第178話 客
ルリとミリアムに協力してもらい、手分けして木の伐採、伐根を行っていく。
俺が木を切り、ルリとミリアムが枝落としをして、木材を並べていった。
そうこうしていると、20メートル四方のいい感じの平地ができあがる。
「寒いけど、身体を動かすと暖かくなるね」
「そうですね」
「私はそもそもそこまで暑さ寒さを気にしないにゃ」
コタツから出てこないくせに。
まあ、猫か。
「タツヤ様、飲み物を買ってきましたよ」
声がしたので振り向くと、買い物袋を持ち、あっちの世界の服に着替えたモニカが研究室から出てきた。
「ありがと」
買い物袋を受け取り、ルリにペットボトルのオレンジジュースを渡すと、スポーツ飲料を飲む。
「綺麗になりましたね」
モニカは立ち直ったようでいつもの涼しい顔で平地を見ていく。
「とりあえずはこれくらいの広さでいいかなと思う。足りないようならまた広げればいいしね」
「そうですね。私の家もそこまで広くなくてもいいですが、他に何かを作ることもあるかもしれません。タツヤ様、温泉はどのくらいの広さにします? さすがにこの前の旅館の露天風呂は広すぎると思います」
広すぎても寂しいだけだし、いくら魔法があるとはいえ、管理というか掃除が大変だ。
「まあ、大人数で入ることはないしね。女性陣はともかく、俺はミリアムと入るくらいだよ」
あとはユウセイ君かな?
「私は入らないにゃ」
風呂嫌いだなー。
「では……湯船はこれくらいですかね?」
モニカは枝を拾い、地面に数メートルの四角を書いた。
「そんなもんかな? お湯は魔法で出そうと思うけど、排水とかはどうしようか?」
「そうですねー……いっそハリアーの町の業者に頼みましょうか?」
「大丈夫? あまりこの村に人を入れたくないんだけど」
見られたくないものが多い。
「来るのは商人ではなく職人ですし、今の時期は農作業をしていませんから見られても困るものはありません。むしろ、今後のことを考えると今がチャンスな気もします」
暖かくなれば農業を再開するし、村の整備なんかを始めようと思っている。
そうなるとますます人を入れたくないし、やるなら今か……
「どれくらい時間がかかるかな?」
「作業自体は1日もかからないと思います。排水施設の工事とお湯を出す魔道具なんかを設置してもらえばあとはこちらでもできます」
その程度でいいのか。
「じゃあ、それで進めてくれる? 俺ものこぎりややすりなんかの工具を買っておくよ。あとトランプとか」
ホームセンターで適当に買ってこよう。
これが大魔導士の魔法だ。
「かしこまりました。そのように進めましょう」
俺とモニカはその後も地面に家の図面なんかを描いたりし、話し合いながら計画していく。
「タツヤさん」
俺とモニカが相談していると、研究室の前で待っているルリが手招きをしていた。
「どうしたの?」
俺とモニカはミリアムを抱えているルリのもとに行く。
「あれ……フィオナさんじゃないです?」
「んー?」
ルリが村の方を指差したので見てみると、少女がこちらに向かって走ってきていた。
「ホントだ」
あれは以前、病気で寝込んでいた村の女の子だ。
「どうしたんですかね?」
「さあ?」
俺達が首を傾げながら待っていると、フィオナがやってきた。
「村長さん、こんにちは!」
フィオナはここまで走ってきたというのに息をまったく切らさずに挨拶してくる。
「うん。こんにちは。体の方はもう大丈夫なの?」
「はい! とても元気です!」
まあ、そんな気はする。
元気いっぱいだ。
「それで何か用?」
「あ、そうでした! 実はハリアーの町からお客様が来ています。村長さん達がまだいれば、お客様用の家に呼んできてほしいってダリルさんに頼まれたんです」
客?
「誰だろ?」
モニカに確認する。
「さあ? とりあえず、行ってみましょうか。オベール商会かもしれません」
「それもそうだね。フィオナ、ありがとうね」
「いえ! それじゃあ、私は戻ります!」
フィオナは全力で頭を下げると、そのまま村の方に走っていく。
「速っ……あれが若さか」
とてもベッドで寝込んでいた少女とは思えない。
「うーん、どうでしょう? 私は子供の頃から遅かったですね」
モニカはそんな気がする。
「俺があんな感じで走ったらどこかを痛めそうだよ」
「そこまでお年を召してないと思いますよ。タツヤ様は若いです」
「いやー、年よりも運動不足。何かやろうかな? ミリアム、お散歩でも行く?」
「私は犬じゃないにゃ。猫はコタツにゃ。キョウカとでも走るといいにゃ」
絶対に無理な気がする。
キョウカは逆に足が速そうだし、体力もありそうだ。
「家でストレッチでもするかなー……」
お腹が気になりだす年だし、健康器具でも買おうかなーと思いながら歩いていき、村の門付近に建てたお客様お出迎え用の建物の前まで来る。
「タツヤ様……」
「うん」
村の門の外に豪華な馬車が停まっていた。
それも以前に見たオベール商会のエリクさんの馬車よりも豪華だ。
クロード様のところかなと思い、扉をノックする。
「山田です」
『おー、タツヤ様、入ってくだされ』
ダリルさんの声が聞こえたので扉を開け、中に入る。
すると、ソファーに腰かけるダリルさんと老紳士がいた。
そして、老紳士は立ち上がって綺麗な姿勢で一礼する。
「あ、フェリクスさんでしたか」
その老紳士はクロード様の家の執事のフェリクスさんだった。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




