第019話 すごい!
森の木を伐採、伐根する作業を続けて1時間くらいが経った。
結果、数十本の木を切り、結構、耕地が広がったように見える。
「さすがに疲れてきたね」
「少し、休みましょう……あのー……大変、お似合いですし、大人な男性という感じがして非常に好ましいとは思いますが、こういった作業の時にスーツはやめた方がよろしいのでは?」
ルリが丁寧に褒めつつ、苦言を呈してきた。
「ジャージとかの運動着? もしくは、ツナギみたいな作業着かな?」
「はい。そちらの方がよろしいかと」
「おっさん感が増すけど?」
「いや、何を気にしているんだ、おっさん……」
ミリアムが呆れる。
「でも、こういうところにスーツで来ると、重役に見えるでしょ。あの形だけのヘルメット着用している感じ」
「……山田、意外と村長になることにノリノリなんだにゃ」
別に少しくらいノッてもいいじゃないか。
「おーい! 山田さーん!」
俺達が休んでいると、向こうからコーディーさんが走ってきていた。
「ん?」
何だろう?
そのまま待っていると、コーディーさんがやってくる。
「ハァハァ……って、なんか広くないか?」
息を切らしていたコーディーさんが辺りを見渡して、首を傾げた。
「木を切ったんですよ」
「……こんなに? まだ始めてからそんなに時間が経ってなくないか?」
まあね。
でも、時間がかかるようなことでない。
「タツヤさんは大魔導士様なのです」
「そうにゃ、そうにゃ」
この2人、それで押し通す気だな……
「そ、そうか。さすがだな……」
コーディーさんは納得したようだ。
「それで何か用件があるんじゃないんですか?」
「あ、そうだ! すまんが、来てくれ!」
ん?
俺達は顔を見合わせて首を傾げるが、何かあったんだろうと思い、コーディーさんと共に村の方に戻っていく。
すると、さっきまで俺達が農具を確認していた畑に戻った。
「おー、タツヤ殿。戻られたか」
畑にはまだ村長さんがおり、声をかけてくる。
「どうしたんです? 農具が壊れましたか?」
「いや、そういうわけではありません。これを……」
村長さんがそう言って、畑を見下ろす。
そこは改良した肥料を使った畑の一角だった。
そこには何故か、何かの芽が生えていた…
「え?」
「あれ?」
「おかしいにゃ」
「さっき、山田さんが種を植えましたよね?」
俺達は畑に生えている芽をガン見しながら首を傾げた。
「ここでコーディーと農具の運用について話をしておったんじゃが、気付いたら生えていたんです」
種を埋めてからまだ1時間しか経っていない。
大根の種が入っている袋の裏面には2ヶ月から3ヶ月って書いてあるのに……
「すみませんが、もう少し畑を借りても良いですか? 肥料を加えていないところにも植えてみます」
種がおかしいという可能性もある。
何しろ、世界が違うわけだし。
「あ、ああ……好きにしてくれ」
許可が出たので肥料を混ぜていないところに大根の種を植えた。
「村長さん、コーディーさん、これで一日様子を見ましょう」
「そうですな」
「ああ……」
2人はゆっくりと頷いたので今日は帰ることにした。
帰る途中に振り返ると、残っている3人が大根の芽をじーっと見下ろしているのが見えた。
うーん、マズかったかな……
俺は失敗したかなーと思いながら家に戻ってくると、リビングで一息つく。
「どう思う?」
主語がないが、2人はわかってくれるだろう。
「間違いなく、例の肥料の力かと……」
「それ以外にないにゃ。でも、とりあえず、明日また村に行くにゃ」
「そうだねー……」
もしかしたら俺はとんでもないものを作ったのかもしれない。
でも、あの村に必要なものであることは間違いない。
俺はミリアムが言うようにとりあえずは明日だと思い、休むことにした。
◆◇◆
翌日。
この日は日曜日だが、前日と同じように早めに起きてしまった。
何故なら、どうしても大根が気になってしまって、目が覚めてしまったのだ。
まあ、仕事を転職して、自由が利くようになったから土日がもったいないとは思わないけど……
「山田、ちょっといいにゃ?」
ルリが作ってくれた朝食を食べ終わり、ルリが洗い物をしていると、ミリアムが声をかけてきた。
「どうしたの?」
ミリアムを撫でながら聞く。
「今日、これから村に行って、肥料を確認しに行くが、その前にモニカをどうするかを決めておくにゃ」
モニカさん?
「なんで? 何かあるの?」
「もし、あの肥料が異常なまでの植物成長の促進効果があった場合、村の皆は問題ないにゃ。でも、モニカは正確に言うと、村の人間ではなく、国の人間にゃ」
報告される可能性があるわけか……
「それはちょっとマズいね」
「だろう? どうにかしないといけないにゃ」
「どうにかって……」
「買収にゃ」
買収……
賄賂か。
「うーん……いよいよ上級になってきたね」
「そんなもんにゃ。まあ、それを頭に置いておくにゃ」
これはモニカさんと話をする必要があるな。
「とりあえず、行ってみよう。着替えてくるよ」
「スーツにゃ?」
「今日は作業をしないからね」
そう言って自室に戻ると、着替え始める。
そして、スーツを着て、リビングに戻ると、ルリも白ローブに着替え終えており、ミリアムを抱えて待っていた。
「行こうか」
「はい」
「にゃー」
準備を終えた俺達は例の扉をくぐり、異世界へと向かった。
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