第170話 クラリス「ないわよ」
キョウカからまったく意味のわからないメッセージを見た俺は急いでユウセイ君に連絡し、迎えにいく。
ユウセイ君の家があるマンションの駐車場で待っていると、すぐにユウセイ君がやってきた。
「山田さん、急にどうした?」
ユウセイ君が後部座席に乗り込んで聞いてくる。
「これ」
ユウセイ君にキョウカからのメッセージを見せた。
「……は? どういうこと?」
さすがのユウセイ君も意味がわからないようだ。
「俺もわからない。そもそもキョウカは今日、ミリアムとモニカと共に異世界のマリエル様のところだ」
「だよな……俺もそう聞いている。帰ってきた後に遭遇したのか?」
「わからない。何度もメッセージを送っているし、電話をかけているんだが、反応がないし、電話も繋がらない」
何がなんだか……
「山田さん、落ち着こう。とりあえず、山田さんの家に帰ってみようぜ。スマホからメッセージを送ったってことはこっちの世界にいるってことだ。そうなると、山田さんの家に戻っているはずだし、ルリがいる」
確かにそうだ。
「じゃあ、出発するね」
「ああ」
俺はシートベルトをし、エンジンを点けた。
「あのさ、こんな時でも後ろなんだね」
重役みたいだ。
というか、俺が運転手みたいだ。
「癖で……まあいいじゃん」
「まあねー……」
車を発進させ、家に向かう。
そして、家に着くと、すぐに中に入り、リビングに向かった。
「あ、おかえりなさい」
リビングにはルリがおり、テレビも付けずに待っていた。
「ルリ、お姉ちゃんは?」
「そのことなんですけど、一回戻ってきたんです。でも、すぐにマリエル様のところに戻ると言って、ミリアムと共に消えました」
メッセージを送ったのはその時だな。
「何があったの? 残虐の悪魔ディオンを倒したってメッセージが来たんだけど……」
「私もそう聞きました。マリエル様と買い物中に遭遇して、お姉ちゃんが首を刎ねたそうです」
方法は聞きたくなかったな……
「それで?」
「一度戻られたんですが、マリエル様を屋敷に送る必要があったのですぐに戻られました。待っててくださいという伝言を預かっています」
「じゃあ、とりあえずは無事なわけ?」
「はい。ミリアムもついていますし、問題ないかと……」
ほっ……焦ったわ。
「あいつ、いくら急いでいるとはいえ、もうちょっと何か書けよ」
ホントだよ。
「あー……ちょっと不気味に……いえ、ご機嫌? うーん、何と言いますか、笑っていたので興奮していたんだと思います」
なんか怖いな……
「あいつ、ディオンと口喧嘩してたしな……」
確かに……
「とりあえず、戻ってくるのを待とうか」
「そうするか……」
俺とユウセイ君は腰を下ろし、コタツに入った。
「あ、お茶を淹れます」
ルリがいつもの濃い番茶を淹れてくれたのでそれを飲みながら3人の帰りを待つ。
そして、1時間くらい経つと廊下の方から気配を感じた。
「ただいまー」
「ただいま戻りました」
「疲れたにゃー……」
3人は戻ってくると、それぞれ定位置に座る。
キョウカが隣でモニカが斜め横、そして、ミリアムが俺の膝の上だ。
「おかえり。メッセージを見たけど、びっくりしたよ」
「すみません。すぐに連絡をした方が良いと思ったんです」
キョウカが謝ってくる。
「いや、それはいいよ。それよりも何があったの?」
「えーっとですね、まず、マリエル様の用件は贈り物でした」
ん?
「贈り物って?」
「なんか剣をくれました。これです」
キョウカがそう言って、いつもの刀ではない異世界風の剣を取り出す。
「え? 本物?」
「はい。抜いてみましたが、本物の剣ですね。中々のものでした」
えー……
「なんでまたそんなのものを?」
「さあ?」
マジでマリエル様、どうした?
「タツヤ様、これは1つのお返しです。これまで整髪剤を始め、ネックレス、アップルパイなど、様々な贈り物をしてきたタツヤ様に対する礼です」
モニカが説明してくれる。
「それで剣? そういう風習なの? 俺も陛下からもらったけどさ」
男爵になった際にもらった。
当然、使い道はないので仏壇に飾ってある。
「あ、いえ、さすがに女性に剣は贈りません。実はお茶会の際にキョウカさんが剣術を得意とし、剣というか刀が好きという話題があったんです」
それでか……
「剣なんてもらっても仕方がないでしょ。というか、銃刀法違反じゃん」
「まあ……」
「いや、そもそもキョウカ、刀持ってんじゃん」
ユウセイ君がツッコんできた。
「私の刀は人を斬れないし、ちゃんと協会や国から許可もらってるってば」
つまり許可を得ていない剣を手に入れたのか……
しかも、今度はガチで人を斬れるやつ……
「キョウカ、それ、どうするの?」
「家に持って帰れませんし、ここに置かせてくれません?」
確かに親に言いようがないわな。
異世界のことを言われても困るし。
「わかった。俺の部屋にでも置いておこう」
「お願いしまーす」
キョウカが剣を渡してきたので受け取る。
俺が陛下からもらった剣よりかは軽いが、それでもやっぱり重かった。
「タツヤ様、基本的にこっちの世界では所持してはいけませんが、向こうに行く際にはキョウカさんに渡してください。正直、私も剣はどうなんだろうと思いますが、一応、マリエル様からの贈り物ですので」
確かにキョウカに贈ったわけだし、持たせておいた方がいいか。
「キョウカ、そういうわけだから」
「了解です! ハンターにでもなろうかなー?」
絶対に大成すると思うけど、君、貴族夫人なことを忘れないで。
……うーん、やっぱりマリエル様は何を考えているんだ?
もしかして、あの人ってセンスない?
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