第191話 にゃー、にゃー
俺と桐ヶ谷さんは裏に回ると、家の前で立ち止まる。
すると、桐ヶ谷さんが懐から紙を取り出し、見始めた。
「何です?」
「ゼンリン地図です……やはり所有者が違いますね。この人も当たった方がいいでしょうね」
以前、召喚の魔法陣がアパートにあったことを思い出した。
あの時の部屋の借主は遺体で見つかったと聞いている。
「死んでますかね?」
「多分、そうだと思います。まあいいでしょう」
桐ヶ谷さんがまったく表情を変えずに中に入っていったので俺も続く。
「そこです」
書斎の扉を指差すと、桐ヶ谷さんが扉を開けた。
「ほう……」
桐ヶ谷さんが部屋の中に入り、見渡す。
そして、開いている穴を見た。
「この穴が先程の寝室の穴と繋がっているわけですね?」
穴を見下ろしている桐ヶ谷さんが聞いてくる。
「ええ。もう少ししたら須藤さん達も来ると思います。距離的には10メートル程度なんで」
「なるほど。万が一に備えて、逃げ道を確保しつつ、大事な資料も紙でここに保存していたわけですか」
「だと思います。加賀美さんがビンゴって言っていたファイルがこれですね」
デスクに置いてあるファイルを取り、桐ヶ谷さんに渡した。
すると、桐ヶ谷さんがパラパラとめくり、確認していく。
「なるほど……確かに。他にも大事な情報を得られそうですね」
桐ヶ谷さんが顔を上げ、大量のファイルを見渡した。
「そうですね。ちょっと私は勘弁願いたいですけど」
「さすがにそれは山田さんの仕事ではありませんよ。あなたはここまでです。素晴らしい成果を上げてくださいました。表彰ものですよ」
表彰とか絶対に嫌だわ。
「表彰は遠慮します」
「わかってます。上に今回の成果は100点満点どころか120点って言っておきますよ」
「ありがとうございます!」
いくらもらえるかなー?
もしかして、さらに階級が上がって5級になっちゃたりして!
300万だぞ、300万!
俺のかつての年収かってんだ!
まあ、そこまで低くはないけど、超す未来が見えてきたのは確か。
「――思ったより、狭かったですわー」
内心で興奮していると、須藤君が穴から出てきて、続々と調査員の人達が出てくる。
「皆さん、ファイルの確認をお願いします」
桐ヶ谷さんがそう指示を出すと、須藤君が1つのファイルを手に取った。
「成果?」
あっ……
須藤君はファイルを開き、ゆっくりと閉じる。
「山田さんの言ってた意味がわかりましたわ」
須藤君が嫌そうな顔をしながら見てきた。
他の調査員の人達もファイルを調べ始めているが、一回、閉じている。
「加賀美さんが終始、そんな顔をしていましたので多分、それが多いと思います」
「こりゃ特別手当でも出してもらわないとやれねーですわ。ウチは悪魔専門であって、こういうのは警察の仕事でしょうに」
須藤君は恨めし気にそう言いながらも調査を再開した。
「ボーナスは出るから安心しなさい。では、ここは任せます。山田さん、話があるということでしたね。ここは皆さんの邪魔になりますし、車まで戻りませんか?」
確かに邪魔になるだろうな。
というか、あまりいたくない。
多分、桐ヶ谷さんもそう思っている。
「そうしましょうか」
「では、私の車に行きましょう」
俺達は書斎を出ると、そのまま家を出て、表に回る。
そして、桐ヶ谷さんが自分の車に乗り込んだので俺も助手席に乗り込み、ミリアムを膝に乗せた。
「相変わらず、良い車ですね」
いくらすんだろ?
「山田さんの車も良いじゃないですか。乗ってみたいなとも思いましたけど、橘君に悪いんで遠慮しておきますよ」
ユウセイ君もだけど、何故か助手席に乗ってくれない。
地味にキョウカ、ルリ、モニカと女性陣しか助手席に乗せていないプレイボーイになってしまっている。
「気にしなくても良いですけど……」
「まあまあ……それで、ロザリーとは?」
桐ヶ谷さんが笑みを消し、本題に入った。
「実はその家に入ったらロザリーがいましてね」
豪華な方な家を見る。
「まだ東京にいましたか……」
「ええ。ロザリーのことを話す前に確認なんですけど、桐ヶ谷さんは使い魔という存在をご存じですか?」
「使い魔……漫画やアニメで出てきたような気がしますね。最近は見てないので前のことになりますが、あれでしょ? 宅配便みたいなやつに出てくる黒猫」
今は知らないけど、夏休みによくテレビでやってたやつね。
「ですね。実は悪魔って使役できることもあるんですよ」
「へー……」
さすがに桐ヶ谷さんがじーっとミリアムを見る。
「御存じでしょうが、悪魔には色々と種がいます。憑りつくタイプの実体のないものからフィルマンやディオンのような残虐な上級悪魔、さらには男の欲望の権化みたいなロザリーです」
「まあ、それはわかっています。過去にはもっと残虐な悪魔もいましたし、めちゃくちゃ臆病ですぐに逃げ出す悪魔も確認されています」
やっぱり色々いるな。
「そんな感じですね。だから中にはとっても無害な悪魔もいるんですよ」
「そうかもしれませんね。その猫は?」
「ウチのミリアムです。可愛いでしょ」
「悪魔ですか……」
悪魔的に可愛いからわかるよね。
「爺さんが死んで、家を相続したんですけど、家にいました。お腹を空かせて可哀想だったんで引き続き、飼うことにしたんですよ」
「いや、悪魔でしょ」
まあ……
「超下級悪魔ですよ」
「弱いにゃー」
ミリアムがしゃべった。
「猫がしゃべりましたか……」
「すごいでしょ」
「すごいですね。絶対に超下級悪魔ではなさそうですけど……」
何を言いますか。
「魔力も低いですし、コタツの中でゴロゴロしているだけの悪魔です。しかも、たまに起こしてくれるんですよ」
「猫ですね」
「猫にゃー。古来より人類の友だった猫にゃー。犬よりも猫にゃー」
ミリアム、ちょっと黙ろうか。
あざとい声を出しすぎ。
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