第174話 うーん……
昼前になると、キョウカがやってきたので皆で早めの昼食を食べる。
昼食を終えると、キョウカが俺の部屋であっちの世界の服に着替え、剣を持って出てきた。
「鎧とかの方が似合いそうじゃないです?」
キョウカが鞘に入ったままの剣を構える。
「まあ……」
どうしてもファンタジーだと実用性がなさそうな薄着の鎧を思い浮かべるな。
「キョウカさん、あまり使わないでくださいね。いくら貴族夫人でも殺人は犯罪ですので」
モニカがキョウカに物騒な忠告をした。
「わかってますよ。それに私は退魔師であって、戦士ではないです」
「お願いしますね」
モニカはちょっと不安そうだ。
でも、正直、俺もちょっと不安。
「準備はできたし、行こうか。ルリ、買い物お願いね」
「はい」
ミリアムはコタツの中か……
「じゃあ、行こう」
転移を使い、キョウカとモニカを連れて、王都の借家に飛び、外に出る。
そして、町中を歩いているのだが、いつもより人が少ない気がした。
「もしかして、上級悪魔が出たから人が少ないのかな?」
「多分、そうだと思います。王都でこんなに少ないのは初めてですね」
やっぱりか。
上級悪魔が王都に出ることなんかなかったって言ってたしな。
俺達はいつもより人が少ない町中を歩いていき、ラヴェル侯爵のお屋敷を目指す。
そして、ラヴェル侯爵のお屋敷の前に着くと、いつもの門番さんが槍を降ろした。
「これは山田男爵、ようこそいらっしゃいました」
「どうもー。ラヴェル侯爵とマリエル様はおられます?」
「はい。話は聞いておりますし、どうぞ、中へ。侯爵の執務室ですので」
「わかりました」
俺達は門をくぐり、お屋敷に向かって歩いていく。
「勝手に入っていいもんかな?」
「それだけ信頼があるということでしょう。クラリスなんか親とケンカした時に塀を乗り越えて入ったことがあるそうです」
おてんばな人だなー。
「今日はクラリスさんは?」
「さすがに来ませんね。話だけですので」
「それもそうか」
俺達は屋敷に入り、階段を上がると、奥にある執務室の前に立つ。
そして、ノックをした。
「侯爵、山田です」
『ああ、入ってくれ』
許可が得られたので扉を開け、中に入る。
すると、ソファーに並んで腰かけるラヴェル侯爵とマリエル様がいた。
「失礼します」
そう言って頭を下げると、キョウカとモニカも頭を下げる。
「ああ。出迎えもできなくて申し訳ない。ウチもバタバタしておるのだ。まあ、かけてくれ」
ラヴェル侯爵が勧めてきたので対面に座った。
キョウカも隣に座り、モニカは俺達の後ろに控える。
「バタバタというと上級悪魔のせいですか?」
「ああ。町中に出たせいでな」
やっぱりか。
「私もキョウカから聞いてびっくりしました。まさか王都に出るとは……」
「まったくだ。そんなこと聞いたこともないし、町の警備隊は何をしていたんだか……」
転移ではなー……
しかも、異世界から飛んできたんだから警備の兵士でもどうしようもないだろう。
「犠牲者が一名出たということですが……」
「ああ。町人が一人食われた」
食べたのか……
そういえば、腕を再生するのに人を食べるって言ってたな。
「なんというか……ご愁傷様です」
「いや、その町民や遺族には悪いが、犠牲者が一人だけで良かった。上級悪魔は討伐するのにかなり兵や魔法使いが犠牲になる。そんな相手が白昼堂々と町中に現れたのにそれだけの被害で済んだのは奇跡とも呼べる。すべては夫人のおかげだ」
やはり上級悪魔は危険なんだな。
「キョウカは悪魔退治を専門とする魔法使いなのです」
「うむ。それは聞いておる。それがどういうものかはわからんが、実に見事だ。また、この王都を救ってくれたこと、そして何より、妻を救ってくれたことに感謝する。妻や隣のクラリス嬢は魔法使いだから悪魔にとっては上質なエサだ。非常に危ないところであった」
魔法使いを食べた方がいいのか。
「当然のことをしたまでです。悪魔を祓うのが私の使命であり、いつも良くしてくれているマリエル様、クラリス様を守るのも当たり前です。それにウチの領地の屋台骨もいましたし」
キョウカがそう言って、モニカを見る。
すると、モニカは表情が若干、暗くなったものの、軽く頭を下げた。
多分、自分は魔力が低いから上質なエサじゃないと思っているんだろう。
もう大体わかる。
「うむ。山田殿も素晴らしい魔法使いであるが、夫人も女傑のようだ」
女傑、女傑。
すんごい女傑。
「まあ、何にせよ、マリエル様が無事で良かったです。私はその場にいなかったので状況がわかっていませんが、クラリス様を含め、怪我はなかったのですか?」
マリエル様に確認する。
「ええ、私もクラリスも無事です」
「それは良かった」
「心配をかけました。またキョウカさんのおかげで無事だったことに感謝します。しかし、何故、王都に上級悪魔なんかが現れたんでしょうか?」
さすがに向こうのことは言えんな。
「それは私にもわかりません」
「そうですか……あなた、山田さんの領地にもネームドの上級悪魔が現れましたし、何かが起きようとしているのではないでしょうか?」
マリエル様がラヴェル侯爵に聞く。
「その可能性もあるな……王都でこのようなことがあれば、各町でも厳重な警備が進むだろう。山田殿も大魔導士かもしれんが、気を付けるといい」
「はい。大事な領地であり、家族も同然ですので」
「うむ。それとだが、山田殿。貴殿は自分の領地で大人しくしていたいんだろうなということはわかっている」
ん?
「ええ……領主としての経験もないですし、魔法の方を本業としていますので領民を守り、ほどほどな発展を目指しております」
多分、スローライフって言っても通じんだろうな、
「うむ……そんな貴殿に朗報か悲報かはわからんが、今回の夫人の活躍は相当なものだ。何しろ、王都の危機を救った英雄だからな」
嫌な予感……
「何かあります?」
「多分、夫人が陛下に呼ばれるだろう。褒美をもらえるし、貴殿の陞爵もありえる」
うわー……
出世しちゃった。
いや、それよりもキョウカはちょっとマズいような……
「あ、あのー……ウチの妻はちょっと人に出せるような感じではないんですけど……まだ若いですし」
「そうなのか?」
ラヴェル侯爵がマリエル様を見る。
「ちょっと品位がないかもしれませんが、礼儀作法はできていると思いますので問題ないかと……」
「品位……」
キョウカがちょっとへこんだ。
でも、人斬りキョウカちゃんはねー……
「なら問題ない。何もパーティーに出ろというわけではないだろう。どちらにせよ、山田殿は王妃様に呼び出されるだろうし」
やっぱり呼び出されるのね……
「そうですか……」
「うーむ……そんなに心配なのか……マリエル、陛下への謁見はともかく、王妃様主催のお茶会にはついていってやれ」
おー! それは心強い!
「そうした方が良さそうですね。キョウカさん、まだ陛下が他国より戻ってきていませんが、近いうちに戻るでしょう。それまでに作法を教えます」
「あのー……キョウカはちょっと昼間に用事があることが多くて……」
学校があるんだよ。
「用事?」
「ええ、色々と……」
「マリエル様、夕方なら大丈夫ですよ」
キョウカが答えた。
「では、そちらの都合の良い時にでも来てください。あんなことがありましたし、あまり外に出る気分でもないですから屋敷にいます」
そりゃそうだ。
「キョウカ、いい?」
「いいですよ。一応、そういう教育も受けてますから」
名家の子だったね。
「マリエル様、キョウカをお願いします」
「ええ」
まあ、マリエル様に任せれば大丈夫か。
大丈夫、か……?
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