第189話 成果と報告
「は? バラバラ死体?」
ファイルを本棚にそーっと戻すとミリアムが聞いてくる。
「そう。ぱっと見て、すぐに閉じたから本物かはわからないけどね」
「そうか……まあ、こんなところにあるくらいだし、ヤバい連中だから偽物ってことはないだろうにゃ」
「俺もそう思う」
キョウカやユウセイ君を連れてこなくて良かったー。
未成年には刺激が強すぎるよ。
まあ、キョウカはまったく動揺しないんだろうけど。
おばけが怖いくせにメンタルはオリハルコンだから。
「他にもファイルがあるが……」
ミリアムが本棚を見る。
「パス。あとは調査員の人達に任せよう」
須藤君、すまん!
「山田、大丈夫か?」
「ぱっと見ただけだから大丈夫」
今日はストゼロ飲んで、ルリと寝よ。
「――あー、普通に表から回ってくれば良かったわー」
あ、加賀美さんが来た。
「一応、確認してもらおうと思いまして」
「まあねー。よっこらせっと……しかし、さっきの家よりしょぼいわね」
加賀美さんが穴から出てきて、部屋を見渡す。
「生活している様子はなかったですし、逃げるための家でしょう」
「小心者ね」
あ、はい。
「あの、ロザリーって呼べます?」
どうしてもさっきの成果が気になってしまう。
バラバラ死体にして、何の成果になるというのか。
「ロザリー? 無理じゃない? 向こうから来たり、頭の中に直接話しかけてくることはあるけど、一方通行だし」
「そうですか……」
来てほしくない時に来て、来てほしい時には来ない……
「どうかしたの?」
加賀美さんが顔を覗いてきた。
「そこの青いファイルにバラバラ死体の写真が……」
さっきのファイルを指差す。
「バラバラ死体? あいつら、本当に好きねー。港の方もそんなんだったらしいわよ」
加賀美さんは何でもないような感じでファイルを手に取り、パラパラとめくっていく。
「見れます?」
「あなたも長くこの業界にいれば慣れるわよ……うわっ、やっぱりこれは山田さんは見ない方が良いわ。娘さんがいらっしゃるのよね?」
なんで知ってるんだよ……
いや、それよりもなんで聞いてくる……
想像つくけど……
やっぱりルリと寝よ。
「ひどいもんですね」
「悪魔信仰なんかするからよ。悪魔から人々を守るために退魔師になったのに悪魔なんか信仰しておかしくなったんでしょうね」
加賀美さんはその後も次々とファイルを見ていく。
「どうですー?」
「わかってたけど、ゴミだわ、こいつら。まあ、一人残らず処分でしょうけど」
処分……
「ロザリーは教団のことについて、何か言ってました?」
前は方向性の違いとディオンが嫌いだから抜けたと言っていたが……
「いえ、何も。愛にしか興味ないんだって…………ん?」
パラパラめくっていた加賀美さんの手が止まる。
「どうしました?」
「ビンゴ。各地の拠点のことが書いてあるわ」
加賀美さんが指パッチンした。
「拠点?」
「教団の大本は潰したけど、各地に私達で言う支部があるんじゃないかっていうのが協会の見解なの。そして、その情報がここにある」
おー! すごい!
「やりましたね」
「ええ……よし! ここの仕事は終わり。山田さん、桐ヶ谷さんに連絡してくれるかしら? 私は別の家宅も調べてみるから後の対応を任せるわ」
んー?
「他にもあるんですか?」
「教団の幹部共は取り締まりの際に逃げたんだけど、ほとんどがまっすぐ家に帰ってね。皆、バレてる」
まあ、ヤバくなったら家に帰りたいと思う気もわからないでもない。
「それの調査ですか」
「ええ。ここは幹部の中でも特に大物だったからあなたと協力になったけど、他は私だけで良いわ。実際、ビンゴだったしね」
なるほど。
そういう経緯だったわけだ。
「わかりました。では、桐ヶ谷さんに電話して、調査員の人達を呼びます」
「お願い。じゃあ、私は行くわ。キョウカちゃんによろしく」
ノー。
「伝えておきます」
「バーイ」
加賀美さんは手を上げて、ウィンクをすると、部屋から出ていった。
「本当に仕事だけは真面目な人だ」
「バランスなんだろ」
嫌なバランスの取り方だわ。
「まあいいや。桐ヶ谷さんに電話するよ」
「わかったにゃ」
スマホを取り出すと、桐ヶ谷さんに電話をかける。
すると、ワンコールで呼び出し音がやんだ。
『もしもし? 山田さん?』
桐ヶ谷さんだ。
「ええ。山田です。今、大丈夫です?」
『もちろんですよ。山田さんは知らないかもしれませんが、今日は月曜日なんですよ』
知ってるわい。
「他の仕事が入ってるかもしれないじゃないですか」
電話をしたら最初に相手の都合を聞くのがマナーだ。
『わかってますよ。冗談です。それでどうしました? 何か見つかりましたかね?』
桐ヶ谷さんもさすがに用件はわかっている。
「ええ。加賀美さんいわくビンゴだそうです。教団の各地の拠点が書いてあるファイルを見つけました」
『おー! それは素晴らしい! 大手柄ですよ! 300万は確実です! いや、もっとでしょう!』
お祝いだ、お祝い!
肉は絶対に嫌だけど。
「それとですねー……私もチラッと見たんですけど、バラバラ死体の写真をファイリングしたものもありました。調査員の方は選んでください」
『それは……すみません。嫌な仕事を回しましたね』
電話越しにも申し訳なさそうにしているのがわかる。
俺はこの前までは一般人であり、桐ヶ谷さんにスカウトされたからだろう。
「いえ、私はチラッと見ただけであとは加賀美さんがファイルを漁ってくれました」
俺だけだったらとても無理だからミリアムにやってもらってたな。
『そうですか。ちなみに、それらはどこに?』
「実は寝室に地下に繋がる梯子付きの穴を見つけましてね。そこを降りて、ちょっと行ってまた梯子を登ったら裏の家の書斎に出たんです。そこにありました」
『なるほど……わかりました。すぐに調査員を派遣します』
「お願いします。それと、それとは別件で話せませんかね? ロザリーのことでちょっと……」
さすがに報告しないとマズいわな。
『ロザリー……現れましたか?』
「まあ……」
現れたことはそうなんだけど……
『わかりました。どっちみち、私もそちらに向かいますのでそこで話しましょう。玄関の前で待ってもらえます?』
「わかりました」
『少しお待ちください。では……』
桐ヶ谷さんがそう言って電話を切ったので家を出て、表に回ることにした。
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