第017話 農具
ルリが作ってくれたうどんを食べ、少し休むと、異世界の村に行くことにした。
俺は何となく、スーツに着替えると、ルリも白ローブに着替えた。
もちろん、ミリアムは黒い上等の毛皮のままだ。
俺達は例の扉を抜け、研究室と名付けた家を出ようとしたが、ふと、俺の足が止まる。
「どうしました?」
「トイレにゃ? 待つよ?」
ルリとミリアムが首を傾げながら聞いてきた。
「いや、あれで肥料の効果が上がらないかなと思って」
そう答えながら例の炊飯器を指差す。
「うーん、どうでしょう? さすがにやってみたことありませんし」
「まあ、やるだけならタダにゃ。半分くらいなら試してみても良いと思うにゃ」
やってみるか……
俺は作業台まで行くと、微妙に臭いのする肥料を取り出し、開けてみる。
すると、何とも言えない臭いが漂ってきた。
「にゃー……にゃー……」
「ミリアム? 大丈夫?」
鼻の良いミリアムが素の猫に戻ると、微妙に鼻声のルリが抱いているミリアムを揺らす。
可哀想にと思いながら炊飯器に肥料を入れ、蓋を閉めると、魔力を込めた指でスイッチを押した。
すると、例の音楽が流れたので蓋を開けてみる。
「あれ? 特に変わってないな……まあいいか。ルリ、悪いけど、ゴミ袋でいいから袋を持ってきてくれる?」
「わかりました」
鼻呼吸をやめているルリが鼻声で答え、あっちの世界の家に戻っていった。
そのまま待っていると、ルリがすぐにゴミ袋を持ってきてくれたので改良した肥料を入れ、空間魔法で収納する。
「終わったにゃ。外に出るにゃ。行くにゃ。臭いにゃ」
やけににゃー、にゃー言うミリアムが急かしてくるので外に出ると、村に向かう。
そして、村長さんの家に行くと、モニカさんもおり、村長さんと何かを見ながら話し合っていた。
「こんにちは」
声をかけると、2人がこちらを見る。
「おー、タツヤ殿。こんにちは」
「こんにちは」
2人が笑顔で挨拶を返してきた。
「何をしておられたのですか?」
「今月の収入と支出なんかを計算しておりました」
「どうです?」
そう聞くと、2人の顔が若干、暗くなった。
「正直、あまり芳しくありません。ここは川があるので水は豊富なのですが、どうも作物が育ちにくいようでして」
川はあるのか……
水が豊富なのはいいな。
釣りもできるし。
「ルリに来年には国から援助が打ち切りになるだろうと言われたのですが、実際、どんな感じです?」
「隠すようなことではないですし、村長をお願いしたからには隠しません。正直、厳しいかと……」
やっぱりか。
「私の方でも延長を申請してはいるのですが、他にも開拓村はありますし、ここがダメなら別のところで開拓したいというのが上の考えのようです」
モニカさんが説明してくれる。
「そう考えるのもわかりますね」
国だって慈善事業をしているわけではないのだろうし。
「どうしたものかのう……」
村長さんが悩みだした。
「村長さん、実は私、お手伝いできることがないかと思い、道具をお持ちしました」
「道具? 魔道具ですかな?」
あ、俺、魔法使いか。
「いや、そこまでのものではないですが、これです」
俺は空間魔法で昨日買ったものを取り出す。
さすがに家の中なので肥料はやめた。
「こ、これは鉄でできた農具ですか?」
「随分と質が良いように見えますね」
村長さんとモニカさんがまじまじとクワ、鎌、スコップを見る。
「祖父の家に材料がありましたので作ってみました。私も若輩とはいえ、魔法使いなもので」
ということにしておく。
異世界のことは面倒だから言わない。
「これを作ったのですか……」
「すごい技術ですね」
本当に現代の技術はすごいよね。
「少しでもお役に立てればと……これは試しでして、使ってみて、良ければもう少し数を用意しようかと思っています」
「なるほど……それはすごい。早速ですが、試してみましょう」
村長さんがそう言ったので俺達は家を出て、畑の方に行ってみる。
「コーディー、ちょっといいか?」
村長さんが畑仕事をしている若い男に声をかける。
この人は夫婦で開拓事業に参加している20代後半の人だ。
「何だい、村長さん? それにモニカに山田さん達もいるじゃないか」
「実はタツヤ殿が農具を作ってくださったから試したいと思ってな」
「農具?」
コーディーさんが首を傾げると、村長さんが俺をちらりと見てきたので空間魔法から農具を取り出し、地面に並べた。
「クワ、鎌、スコップですね」
「鉄か! それはありがたい! ありがたいんだが、上等すぎないか? 輝いているんだが……」
新品の農具達は太陽の光を浴び、キラリと輝いていた。
「タツヤさんはそれほど優れた魔法使いなのです」
「そうにゃ、そうにゃ」
ルリとミリアムが勢いで誤魔化そうとしている。
「へー……大魔導士様はすごいんだなー」
俺も大魔導士様になってる!?
「とりあえず、使ってみてくれんか? 良ければ数を用意してくださるそうじゃ」
「使わなくても良いものってわかるけどなー……」
コーディーさんはクワを手に取ると、振りかぶって畑に向かって振り下ろした。
「おっ! すげー!」
コーディーさんは機嫌よくどんどんと畑を耕していく。
「どうじゃ?」
「土への入りが全然違う。持ちやすいし、こりゃすげーわ」
「他のも試してみてくれ」
村長さんが勧めると、今度は鎌を手に取り、その辺に生えている雑草を刈っていく。
「これ、武器にできるな。切れ味がすごいわ。これならウチのガキでもできる」
コーディーさんは子持ちだ。
その辺で追いかけっこをしている男の子がそう。
「最後にこれを試してくれ」
村長さんがスコップを勧めると、コーディーさんがスコップを使って穴を掘っていった。
「いや、すごい! どれも本当にすごいぞ!」
使えそうだな。
「うむ。タツヤ殿、良さそうですな?」
村長さんもそう思ったらしい。
「では、これらを10セットほど用意しましょう」
「そんなに!?」
貯金を崩すことになるが、仕方がないだろう。
この村の存続がかかっているし、時間があまりない。
今後、取り戻せるだろうし、これは投資だ。
「ええ。来週くらいには持ってきましょう」
「助かります!」
村長さんが頭を下げた。
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