第176話 平和
今後の方針を決め、夕食を食べ終えると、少し休みながら話をする。
そのまま話をしていたものの、いい時間になったのでキョウカとユウセイ君を家に送り届けた。
そして、家に帰ると、順番にお風呂に入り、4人でまったりと過ごす。
俺はモニカとビールを飲みながらルリの方を見た。
ルリは頭にミリアムを乗せながらスマホを弄っている。
非常に可愛らしい俺の宝物コンビであり、眺めているだけでほっこりした。
「タツヤ様、ちょっと村のことでいいですか?」
キョウカが帰ったので隣に座っているモニカが聞いてくる。
「村? 何かあったの?」
「いえ、リンゴ村自体は平和そのものです。皆、暖かい家でゆっくりと過ごしています」
それは良かった。
「じゃあ、何?」
「平和とはいえ、村をもう少し整備した方が良いと思うのです。また、例の温泉を始めとするタツヤ様のスローライフに向けて、動き出してもいい頃合いではないでしょうか? 先日まではこちらの悪魔教団とやらで時間が取れませんでしたが、今は少し余裕が出てきたと思います。もちろん、ペースはタツヤ様にお任せしますし、もう少し暖かくなってからでも良いと思います」
なるほど。
確かに動いてもいいかもしれない。
「村の人達は手伝ってくれるかな?」
魔法があるとはいえ、俺達だけでは厳しい。
「むしろ、農作業がない今の方がいいかもしれません。皆も暇を持て余しているでしょうし」
仕事を与える意味でもそっちの方がいいか。
「じゃあ、そうしよっか。村の整備はどうする?」
「まずはインフラの整備でしょう。魔道具ですね。リンゴがかなり売れていますし、予算は十分にあります」
お金のことはすべてモニカに任せている。
そのモニカがそう言うならそうなんだろう。
「わかった。それで進めて」
「かしこまりました。それでセカンドハウスはいかがします? 温泉を作るという話でしたが……」
どうしようか……
「明日、リンゴ村に行って確認してみようか。それにダリルさんのところに行って、また陳情がないかを確認しよう」
「かしこまりました。では、そのように」
リンゴ村に行くのもバルトルト襲来の時以来だ。
本来なら冬とはいえ、もうちょっと顔を出す必要がある。
「ルリも行く?」
スマホを弄っているルリに聞く。
「行きます」
「行くにゃ。リンゴを食べるにゃ」
ミリアムも行くらしい。
「じゃあ、皆で行こうか」
「はい」
「にゃ」
俺達は明日の予定を決めると、まったりと過ごしていき、就寝した。
翌日、皆で朝食を食べると、研究室を抜け、外に出る。
「寒いねー」
「冬ですから」
そう言うルリはマフラーをして暖かそうにしている。
可愛い。
「しかし、モニカ。いつもこの寒さの中を家に帰っているんだよね?」
風呂も俺の家で入っているし、帰る時に身体が冷えると思う。
「そこまで離れていませんし、大丈夫ですよ」
「うーん……」
考えながら周りを見渡した。
当然、木しかない。
「どうしました?」
モニカが首を傾げたのでじーっと見る。
「あ、いや、後にしよう。その前にダリルさんのところに行こうか」
「わかりました。では、参りましょう」
俺達は村の方に向かい、執務用の家を抜け、村にやってきた。
村では以前のように村人達が働いているわけではなかったが、所々で井戸端会議をしているし、子供達も楽しそうに遊んでいた。
「確かに平和だ」
「争いとは無縁ですよ。皆、良い人達ですし、村全体で家族って感じです」
確かにそんな気がする。
人も多くなく、自然も豊か。
だからこそ、俺はここを気に入っているのだ。
「よく考えたら陞爵して、子爵になろうと伯爵になろうと何も変わらないね」
「だと思います。開拓に成功したばかりの村ですしね」
領地としてはリンゴを育てて売ってるだけだ。
人もそこまで増えないだろうし、このまま村として維持していくか。
俺達は村を見渡しながらダリルさんの家に向かう。
そして、家の前に立つと、扉をノックした。
「ダリルさーん、おられますー?」
『おー! どうぞ、どうぞ』
中から機嫌の良さそうな声が聞こえたので扉を開け、中に入る。
すると、テーブルにつくダリルさんがおり、ニコニコと笑っていた。
「こんにちは。御無沙汰しております」
「いえいえ。どうぞ、おかけください」
ダリルさんに勧められたので皆で席につく。
「ひと月以上も空けてすみません。ちょっとバタバタしていまして」
「いえいえ。モニカから話は聞いておりますし、こちらの方も特に問題は起きておりません。ごゆるりと魔法の研鑽に努めてくだされ」
そういうことになっているんだな。
「わかりました。それで問題は起きていないということですが、村の方はどうです?」
「平和そのものですな。たまにハリアーから商人が来るくらいです」
「リンゴの買い取りです?」
「もちろんそれもありますが、色々な娯楽なんかも持ってきております。我々も木材を売ったりして交易をしているのです」
この森の木は丈夫だから良質な木材になるって言ってたもんな。
だからのこぎりややすりなんかを提供したのだ。
「それは良かったです。こちらの方でもラヴェル侯爵と交流を持て、後ろ盾を得ました。我々はラヴェル侯爵の派閥ということになります」
「ほう……良いところを選びましたな」
ラヴェル侯爵を知っているらしい。
「モニカの伝手ですよ」
「本当にモニカを雇って正解でしたな」
それはそう。
モニカは優秀だし、いつも支えてくれる。
色んな意味で絶対に大事にしなければならない存在だ。
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