第165話 待ち伏せ
俺達は港近くの駐車場で待機している。
そして、時刻は9時を回った。
「時間だな……」
いつのまに人斬りキョウカちゃんに代わっていたキョウカが刀袋から刀を取り出す。
「まだ魔力は感じないにゃ。作戦は実行されただろうけど、ここに敵が来るのはまだ先にゃ」
「わかっているさ……でも、楽しいじゃないか」
キョウカが笑いながら少しだけ刀を抜き、刀身を見る。
「キョウカ……怖いにゃ。猫を捌く〇〇〇〇にしか見えないにゃ」
俺もそう見えた。
「そうかい? そんなつもりはないんだけど……」
「皆、引いてるから黙って待つにゃ」
「はーい……」
キョウカはしょぼーんとなりながら大人しくなった。
その後も時計を確認しながら車内で待っているが、一向に誰も来る気配がない。
「来ないなー……もう9時半を回りそうだけど……」
30分は早いか?
「大捕り物だからにゃー……ん?」
ミリアムが身を起こした。
「どうしたの?」
「しっ、何かの魔力を感じたにゃ」
ミリアムにそう言われたので外を見ながら身構える。
すると、奥の道から誰かが走ってくるのが見えた。
俺は目に魔力を込め、視力を上げると、注視する。
「教団の人間、かな……?」
その人は太った男であり、教会の司祭が着てそうないかにもな祭服を着ていた。
「だろうなー……」
「ふっ、それ以外に見えんな……」
ユウセイ君とキョウカもそう思うらしい。
「あれはスルーね」
「了解」
「あんなのを斬ってもなー……」
斬るなっての。
俺達がその男を見逃すと、男は高そうな高級車に乗り込み、猛スピードで駐車場から出ていってしまった。
「事故りそう」
ユウセイ君がちょっと笑いながら言う。
「かもね。それよりも一人目が来たと言うことは他にも来そうだ。いつでも出られる準備はしておいて」
「了解」
「わかった」
「というか、来たにゃ。今度は3人にゃ」
ミリアムが言うように奥から3人の男が走ってきていた。
そして、やはり車に乗り込み、急いで駐車場を出ていく。
「車はあと2台だね」
「車がなくなったらどうするんだ?」
ユウセイ君が聞いてくる。
「連絡があるまでは待機だってさ」
「最悪、このまま何もない可能性もあるのか」
「それでも300万円もらえるんだよ? ラッキー、ラッキー。打ち上げでもしようよ」
「ピザかー!」
ピザで良いんだろうか?
「また来たにゃ」
ミリアムが言うので奥を見ると、またもや祭服を着た男性が走ってきて車に乗り込んだ。
そして、駐車場から出ていく。
「あと1台か……ん?」
何だ、この魔力は?
「山田……来たぞ。悪魔にゃ」
ミリアムが教えてくれる。
「2人共、来たよ」
「ああ」
「さーて、仕事、仕事」
俺達は車から降り、奥を見る。
すると、奥から祭服を着た男がゆっくりと歩いてきていた。
「ほう……」
男が視認できる距離まで来ると立ち止まり、声をあげる。
男は頭頂部が薄く、小太りである。
年齢的にも若くはない。
はっきり言って、おっさんにしか見えなかった。
だが、かなりの魔力を持っていることがわかる。
「協会の退魔師だ。大人しくしろ」
ユウセイ君が男に告げる。
「こんなところにまで配置していましたか……しかし、スーツの男に高校の制服を着た男女……退魔師には見えませんね」
でしょうねー。
「本当に退魔師ですよ」
「いや、わかっています。魔力を見れば普通の人間じゃないことはわかりますからね。というか、そちらのお嬢さんは刀まで持っているじゃないですか」
こいつ、やけに冷静だな……
やはり悪魔か。
「あなたは悪魔ですか?」
一応、聞いてみる。
経験的に上級悪魔は普通に名乗るし、正体を明かしてくれる。
「はい。ディオンと申します」
残虐の悪魔ディオン……
この冴えないおっさんが名古屋支部を壊滅させた上級悪魔?
「残虐の悪魔ディオンか?」
「おや? あー……なるほど。愛を司る悪魔ロザリーがバラしましたか。ロザリーがそちらについたのは本当のようですね」
別にこっちについてないけどね。
「本当に残虐の悪魔ディオンか? 名古屋支部を壊滅させた?」
「見た目的に信じられませんか? まあ、そういうこともあるでしょう。ですが、本当ですよ。実に歯ごたえのない人達でしたね。人間がもろいのは知っていますが、もう少し鍛えるべきです」
こいつか……
「なんで悪魔教団に味方する?」
「呼ばれたからですかね? 特に理由はありません」
理由がない?
「理由もなく、人を殺すのか?」
「そうですね。別に何とも思いませんよ。もちろん、あなた方の怒りも理解できます。同族を殺されて何も感じない人は少ないでしょうからね」
やっぱりこいつも対話はできるが、話が通じない。
悪魔ってこんなのばかりなんだろうか?
「悪いが、祓わせてもらう」
「悪い? あなたは良い人ですね。そんなくだらない感情を持ってはいけませんよ。敵には冷酷に……そして、残虐に! ははっ!」
ディオンが笑うと、魔力が爆発的に増大した。
「上級悪魔か……」
「ははっ! 泣き叫んでもいいです。無表情でもいいです。ただ死ね。お前達の苦しみも悲しみも興味ない。ただ血が舞う姿を見せろ」
残虐、か……
人の感情に興味がないっぽい。
ロザリーが嫌うわけだ。
「祓わせてもらうぞ」
「どうぞ、どうぞ」
残虐のディオンがニヤリと笑った。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
今週末の11/9(土)に本作が発売となります。
キョウカはキョウカらしいですw
ユウセイ君がイケメンでしたw
ぜひとも、手に取ってもらえると幸いです。
よろしくお願いします!