第179話 提案
「ご無沙汰しております、山田様」
「お久しぶりです。元気そうで何よりです」
そう言って、ソファーに向かうと、娘役のルリを隣に座らせ、腰を下ろした。
「ええ。しかし、上級悪魔に村を襲われたのは大変でしたね」
バルトルトね。
「いや、まったく。もう勘弁願いたいですよ」
「王都にも出たそうですね? なんでも奥様が倒したとか」
さすがに知ってるか。
「ええ。妻は悪魔退治専門の魔法使いですから」
「そうなんですか……とにかく、無事で良かったです」
ホントにね。
「それでフェリクスさん、今日はどうしたんです? リンゴですか?」
フェリクスさんは元村長さんほどではないが、結構な歳だ。
用もなく、わざわざこんな所まで来ないだろう。
「あ、いや、そういうことではありません。実はクロード様からの提案をお持ちました」
「提案?」
「はい。実はウチの町の商業ギルドから陳情が出ているんですよ」
陳情……
リンゴの専売だろうか?
「陳情とは?」
「道の整備です?」
ん?
「整備はしておりますが?」
大変だったが、魔法で綺麗に整地したはずだ。
「あ、いえ、陳情が上がっているのはウチの領地です。ウチの領地とリンゴ村の領地との境は看板があるところになるんですが、その看板からウチの町、または王都に向けて出荷するための道の状態があまり良くないのです」
あー、そういうことか。
「ウチのリンゴだけでなく、他のものも輸出、輸入しているでしょうから道の整備はいるかもしれませんね」
壊れやすいものとかもあるだろう。
「ええ。それでクロード様はこの際、道の一斉整備を行うことにしたんです」
「良いと思います」
正直、俺達は転移を使っているのでどうでもよかったりする。
「はい。それで提案なんですが、クロード様は特にハリアーの町とリンゴ村の道の整備に重きを置くべきと考えております。ですので、その道をちゃんとした舗装に致しませんか?」
んー?
「と言いますと?」
「現在は山田様のお力で道が綺麗になっておりますが、整地をしただけです。馬車の行き来が続けばまた悪くなりますし、雨が降ればぬかるみます。ですので、石材で舗装してはということです」
なるほどね。
商人だけでなく、ウチの村の人達もハリアーの町に行っているみたいだからいずれはちゃんとした道を作るつもりではあった。
「ウチの道が長いですね……」
ウチから看板まで何キロもある。
「承知しています。ですので、ウチからも資金を半分出します」
え?
「出すんですか? 半分も?」
「はい。実はこの道の一斉整備は公共事業でもあります。それにやはりリンゴという特産をいち早く運ぶことを考えれば高くないと思っております」
マジか……
「モニカ、どう思う?」
こういうのはモニカに確認だ。
「ありがたい提案だと思います。我々も道の整備は考えていましたし、渡りに船かと」
モニカは賛成か。
「資金はある?」
「十分に」
リンゴすごいな。
「じゃあ、お願いしようか」
「はい。フェリクスさん、ウチの村からも人員を出してもよろしいですか? こちらもこの時期は仕事がないもので」
モニカが提案する。
「ええ、それは問題ありませんし、人手は多い方が良いです。そのようにクロード様に伝えましょう」
「よろしくお願いします」
モニカとフェリクスさんが頭を下げ合った。
「では、私はこれで失礼します。また、請け負う業者が来ると思いますので詳細は相談して決めてください」
「わかりました。あ、せっかくいらして頂きましたし、お土産にリンゴを持って帰ってください」
「それはありがたいですな。私も食べましたが、非常に美味しかったです」
なんか嬉しいね。
「少々、お待ちを」
モニカが立ち上がり、出ていった。
「フェリクスさん、やはりハリアーの町も警備を強化してます?」
「ええ。王都に上級悪魔が出たという話は国中に広がっておりますからな。さすがにそれで町の人々が引きこもるということはありませんが、不安を解消させるためにも警備は強化しております」
やっぱりか。
「お待たせしました」
モニカがカゴに入れた2つのリンゴを持って戻ってくると、フェリクスさんに渡す。
「ありがとうございます……」
フェリクスさんは立ち上がって、カゴを受け取り、中のリンゴをじーっと見る。
「どうしました?」
「いえ……長居はご迷惑でしょうし、私はこれで失礼します。男爵、お時間をいただきありがとうございました」
フェリクスさんが一礼したので見送りに出る。
そして、フェリクスさんは馬車に乗り込み、帰っていった。
「モニカ、向こうの思惑は?」
馬車が去ったのでモニカに確認する。
「まず、公共事業というのは本当でしょう。この時期は仕事が減ってしまいますので暇な住民に仕事を回したいのです」
それはわかる。
要は経済を回したいんだ。
「それで道の整備?」
「はい。リンゴは丈夫で長持ちはしますが、それでも新鮮で綺麗なままのものを王都に下ろしたいんだと思います。向こうでは贅沢品ですし、品質で買い取り金額に大きな差が出ます」
マリエル様やクラリス様、それに王室に渡しているのは転移を使っているから新鮮だ。
でも、それ以外は馬車での輸送だからな……
「ウチの費用も半分出すっていうのは?」
「私達が言っている仲良くしようってやつですね。私達はクロード様の派閥ではなく、ラヴェル侯爵の派閥です。さらにはキョウカさんが上級悪魔を倒したことでタツヤ様の陞爵の可能性も高いです。リンゴのこともありますし、向こうも争う気がないというメッセージかと……あとは私達と仲良くすることでラヴェル侯爵の派閥とも争う気がないというアピールでしょう」
なるほどね。
そういう思惑があるわけだ。
「ありがたいことだね。俺も争いはごめんだよ」
何のためにスローライフを目指して村長になったというのだ。
「後日、お礼ということでリンゴの加工品でも送っておきましょう」
「頼むよ。どこともだけど、特にお隣であるクロード様と争いになるのは絶対に避けたい」
「もちろんです」
俺達はさすがに身体が冷えてきたので今日は帰ることにした。
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