第181話 どうだろ?
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
この1週間、昼間はモニカやルリ、ミリアムとリンゴ村に行き、セカンドハウスや温泉について話し合い、夕方になると、キョウカがやってきて、モニカとミリアムと共にマリエル様のところにレッスンに行っていた。
そして、土曜日になると、この日は朝からレッスンに行ってしまったため、俺とルリは2人でゆっくりとテレビを見ながら過ごしていた。
すると、午後になると、ユウセイ君がやってくる。
「ちーっす」
「いらっしゃい。バイトはどう?」
「忙しいわ。でも、儲かるから良し」
学生は大変だな。
「卒業後に正式な協会の退魔師になってたら結構なお金が入ってくると思うけど、散財はやめときなよ。ちゃんと貯金とかしないと」
「大丈夫、大丈夫」
まあ、この子はしっかりしてるか。
「来週もバイトだっけ?」
「そうそう。キョウカは例のレッスンか? あいつがどうにかなるのかね? あいつって良くも悪くもアクティブでおしゃべりだろ」
さすがは幼なじみ。
よくわかっている。
「なんか暗示で貴族令嬢っぽくなってたよ」
偽令嬢キョウカさん。
「何それ? そんなので変われるの?」
「みたいだね。上品で物静かな令嬢だってさ」
「誰だよ、それ」
ユウセイ君が笑う。
「いや、本当に上品な感じになってるんだよ。きっとあれがキョウカの素だと思う」
うん、きっとそう。
普段はバカを演じているんだろう。
「現実逃避……しかし、上品で物静かねー……でも、中身はあれなわけだろ? サイコパス感がより増すな」
この子、本当に遠慮なくはっきり言うなー……
その通りなんだけど。
その後もユウセイ君やルリと話をしていると、夕方になり、キョウカ、モニカ、ミリアムが戻ってきた。
「おや? ユウセイさんではないですか。いらっしゃったんですね」
キョウカが微笑みながらユウセイ君を見る。
「おー……胡散臭さがやべー」
「あっ……」
「クラリスと同じことを言ってるにゃ」
ユウセイ君もクラリス様もはっきり言うからなー……
「胡散臭さとは心外ですね。でもまあ、私の普段の言動のせいでしょう。これは反省しなくてはいけません」
優雅だ。
それに余裕を感じられる。
「どうでもいいけど、戻ってこいよ」
「そうする。着替えてこよーっと」
キョウカが元に戻り、俺の部屋に向かう。
そして、ミリアムがコタツの中に潜っていき、モニカもコタツに入った。
「どうだった?」
モニカに聞いてみる。
「キョウカさんは見事ですね。完璧に演じ切って見せました」
もう演じるって言ってるわ。
「そんなに?」
「元々、姿勢も良いですし、堂々としています。それにやろうと思えば言葉遣いもできるようですし、マリエル様も合格点を出されました」
『なんか褒めてなーい』
隣の部屋からキョウカの文句が聞こえてくる。
まあ、放っておこう。
「クラリス様も胡散臭いって言ってたんだって?」
「はい。マリエル様もはっきりと『そのあなたは好きになれませんね……』って言ってました」
『ひどいですよねー』
またもやキョウカの声が聞こえてくる。
「いいから着替えなー」
『はーい……あれ? スカートどこ?』
実況はいらん。
「でも、合格点はもらえたわけでしょ?」
「はい。これで陛下との謁見もできるかと」
「しかし、本当に謁見ってあるのかな? 確かに上級悪魔を倒したのはすごいけど、褒美をもらうだけで済まない?」
適当に金貨をくれるだけでいいんだけど。
「それが……本日、ラヴェル侯爵がいらっしゃいまして、陛下が来週には王都に戻ってくるという話を聞きました。また、すでに上級悪魔のことは陛下の耳にも入っているようでして、かなり褒めていたようです。以前にもタツヤ様が上級悪魔を仕留め、さらにはその夫人であるキョウカさんも上級悪魔を仕留めたことはかなりの貢献と見ているようですね」
「あー、俺の時と同じで謁見コースっぽいね」
「はい。というよりも、すでに決まっているようです。王妃様から誘いがあり、今度の日曜日に都合が良ければ来てほしいそうです。そして、できたら前日である土曜日も空いているか確認してほしいとも……」
あー、なるほどね。
「ちなみに聞くけど、それって断れるの?」
「もちろん断れます。我々の領地は遠い地にありますし、来いと言われて簡単に行ける距離ではありませんからね。ただ、断らない方が良いと思います」
俺もそう思う。
良いことをしたわけだから別に怒られたり、咎められることはないだろうが、しょっちゅうマリエル様の自宅へ遊びに行ってるのに断るのはマズい。
「王家の覚えは良くしておいた方がいいよね?」
「はい。間違いなく、マリエル様経由でシャンプーなどの整髪料、ネックレス、リンゴの加工品等は王妃様に伝わっております。ここは恩を売る機会と考えましょう。我々はラヴェル侯爵の傘下であり、クロード様とも良くしてもらっていますが、それでも弱小勢力であることに変わりませんし、スローライフが目的なタツヤ様の意向から考えてもこれから大きくなることもありません」
確かにそうだな。
俺は大貴族になりたいわけでも権力者になりたいわけでもない。
これが高校生くらいなら増長することもあるかもしれないが、俺はもう35歳であり、保守的になっている。
「弱小勢力には弱小勢力なりの戦い方というか、守り方をするわけだね?」
「はい。それが政治です。この国最大の権力を持つ者のお気に入りになりましょう。そうすれば、他の貴族も簡単には手出しができません。しかも、弱小勢力がゆえに嫉妬されることもありません。他の貴族からしたら30人程度の開拓村の領主にすぎませんから」
王家やラヴェル侯爵、クロード様を敵に回してまで相手にせんわな。
「わかった。キョウカー、頼むよー」
俺の部屋に向かって声をかける。
すると、勢いよくふすまが開き、キョウカが戻ってくる。
「お任せください! タツヤさんの妻として恥ずかしくない振る舞いをしましょう!」
なんか逆に俺が不安になってきたな……
俺って、その辺が大丈夫なんだろうか?
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