第192話 ごーり、ごーり
「ふーん……まあ、絶対に弱くなさそうに見えますが、話が進まないのでそういうことにしましょう」
そうそう。
「そういうわけでウチのミリアムは使い魔なんです」
「使い魔とは?」
「多分、桐ヶ谷さんが想像している通りだと思います。何らかの契約で主従関係を結んだ悪魔ですね。滅多にないことらしいですけど」
「契約……魂でも捧げました?」
悪魔との契約と聞くとそういう発想になるわな。
「俺達ってどういう契約なの?」
よく考えたら聞いてなかったので確認してみる。
「別に決まり事なんてないにゃ。お前は私のために寝床とご飯を用意するだけにゃ。それが飼い主の責任にゃ」
飼い猫だ。
「そういうことらしいです。猫の悪魔なんで中身が完全に猫なんですよ。お風呂も嫌いですし」
「変な悪魔もいるんですね」
「そういうのじゃないと使い魔にはならないんでしょう。実際、桐ヶ谷さんが悪魔だったとして、進んで使い魔にはならないでしょ」
「まあ、なりませんね。メリットがない」
俺もそう思う。
「猫はメリットだらけにゃ。ちょっとにゃー、にゃー言ってすり寄れば、ご飯をくれるにゃ」
「猫なんですよ」
「みたいですね……まあ、わかりました。ちょっと判断に困るのでこれは私の胸の内にしまっておきます」
優しい。
「ありがとうございます」
「それで? なんでそのような話に?」
「それが……そのー……」
何て言おう?
「まさかと思いますけど、色香に惑ってロザリーを使い魔にしたとか言いませんよね?」
あ、そう思っちゃうか。
「あんな性悪を使い魔なんかにしませんよ」
「では?」
「私はしませんよ……私は」
「…………まさかと思いますが、加賀美さん?」
ビンゴ。
「らしいです……」
「ハァァ……何を考えているんですか、あの人は」
桐ヶ谷さんがハンドルに頭を押し付け、深いため息をついた。
「なんか気が合ったみたいですよ。どっちも性倒錯者じゃないですか」
「言いますね、あなたも……ロザリーもですか?」
「あの人はそこに愛があれば何でもいいらしいです。俺にユウセイ君や不倫を勧めてくるレベルです」
脳汁ドバドバらしい。
破壊されろ。
「嫌なコンビ……」
「さっきその2人に挟まれましたよ」
「ご愁傷様です……しかし、これは参りましたねー。ロザリーはウチのブラックリストに入っている要注意悪魔です」
そのリストを教えてくれないかな?
「ロザリー自体の脅威度は低いと思うんですよ。強力な上級悪魔ですし、下品でうざいですが、逆に言うと、人をからかって、それを楽しんでいるだけの悪魔に過ぎません。どうも、ああいう残虐なことをして愛を壊す教団やディオンが嫌いで教団を抜けたみたいですし、さらには情報まで流してくれたわけです」
あれ自体が人を襲うことはないだろう。
性的には知らない。
「庇いますね?」
「そんな気はないですけど、もし、討伐依頼が来ても絶対に拒否します。あれは勝てない」
あの魅了に対抗できるか怪しいのだ。
「そこに戻っちゃうんですよね……ロザリーに対抗するには男性では無理。でも、だからといって女性で対抗できるかも未知数です。サキュバス属性だけなのか、それともインキュバス属性もあるのかわかりません」
本人が性別は関係ないって言ってるからな……
だからこそ、加賀美さんに近づいたんだろうし。
「それでいて、底が見えない上級悪魔です。私は絶対にごめんです。干からびる未来しか見えません」
「私も嫌ですよ……しかし、使い魔ですか……目的は何でしょう?」
「愛が見たいだけでしょ。歪んでそうですけど……」
不倫を勧めてきたし。
「加賀美さんが警察に捕まらないことを祈るだけですか」
それもどうだろ?
この前、ロザリーのおかげで回避できたみたいなことを言ってたし。
「元からそうじゃないです? 未成年の橘さんにセクハラしまくってましたよ」
「本当にあなた以外の退魔師はロクなのがいないんですよ。だから我々はあなたを重宝しています」
普通なだけなのに……
「加賀美さん以外に会ったことがないですけど、他もなんです? 橘さんや一ノ瀬君はまともですよ? むしろ、年の割にはかなり落ち着いていますし、しっかりしています」
キョウカもね!
「あなたが特殊なのは遅咲きという点なんですよ。35歳で異能に目覚めたから地に足をついている。最初にそう評価したでしょ? それができてない連中ばかりなんです。子供の頃から人とは違う才能があり、増長して育ってしまっている。そして、この人手不足で協会も強く文句を言えないものだからさらに増長する。ね? まともなわけないでしょ?」
うーん……桐ヶ谷さんが俺をスカウトし、優遇してくれるのはそういうことか。
「橘さんや一ノ瀬君は?」
「あの2人に限ったことじゃないですが、名家連中は経験的にそのことを知っているので教育がしっかりしてます。あの2人に給料が支払われず、一ノ瀬君がバイトをしているのもそういうことでしょう。橘君だって学校の成績は良くないですし、ちょっとあれですけど、根はしっかりとした優しい子でしょう?」
なるほど。
しかし、桐ヶ谷さんはよく人を見ているな。
キョウカがバカなことも知っている。
…………お、俺はそう思ってないけどね!
「どうします?」
「どうしましょうねー……嫌ですけど、一回、ロザリーと話してみますか」
「聴取ですか?」
「そうなります。一応、目的や危険度を把握しないといけません。そのうえで上と話してみます」
ロザリーと話すのは疲れるぞー。
「頑張ってください」
「山田さんも付き合ってくれます?」
「え? なんで?」
嫌ですけど?
「ロザリーと一番、話しているのはあなたじゃないですか。付き合ってくださいよ。ほら、あなたの猫のことは黙っておきますから」
「今回の報酬に色を付けてくださいよ」
「わかってますよ。500万くらいもらえるように言っておきます」
すげー!
でも、これで確信した。
やっぱりこの人、協会でもめちゃくちゃお偉いさんだ。
よし、ゴマすっとこ。
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