第171話 こっちの世界とあっちの世界
「まあ、マリエル様が呼び出した理由はわかったよ。それでどうしたの?」
「その後、お茶会だったんですけど、マリエル様は私が毎回、同じ服なのが気になっていたようです」
気になっちゃったか。
「それしか用意してないもんね」
「はい。私も貴族夫人なんで気になったようですね」
「男爵なんだけどなー」
しかも、田舎。
「マリエル様は都会の方ですからね。それでありがたいことに服を買ってくれるってことになったんですよ」
「してもらってばかりで悪いなー」
「これもお礼じゃないです? マリエル様はかなり感謝してましたし」
そうかもな。
それにキョウカのことを気に入っているようだ。
「それで町に出たの?」
「はい。馬車で服屋さんに向かってたんですけど、そこであのディオンと遭遇したんです」
異世界にあのディオンが……
「町中に悪魔が出てきたのか……モニカ、こういうことってあるの?」
向こうの世界はどうなんだろう?
「憑りつくタイプの悪魔が出ることはありますが、上級悪魔が出ることなんてないです。ましてや天下の大通りに現れ、人を襲うなんて……」
「襲ったの?」
「はい。犠牲者も出ています」
マジかよ。
しかも、昼間だろ?
「そんなことがあったのか……それでキョウカが仕留めたの?」
「はい。昨日の鬱憤を晴らしてやりました! 私の敵じゃないです!」
さすがは長年、退魔師をしていただけはあるな。
「なるほどねー……あ、マリエル様は?」
「かなり動転していたようですので買い物もお茶会も中止で家に戻りました。私達はそれを確認し、ラヴェル侯爵に事情説明をしてから帰りました」
マリエル様、大丈夫かな?
首を刎ねた光景を見てない?
「そっか……また話をした方が良さそうだね」
「その件についてですが、マリエル様とラヴェル侯爵がタツヤ様に会いたいとおっしゃっていました。明日にでも伺った方がよろしいかと」
モニカが進言してくる。
「そうだね。キョウカ、悪いけど、明日も付き合って」
「わかりました」
キョウカが頷いた。
「山田さん、ちょっと気になることがあるんだが……」
ユウセイ君が聞いてくるが、内容はわかっている。
「ディオンがなんであっちの世界にいたか、だよね?」
「ああ。それで一つ仮説ができた」
「言ってみて」
「長年、この世界には悪魔という存在がいた。だが、こいつらがどこから来るのかはまったくわかっていなかった。でもさ、ディオンがあっちの世界にいたってことはあっちの世界の悪魔がこっちの世界に来ているんじゃないか?」
俺もそう思った。
「だよね……悪魔を呼び出す召喚の魔法陣はあっちの世界から呼び出すものって考えられる。それに……」
モニカを見ながらちょっと考える。
「何でしょう?」
モニカがまったく表情を変えずに聞いてくる。
「モニカさ、あっちの世界にも悪魔はいるんだよね?」
「はい。魔物と呼ばれるものとは別に悪魔というものが存在します」
これは向こうの世界の人間も認識していたことだ。
人々の敵とも言っていた。
「人に憑りつくタイプもいるんだよね?」
「はい。年末にリンゴ村を襲ったバルトルト以外はそのタイプの悪魔です」
そうだ。
そして、バルトルトは上級悪魔と名乗った。
こっちの世界の悪魔と種類というか存在がまったく一緒なのだ。
「ミリアム、わかる?」
「わかるにゃ。あっちの世界の悪魔とこっちの世界の悪魔は同じ悪魔にゃ」
やっぱりか……
「あっちの世界から来てるわけ? それこそ例の召喚魔法陣を使って」
「一概にはそうとも言えないにゃ」
「どういうこと?」
「まず、こっちの世界とあっちの世界を行き来する方法で一番簡単なのは次元転移の魔法にゃ」
次元?
「普通の転移とは違うの?」
「普通の転移は同一の世界しか飛べないにゃ」
あれ?
「俺、普通に異世界に飛んでるよ?」
王都の借家に飛んでいる。
「それが次元転移にゃ。爺さんの部屋にあった転移の本は次元転移にゃ」
「そ、そうだったんだ……」
種類を知らないからわからなかった。
「次元転移は普通の転移よりさらに難易度が上にゃ。悪魔の中でも一部しか使えないにゃ」
「へー……」
ミリアムは普通に使えているな。
さすがは上級さん。
「あ、タツヤさん、そういえば、ディオンの奴が次元転移がどうちゃらこうちゃら言ってました」
キョウカが思い出したように言う。
「あいつはその次元転移で逃げたんだな」
「転移ではお前に追いつかれると思ったんだろう。それで異世界に逃げたんだろうにゃ」
そしたら運悪く人斬りキョウカちゃんと遭遇したわけか。
「俺が言うのもなんだけど、そう簡単に悪魔に転移されると困るね」
「さっきも言ったが、次元転移を使えるのはごく少数にゃ。まず上級以外は使えないし、上級にも色んな奴がいるにゃ」
バルトルトなんか絶対に無理だろうな。
魔法を使えない悪魔だったし。
「そうなると、上級悪魔がバンバンこっちに来るってことはないわけか」
「まあにゃ。ただ、お前達の認識を正すならそもそも悪魔は向こうの世界にしかいないわけではないにゃ。悪魔はどこにでもいる」
ん?
「どういうこと?」
「もう少し成長してから教えてやろうと思ったが、こういうことになったのなら仕方がないにゃ。お前に悪魔という存在が何なのかを教えてやるにゃ」
悪魔か……
確かに普通にそう呼んでいるし、なんなら一緒に住んでいるが、全然知らんな。
「教えて」
「私も知りたい」
「俺も。子供の頃からずっとこの仕事をしているが、敵が何なのかくらいは知っておきたい」
キョウカもユウセイ君も知りたいようだ。
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