第183話 職人さんってすごいね
村に入り、門の近くのお客様用の家まで来ると、ノックをし、中に入る。
すると、年配の筋肉隆々の男性がソファーに座っており、その後ろにはこれまた強そうな若い男性が3人ほど立っていた。
「こんにちは。ハリアーの町の職人さんでしょうか?」
そう聞きながら対面のソファーに腰かける。
なお、モニカは後ろに控え、隣にはキョウカが座ったのだが、ルリを自分の膝に乗せ、抱きかかえた。
若干、ルリは嫌そうな顔をしている。
「ああ……男爵様か?」
「はい。山田と申します」
「そうか。まず先に謝っておくが、俺達は言葉遣いが悪い」
まあ、そんな気はする。
見た目的に頑固な職人って感じがするし。
「構いません。私は確かに貴族に任じられましたが、元より、一魔法使いに過ぎませんし、年長者はあなたです。それに技術ある者は尊敬に値します」
これは大事。
「ほう……話がわかるな。まあ、魔法使いも同じような専門職だからか……いや、すまん。こっちだって商売だから何とかしようと思っているんだが、この職は舐められるとろくなことがないんだ」
「わかります。権力を使って無茶振りされることもありますからね」
立場というのは厄介なのだ。
「まったくな。あ、いや、そういう話はいいか。まずは今回の事業に感謝する。ウチも仕事がなくて困っていたんだ。若いもんは仕事がないとろくなことをせんからな」
クロード様はそういうことも考えていたんだろうな。
大きい町は大変だ。
「いえ、こちらもありがたいですし、クロード様の事業に乗っただけですよ」
「それでもだ。それでその話をしたいが、その前に排水施設の整備を進めたい。たいした仕事じゃないし、小一時間で終わるから先に進めたいんだ。どこに設置すればいい?」
「案内しましょう」
俺達が立ち上がると、職人さんも立ち上がったので建物を出る。
そして、村を歩いていき、執務室を抜けた。
「すげー木だな」
職人さんが両サイドの森を見渡す。
「大森林ですからね。苦労しましたよ」
「国もよくこんなところを開拓しようと思ったぜ。そして、それでいて成功するんだからすげーわ」
魔法とスーパー肥料がなかったら無理だったな。
俺達は歩いていき、研究室の前までやってくる。
だが、当然、結界が働いており、見えないので職人さん達は一切、建物の方を見ない。
「あそこの穴にお願いしたいんです」
そう言って、平地の端にある穴を指差す。
「あれか……わかった。おい、さっさと終わらせちまえ」
「うっす!」
職人さんが指示すると、若い男性3人が穴に向かって歩いていく。
「あいつらに任せておけばすぐに終わる」
「わかりました……」
道の舗装の話をしないといけないから戻るべきだろうが、ここにあの3人だけを置いて大丈夫だろうか?
もちろん、結界はあるが……
「……山田、私が見ておくにゃ」
ミリアムが耳元で囁く。
「……お願い」
「タツヤ様、執務室の方に移動しましょうか」
ミリアムとの内緒話を終えると、モニカが提案してきた。
「そうだね。組合長さん、戻りましょう」
「おう」
俺達は来た道を引き返し、まったく使っておらず、もはやただの通り道となっている執務室まで戻ってくると、応接用のソファーに腰かけた。
なお、その際にルリがキョウカを警戒して我先に座ったのだが、キョウカに簡単に持ち上げられ、さっきと同じように膝の上に抱えられてしまっていた。
ルリは口をへの字に曲げており、非常に不満そうだ。
「この嬢ちゃんはどうしたんだ?」
「ははっ、お母さんに甘えるのが恥ずかしいんでしょう」
絶対に違うがな。
「まあ、微妙なお年頃か……ウチは男しかいないからわからんわ」
俺はもっとわかりません。
「ウチも色々あるんですよ」
「どこもそうか……あ、いや、すまん。余計なことだったな。それよりも仕事の話だ」
それもそうだ。
「道の舗装ですよね?」
「ああ。ハリアーの町から人材を集めて、いくつかの班に分けているところだ。ここだけじゃなくて、クロード様の領地全体の道の整備だからかなり大規模なんだよ」
潤ってるなー。
「ウチの道はどうするんです?」
「まずだが、男爵の領地からも人員を出すと聞いている。何人くらいなんだ?」
そう聞かれたので後ろに控えているモニカを見上げる。
「参加を募ったところ、8名が参加ですね」
8人……思ったより多いな。
やっぱり皆、暇なのかね?
「だそうです」
「8名か……だったらそれが1つの班で良いな。材料はこちらで用意するし、指導員となる班長もつけるからその8人はこの村から舗装工事を進めてくれないか? ハリアーの町の人員はハリアーの町から進めよう」
それが良いだろうな。
帰るのも楽だし。
「それでお願いします。いつから始まるんです?」
「すでに王都への道の工事は始まっているし、明後日にはハリアーの町からの工事は始まる。逆にこっちはいつから始められる?」
いつ……
「いつでもいいよね?」
またもやモニカに確認する。
「はい。資材と指導員さえ来ていただければいつでも始められます」
「だそうです」
「わかった。明日にでも派遣しよう」
おー、早い。
「お願いします。一応確認ですけど、どれくらいでできるんです?」
「こればっかりはやってみないとな……俺達職人がやるんじゃなくて、経験もない連中がやるから見通しが難しいんだ」
あー、それもそうか。
「それはそうですね。個人や班で差もあるでしょうし」
「だな。でもまあ、男爵領の道はすでに整地されているから早いと思うぞ。工程が一つ終わっているわけだからな」
なるほど。
そう聞くと、やっておいて良かったって思うな。
「わかりました。では、それでお願いします」
話を終え、少しすると、若い職人さん達が戻ってくる。
それと同時にミリアムもこっそり戻ってきた。
「終わりましたよ」
「ご苦労。男爵、こっちの仕事は終わった」
「ありがとうございます」
「たいした仕事じゃねーよ。じゃあ、俺達はこれで失礼させてもらう」
俺達は4人を門まで見送る。
どうやら職人さん達は馬車で来たわけではないようで歩いて帰っていった。
「モニカ、舗装の件を参加者の皆に伝えておいて」
「かしこまりました」
俺達はセカンドハウス建設予定地に戻り、少し相談をすると、家に帰り、ゆっくりと過ごした。
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