と共に警戒心や恐怖心がなくなるのはそうだろう。
俺達がそのまま歩いていくと、ラヴェル侯爵の家に到着した。
「これは山田男爵、ようこそいらっしゃいました」
いつもの門番が挨拶をしてくる。
「こんにちは。侯爵は?」
「男爵と奥様は少々、お待ちを。ルリ様とモニカ殿はどうぞ、中へ。マリエル様とクラリス嬢がお待ちです」
門番にそう言われたので俺とキョウカはここで待つことにし、ルリとモニカが屋敷に向かう。
そして、そのまま待っていると、この前と同じ馬車がやってきた。
「どうぞ」
門番が勧めてくる。
「キョウカ、入ろうか」
「はい」
俺達は馬車に乗り込み、並んで座った。
当然、対面にはラヴェル侯爵が座っていた。
「やあ、男爵。それに夫人も」
「ええ。馬車を出して頂き、ありがとうございます」
礼を言うと、キョウカは何も言わずに軽く頭を下げる。
「うむ。しかし、夫人は随分と印象が変わったな」
「マリエル様に礼儀作法を習ったんですよ」
「そうか……以前の方が良い気もするが、まあ、謁見だからな」
俺はこっちの方が……あ、いや、キョウカはキョウカ。
どっちも好き。
うんうん。
「そういうことです。さすがに謁見が終われば普通に戻ります。あ、本日も宿泊させて頂けるようでありがとうございます」
「いや、妻は夫人を気に入っておってな。こちらが感謝したいくらいだ」
マリエル様は本当にキョウカが好きだな。
「良くしてもらってありがたいです。本日の謁見は前回と同じ感じでしょうか?」
「そうなる。ただ今回は夫人がメインだからそこまで固くならないでいいぞ。貴族夫人は王妃様の領分だからいくら陛下でもそこまで言わん」
つまり本番は明日なわけね。
本作の第2巻が来週の土曜に発売となります。
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