第173話 やったぜ!
翌日、この日は午後からラヴェル侯爵夫妻と会うことになっているため、キョウカが昼前に来る。
そのため、午前中に桐ヶ谷さんにディオンのことを報告しようと思い、スマホを手に取った。
「ルリ、モニカ、ちょっと桐ヶ谷さんに電話をするから黙っててね」
ミリアムさんはコタツの中で丸くなっているので大丈夫。
「わかりました」
「承知しました」
2人が頷き、テレビを消したので桐ヶ谷さんに電話をかける。
すると、数コールで呼び出し音がやんだ。
『もしもし? 山田さん?』
桐ヶ谷さんの声だ。
「あ、桐ヶ谷さん、休日中なのにすみません」
『いえいえ、協会にいますので大丈夫ですよ』
あ、休日出勤か。
さすがにあんなことがあったばかりだし、そうか。
しかし、前に引退した後は指導員になれるって言ってたけど、こんな感じで忙しそうだから嫌だな。
やはり稼げるうちに稼ぐべきだ。
「忙しいところすみません」
『お気になさらずに。それよりもどうしたんです?』
「えーっと、説明が非常に難しいんですけど、昨日、橘さんと歩いていると、例の残虐の悪魔ディオンと遭遇しました」
なんでキョウカと歩いていたかの説明はいらんだろ。
『え!? 本当ですか!?』
「はい。間違いなく、ディオンです」
嘘は大変だわ。
俺はあまり嘘が得意ではないのだ。
『ディオンが……山田さんが腕を切り落としたって言ってましたし、復讐ですかね?』
「多分、そうだと思います。急に後ろから襲われましてね」
キョウカの案でいいや。
『それは……あなたもですが、橘君は大丈夫ですか?』
「はい。なんとか対処しましてね。それでディオンを仕留めました」
『おー! それは素晴らしい! さすがは山田さんです! 皆も喜びますよ!』
倒したのはキョウカなんだよなー。
ちょっと後ろめたい。
「今回は上手く仕留められました」
『さすがです。それで場所は?』
「あー……ウチの前ですね」
『ウチ? あっ……そうですか。調査員を派遣しても?』
あって言われちゃった。
まあ、女子高生と歩いている場所がウチの前じゃあな。
「あのー、それなんですけど、実は残滓を消しましてね。家の前だったもんで」
『そうなんです? あっ……』
また言われた……
「違うんですよ? 調査員の方に橘さんとのことで変な勘繰りをされたくないとかじゃないんですよ?」
情けない演技だ。
でも、700万のため!
『はいはい……でも、そうすると、依頼料が出るかはわかりませんよ? 討伐の証明ができませんし』
「一応、橘さんの刀に残滓が残っているんですけど」
『あれ? 橘君が仕留めたんです?』
まあ、そう思うわな。
「えーっと、急襲され、橘さんが刀を落としましてね。それを拾って私が仕留めたんですよ…………ってことになりません?」
やっぱりこの嘘は厳しいわ。
『あー、そういうことですか。ふーむ…………いや、我々は山田さんチームに依頼を出したわけですし、橘君が仕留めても依頼料は出る気がしますね』
え? マジ?
「出るんです?」
『多分、出ると思いますよ。それに相手は名古屋支部の仇ですからね。上もごちゃごちゃ言わないと思います』
おー!
「是非ともその方向で……ウチには幼い子と猫がいるんです」
しかも、可愛いんです。
『はいはい……じゃあ、そういう方向で進めてみます。あ、橘君に空いている時でいいので刀を持って、協会に来てくれるように言ってくれません?』
残滓を調べないといけないからな。
「わかりました」
『それと今回の依頼料もですが、昇格や褒賞金もありますので後日、説明させてください。また連絡いたしますので』
昇格! 褒賞金!
「ありがとうございます。桐ヶ谷さんについていきます!」
頼るべきはこの人だ。
この人についていったらお金ががっぱがっぽ!
『はいはい……山田さんはわかりやすくていいですね。では、これで失礼します』
「失礼します! お仕事頑張ってください!」
『はいはい……』
電話が切れたのでスマホをコタツに置いた。
「やった! 700万が出そうだ!」
「おめでとうございます!」
「良かったですね!」
ルリとモニカも喜んでくれる。
「皆でお祝いしようか! ルリ、値段を見なくていいから牛肉でも買ってきて」
半額シールも待たなくていい!
「ステーキにでもしますか?」
「サーロインね」
なお、サーロインが何かは知らない。
「わかりました!」
よーし、キョウカはいるだろうし、ユウセイ君も呼んであげよう。
皆で寒い中、待ち伏せしたしな。
俺はスマホを手に取ると、ユウセイ君に連絡する。
山 田 :上手くいった! 700万が出そう!
ユウセイ:おー! 良かったわー!
山 田 :気が早いけど、お祝いでステーキにするから夕方にでもおいでよ
ユウセイ:ごちー
よしよし。
「ユウセイ君も来るってさ」
「わかりました。午後から買い物に行きます……ミリアムも行く?」
ルリがコタツ布団をめくり、中にいるミリアムに聞く。
「行かないにゃ。私は自宅警備の仕事があるにゃ。あ、私は300グラムは食べるにゃ」
怠惰、そして、食いしん坊の悪魔……
「わかった。タツヤさんはワインとストゼロはどちらがいいですか?」
その2つを並べられたのは初めてだ。
「せっかくだし、ワインかな……モニカも飲む?」
「あ、いただきます」
「じゃあ、ルリ、頼むよ」
「わかりました」
ルリは頷くと、テレビを点け、ワイドショーを見始めた。
本当に主婦みたいだ。
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